不法行為と不当利得について徹底解説

不法行為

これまで計4回にわたって、契約に関する基礎知識を解説してきました。最後となる今回は、「不法行為」と「不当利得」について、それぞれ重要なポイントを徹底解説します。

不法行為とは

不法行為(民法第709条)とは、故意もしくは過失によって他人の権利や利益を侵害する行為を意味します。不法行為が成立した場合、加害者は被害者が被った損害を賠償する責任を負います。

たとえば、わき見運転により自動車で歩行者にケガをさせてしまうケースが不法行為に該当します。この場合加害者側は、歩行者がケガによって被った損害を賠償する責任を負います。

不法行為の成立要件

不法行為が成立するには、下記5つの要件を満たすことが必要です。

  1. 加害行為が違法である
  2. 被害者に損害が発生している
  3. 加害行為が故意または過失に基づくものである
  4. 損害と加害行為に因果関係がある
  5. 加害者に責任能力がある

上記の要件を満たしていない場合、不法行為は成立しません。具体的には、下記に該当するようなケースでは不法行為が成立しない可能性が高いです。

  • 違法行為により損害は生じたものの、加害者に過失がない
  • 損害と加害行為に因果関係がない
  • 加害者が精神障害を持っており、責任能力がないと認められる

不法行為の時効

不法行為による損害賠償の請求権は、時効を過ぎると消滅すると規定されています。民法第724条によると、不法行為の時効は「損害及び加害者を知った時点から3年間」もしくは「不法行為が行われた時点から20年間」です。

ただし、人の生命または身体を害する不法行為の場合は、「損害及び加害者を知った時点から5年間」もしくは「不法行為が行われた時点から20年間」となります。

不法行為に対して損害賠償を請求するには

実は、不法行為が成立しただけでは、損害賠償を請求することはできません。損害賠償を請求するには、被害者が不法行為であることを立証しなくてはいけません。

特に立証が困難なのは、「加害者に故意・過失があったこと」と「損害と加害行為に因果関係があること」の2点です。目撃者情報や防犯カメラの映像、資料などの証拠をできるだけ集め、故意や過失、因果関係があったことを証明しなくてはいけません。

不当利得とは

不当利得 (民法第703条)とは、法律上正当な理由がないにも関わらず、他人の財産もしくは労務によって利益を受け、それが理由で他人に損失を与えることです。受け取った不当利得は返還しなくてはいけません。

たとえば、商品を購入した際にお釣りを本来よりも多くもらったとしましょう。この場合、正当な理由がなく利益を受けているため、不当利得に該当します。そのため、もらいすぎたお釣りは売主側に返還する必要があります。

不当利得の返還請求を行う要件

下記4つの要件をすべて満たした場合、不当利得の返還請求を行うことが可能です。言い換えると、要件が満たされた場合は不当利得の取得者はそれを返還しなくてはいけません。

  1. 他人の財産または労務により利益を得た
  2. 他人に損害を与えた
  3. 利益と損害の間に因果関係がある
  4. 法律上の原因がない

以上の要件から、下記に該当するケースでは不当利得が成立しません。

  • 利益を得たものの損害との間に因果関係がない
  • 利益を得たものの損害を与えていない
  • 法律上正当な理由で利益を受け取っている

不当利得の時効

不法行為と同様に、時効を過ぎると不当利得の返還請求を行えなくなります。不当利得の時効は、債務不履行と同様に10年となっています。

不当利得の返還義務

前述したとおり、不当利得を受け取った場合は、それを返還する義務があります。しかし不当利得を受け取ったのが「善意」か「悪意」かによって、返還する金額は変わってきます。

善意により不当利得を受け取ったケース

善意とは、ある事実について知らないことを意味します。つまり、不当利得であることを知らずに受け取ったケースを指します。

この場合の返還義務については、民法第703条に記載されています。善意の場合は、「その利益の現存する限度(現存利益)」で不当利得の返還義務を負うとなっています。現存利益とは、取得したすべての利益から、使った部分や減失・毀損した部分を差し引いた残りの利益を意味します。つまり、遊びで不当利得を使ってしまった場合は、基本的に残った金額だけ返せば良いこととなります。

ただし、借金の返済や生活費の支払いに不当利得を使った場合は、「自身が持っている財産の減少を免れた」という点で利益が残ります。したがって、手元に現金がなくても現存利益はあると見なされます。

悪意により不当利得を受け取ったケース

悪意とは、ある事実について知っていることを意味します。つまり、不当利得であることを知った上で受け取ったケースです。

この場合の返還義務は、民法第704条に記載されています。悪意で利得を受け取った者に関しては、「その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償責任を負う。」と規定されています。

つまり、不当利得のすべてを返還するだけでなく、利息や賠償責任の支払いも発生するわけです。

まとめ

今回は、「不法行為」と「不当利得」について、それぞれの仕組みを詳しく解説しました。今回紹介した知識を知っておくと、ビジネスでの取引はもちろん、何気ない買い物でも役立つ場面が出てきます。

知らないと損する部分でもあるので、ぜひ頭の片隅にでも入れていただければと思います。

参考:民法 e-Gov

関連記事

ページ上部へ戻る