株式会社UKCホールディングスの優れた第三者委員会報告書

優れた調査報告書の解説:株式会社UKCホールディングス

第三者委員会が作成した調査報告書の中でも、とくに優れたものは「優れた調査報告書」として格付け委員会から表彰されます。今回の記事では、優れた調査報告書に認定された株式会社UKCホールディングスの調査報告書について、調査結果やスケジュール、高い評価を受けた理由などをくわしく解説します。

事件の概要

今回取り上げる調査報告書は、半導体商社の株式会社UKCホールディングスの連結子会社にて、売掛金の回収に関して適切な会計処理が行われていなかった問題に関するものです。

具体的には、香港にある連結子会社「UKC香港」において、取引先に対する前渡金に関連する売掛金の回収に関する会計処理が問題となりました。ちなみに前渡金とは、商品の購入に際して、事前に支払う前払い金を意味します。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

UKCの問題を調査した第三者委員会は、「事実関係の調査」、「本件と類似する問題の有無の調査」、「問題の原因究明」、「再発防止策の提言」の役割を担いました。

なお第三者委員会は、UKCホールディングスと利害関係を有しない以下3名の委員で構成されました。

  • 委員長:須藤 修(弁護士:須藤綜合法律事務所)
  • 委員:甲斐 淑浩(弁護士:アンダーソン・毛利・友常法律事務所)
  • 委員:千葉 通子(公認会計士:千葉公認会計士事務所)

第三者委員会の活動スケジュール

本件の発端となったのは、UKCグループの2017年3月の決算発表にさかのぼります。同社は決算発表を同年5月10日に行うために、準備を進めていました。その過程で、連結子会社である香港UKCにおける前渡金などの資産の評価を精査する必要性を認識しました。

そこで同社は、本件に関して社外専門家による社内調査を行う旨を、2017年5月10日に適時開示しました。その後社外専門家を交えた社内調査を行った結果、香港UKCの取引先に対する一部の前渡金に関連する売掛金の回収について、適切に会計処理がなされていない疑義が高まりました。

事態を重くみた同社は、同年5月30日に第三者委員会を設置し、本格的な調査に取り掛かりました。調査は約2ヶ月弱にわたって行われ、7月19日に第三者委員会が調査報告書を提出しました。

本件問題の発覚から、調査報告書が提出されるまでのスケジュールは以下になります。

  • 2017年5月10日 社外専門家による本件の社内調査を行う旨が適時開示される
  • 2017年5月30日 第三者委員会が設置される
  • 2017年7月19日 第三者委員会が調査報告書を提出

本件の調査方法

本件の疑義を明らかにするために、第三者委員会は社内調査資料の引き継ぎはもちろん、「総勢19人の関係者に対するインタビュー」や「デジタルフォレジック(メールや電子ファイルの閲覧)」、海外(香港)での現地調査などを行いました。

UKC香港の事務所や現地の取引先企業など、海外に出向いてまで調査を行っている点で、第三者委員会が最大限事態の究明に注力したことが見て取れます。

調査報告書で判明した事項

第三者委員会の調査で何が分かったのか

第三者委員会の調査報告書では、不適切な会計処理の詳細な概要と、当事者の認識がくわしく判明しています。

そもそもの発端となったのは、子会社(香港UKC)が取引先と行っていたLCDパネル(液晶パネル)の取引です。この取引で香港UKCは、当初順調に売り上げを得られていました。しかし突然、4,600万アメリカドル(現在のレートだとおよそ50億円)もの売掛金が滞留しました。簡単にいうと、50億円近い売り上げの回収が困難となったわけです。

本来売掛金の回収が難しくなった場合、会計のルールでは「貸倒引当金」という項目を計上する必要があります。しかし同社は、貸倒引当金の計上により業績が悪化することを恐れて、前払金を悪用して売掛金を回収したように偽装したとのことです。 第三者委員会の調査では、本社(UKCホールディングス)の副社長や管理本部や経理部門の管理職についている役職員が本件について認識していたことも発覚しています。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

UKCホールディングスは、第三者委員会による調査費用は明らかにしていませんが、本件不正による影響金額は公表しています。

同社が公表しているデータによると、本件の不正に関する損失は合計で約190億円とのことです。売掛金の回収が困難と見られる案件が複数見つかったために、莫大な金額まで損失が膨れ上がったと考えられます。

また、UKCの子会社による会計不正は同社の株価にも大きな影響を与えました。レスターホールディングス(UKCの現社名)の株価推移を確認すると、第三者委員会が調査報告書を提出した前日(2017年7月18日)の終値は1,897円でしたが、2日後の20日には1,692円まで下落しました。

全社的な会計不正であったために、投資家を含む社会全体からの信用を落とす結果になったようです。

本件問題の根本的な原因

調査報告書では、本件問題の根本的な原因として以下の項目が指摘されています。

  • 本社が香港UKCに対して売掛金の回収について強いプレッシャーをかけていた
  • 取締役会の機能不全
  • 海外子会社を管理する機能がない
  • コンプライアンスや内部監査部門が弱体化していた
  • リスク管理を軽視していた

調査報告書を読み解くと、本社がリスクを軽視してまで業績を維持・拡大することを最優先したことが大きな原因となったことが見て取れます。また、コンプライアンスや内部監査、子会社の管理についても十分に機能していなかった点も、歯止めが効かなかった要因として考えられます。

優れた調査報告書に選ばれた理由

UKCホールディングスに関する調査報告書は、優れた調査報告書として格付け委員会から高い評価を受けました。優れた調査報告書として選出された理由として、評価した委員は下記項目を挙げています。

  • 単なる事実究明に留まらず、不正に至るまでの経緯や当事者の意識が詳細に分析されている
  • 不正の具体的な手口が専門的な観点から分析されている
  • 本社経営陣の責任を明確にしている
  • 海外子会社の不正という調査が困難な課題に対して入念な調査を行っている

会計不正の具体的な不正や経緯などを専門的な観点から詳細に分析した点が、多くの委員から高い評価を受けていることがわかります。また、経営陣の責任をはっきりと認定している点も一定の評価を得るに至っています。

株式会社UKCホールディングスの報告書:まとめ

UKCホールディングスの会計不正は、会社全体で行われた組織的なものでした。そんな不正に関して、現地調査を含む詳細な調査と分析を行ったために、本件の調査報告書は優れた調査報告書として高い評価を得ました。

優れた調査報告書として選ばれるには、専門家による詳細な調査により、責任や要因、背景を明確にすることが求められると考えられるでしょう。

【参考文献】
優れた第三者委員会報告書の表彰について 優れた第三者委員会報告書表彰委員会
調査報告書 株式会社UKCホールディングス
(株)レスターホールディングス【3156】:株式/株価 – Yahoo!ファイナンス
当社連結子会社における会計処理に係る影響額に関するお知らせ 株式会社UKCホールディングス

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