日本交通技術の優れた第三者委員会報告書
- 2020/6/4
- 第三者委員会
第三者委員会報告書格付け委員会という機関は、今後作成される調査報告書のお手本とする目的で、優れた調査報告書を表彰しています。今回は、その中から「日本交通技術株式会社」の調査報告書について解説します。
事件の概要
今回表彰された調査報告書は、日本交通技術株式会社による外国政府関係者に対するリベート問題を取り上げたものです。
具体的には、ベトナム、インドネシア、ウズベキスタンの3ヵ国の鉄道建設に関するコンサルタント業務の受注に際して、各国の政府関係者に対してリベートを払っていたことが問題となりました。
リベートとは、ビジネス上の取引で支払われる手数料や割戻し金を意味します。今回のケースでは、外国人政府関係者に支払う手数料(賄賂)としての意味で、リベートという用語が用いられています。 ただし、このリベートの仕組み自体に違法性はありません。
本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント
本件の第三者委員会の役割と委員選定
本件で第三者委員会は、事実認定と原因の究明、再発防止策の提言といった役割を担いました。
第三者委員会は、下記3名の弁護士により構成されました。
- 委員長:國廣 正 (弁護士:国広総合法律事務所)
- 委員:竹内 朗(弁護士:プロアクト法律事務所)
- 委員:西垣 建剛(弁護士:ベーカー&マッケンシー法律事務所)
第三者委員会の活動スケジュール
第三者委員会は、2014年3月20日に発足されました。そして調査はおよそ1ヶ月に渡って行われ、同年4月25日に調査報告書が提出される運びとなりました。
【経緯】
2014年3月20日 第三者委員会の発足
2014年4月25日 第三者委員会による調査報告書の提出
本件の調査方法
日本交通技術のリベート問題に取り組んだ第三者委員会は、関係者へのヒアリングやPCなどのデジタル調査、ホットラインの設置により事実関係の調査を行いました。
本件は、現金の手渡しにより行われていたため、事実を確認することが困難でした。そこで当委員会は、合計で98万通にもおよぶメールの分析や、同社の役職員に対して延べ90時間ものヒアリングを繰り返し行い、可能な限りリベートの事実確認に努めました。
調査報告書で判明した事項
第三者委員会の調査で何が分かったのか
調査報告書では、各国政府関係者に対するリベートの詳細と、リベートに対する役職員の認識が明らかとなりました。
まず、各国政府関係者に対するリベートの詳細についてお伝えします。ベトナムの案件については、2009年12月頃から2014年2月までの間に、合計で66,000,000円ものリベートが行われたことが判明しました。
次にインドネシアについては、2010年から2013年までの間に合計で3つの案件にてリベート取引が行われたとのことです。3つの案件によるリベートの金額を合計すると、26,772,500円に相当します。
そしてウズベキスタンについては、2012年から2014年までの間に合計で2つの案件にてリベート取引が実施されました。日本円に換算すると、およそ73,000,000円ものリベートが行われたとのことです。
なお役職員については、リベートをダメだと分かっていても行ってしまったことが調査報告書にて述べられています。リベートを拒否すると案件を受注できなかったり、その後の仕事に支障をきたすリスクがあったために、止むを得ずにリベートに手を染めてしまったとのことです。
第三者委員会の調査とその影響で生じた費用
同社は株式を非公開にしているため、本件の問題による調査費用や業績への影響は明かされておりません。しかし、同社の前社長や取締役が在宅起訴されているなど、間接的な影響は非常に大きなものとなっています。
なお、株価に対する影響についても、非公開企業であるため明らかとなっていません。
本件問題の根本的な原因
調査報告書では、本件の根本的な原因として下記を挙げています。
- 海外案件の受注拡大に向けて、意地でも案件を獲得する必要性の存在
- 国際部業務がブラックボックスとなっており、他の取締役が実態を把握できなかった
- 十分にリスクを検討せずに海外進出を図っていた
- コンプライアンス体制の不備
十分にリスクを検討せずに、業績を伸ばす必要性から海外進出を図った結果、リベートを断るに断れない状況に自ら陥ってしまったことが根本的な原因であると言えます。また、リベートの要求に対して対処する施策や体制が整えられていなかった点も原因として指摘されています。
優れた調査報告書に選ばれた理由
冒頭でもお伝えしたとおり、本件の調査報告書は「優れた調査報告書」として表彰を受けています。ではなぜ、優れた調査報告書に選ばれたのでしょうか?
優れた調査報告書に選ばれた理由として、評価した委員は下記の点を指摘しました。
- 現場での担当者のみならず、経営者の責任についても追求している
- 「仕事を受注しないと会社が倒産する」という中小企業の生々しい実態を取り上げている
- 直接的な証拠がないリベート取引について、入念に調査することで事実認定に漕ぎ着けている
- 海外進出のリスクを深堀し、他の企業が対策を講じる上で参考となる
- ベトナム政府や東京地検特捜部を動かすほどの影響力を持っている
単なる事実認定に留まらず、根本的な部分の原因を特定しつつ、同社の今後のみならず海外進出を図る企業全体にとって参考になる改善策を提示している点が高く評価されていると言えます。
日本交通技術の優れた第三者委員会報告書:まとめ
今回は、日本交通技術株式会社のリベート問題に関する調査報告書を取り上げました。
中小企業の抱える生々しい実態を踏まえつつ、直接的な原因が残っていないリベートを徹底的に追求した点で、本件の調査報告書はお手本とも言える事例です。
事実を認定し「仕方ない」と終わらせるのではなく、具体的な対策を提示しているからこそ、優れた調査報告書として表彰されたのです。
【参考文献】
・優れた第三者委員会報告書の表彰について 優れた第三者委員会報告書表彰委員会
・第三者委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ 日本交通技術株式会社