理研ビタミンの中国子会社における第三者委員会の解説

理研ビタミン

今回の記事では、理研ビタミンの中国子会社におけるエビ加工品の取引に関する問題を事例に、特別調査委員会(第三者委員会)の活動内容や調査結果をお伝えします。

問題の背景

本件は、理研ビタミンの中国子会社「青島福生食品」のエビ加工品の取引について、実在性があるかどうか疑われた問題です。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件を調査した特別調査委員会(第三者委員会)は、事実関係の調査を目的に調査を行いました。

本件の調査は、下記4人の委員で行われました。なお調査を行なったのは特別調査委員会ですが、委員の過半数が外部の専門家で構成されているため、今回は第三者委員会として説明します。

  • 委員長:藤津 康彦(弁護士 森・濱田松本法律事務所)
  • 委員:那須 美帆子(公認会計士 PwC アドバイザリー合同会社)
  • 委員:竹俣 耕一(公認会計士 独立役員 理研ビタミン社外取締役監査等委員)
  • 委員:藤永 敏(独立役員 理研ビタミン社外取締役監査等委員)

第三者委員会の活動スケジュール

この項では、本件の疑義が生じたタイミングから調査報告書が提出されるまでの経緯をお伝えします。

事の発端となったのは、同社が2020年5月中旬にあずさ監査法人から、青島福生食品におけるエビの加工販売の取引について、取引の実在性を確認するための追加手続きを行う必要があると通知を受けたことに始まります。

また同年7月20日には、あずさ監査法人から追加手続きで取引の実在性を確認できるほどの証憑を入手できず、子会社側から協力を得られなかった旨を通知されました。

理研ビタミンでは、上記2つの通知を受けて、同年7月27日に第三者委員会を設置する旨を臨時取締役会において決議しました。調査はおよそ2ヶ月にわたって実施され、同年9月23日に調査報告書が提出されました。問題の発覚から調査完了までのスケジュールをまとめると以下の通りです。

  • 2020年5月中旬 あずさ監査法人から取引の実在性を確認する必要性がある旨の通知を受ける
  • 2020年7月20日 あずさ監査法人から取引の実在性を確認できなかった旨の通知を受ける
  • 2020年7月27日 第三者委員会が設置される
  • 2020年9月23日 調査報告書が提出される

本件の調査のポイント

本件の調査におけるポイントは、子会社から十分な協力を得られない状況下で行われた点です。具体的には、一部の資料提出やデジタルフォレンジックの実施、証憑類の提出などを拒否されたことが制約となりました。

そのような制約がありながら、第三者委員会は関係者へのインタビューや資料の精査などの調査を行い、事実の究明に努めました。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の調査では、取引の実在性の有無が判明しました。

第三者委員会によると、中国子会社は原料であるエビを仕入れ、それを加工したものを他の会社に販売する取引を行なっていました。この取引について、下記の理由から実在性が疑われました。

  • 異様なペースで取引が拡大していた
  • 販売先企業(A社)の実質的な経営者が法律上の代表者と異なる可能性があるなど、実態が見えにくい
  • A社に対する売掛金回収サイトが約1ヶ月と、他の販売先と比べて著しく短い
  • A社から中国子会社に対して端数のない入金があった日と同日または翌日に、同額もしくは近似の金額が子会社から原材料の仕入れ先に支払われた痕跡がある

調査を行なった結果、中国子会社から信用に足りる資料の提出がなかったことから、本件の取引について実在性があったとはいえないとの結論が下されました。

第三者委員会の調査によって生じた費用・影響

理研ビタミンは、第三者委員会の調査で生じた費用に関しては明らかとしていません。ただし、実在性がないと認められた取引に関する売上原価(120億円)を特別損失として計上するとのことです。同社の従来予想では46億円の黒字であったため、これにより赤字になることが予想されます。

また、第三者委員会の調査報告書が公表されたことで、業績のみならず株価にも影響が及びました。調査報告書が公表された当日(2020年9月23日)の終値は2,236円でしたが、翌日には終値が2,146円まで下落しました。

他の要因が影響した可能性は否定できないものの、今回の不正により同社の株価に悪い影響が及んだ可能性は十分考えられるでしょう。ただし、海外子会社で行われた事案である上に、完全に悪意ある会計処理であるとは言えないため、社会的な信用力を落としたとまでは言えません。

根本的な原因

調査報告書を読み解くと、本件の根本的な原因は「グループ全体でのガバナンス体制の不備」であると言えます。具体的に見ると、下記に挙げた部分が今回の問題につながった原因であり、同時に解決すべき課題となります。

  • 中国子会社で適切な証憑を作成・管理することが徹底されていない
  • 中国子会社に内部管理体制が整っていない
  • コミュニケーションの不足
  • 指揮系統命令やBCPが明確でない

理研ビタミンの第三者委員会報告書:まとめ

本件で確認したように、ガバナンス体制に不備があると、子会社などで不正や隠蔽が生じやすくなります。こうした問題を防ぐには、日々ガバナンス体制の充実を図る必要があるでしょう。 また、調査を行う第三者委員会には、単なる事実解明のみならず、ガバナンス体制をどのように改善すべきか指針を明確に打ち出し、再発防止をサポートすることが求められると考えられます。

【参考文献】
特別調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ 理研ビタミン
理研ビタミン、一転最終赤字78億円 20年3月期 日本経済新聞
理研ビタミン(株) Yahoo!ファイナンス

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