インド「OYO」の賃貸事業、ヤフーが合弁解消 -合弁解消するとどうなるの?

合弁解消するとどうなるの?

はじめに

2018年7月、ヤフー (現ZHD) とOYO(オヨ、本社インド)が合弁会社「OYO TECHNOLOGY & HOSPITALITY JAPAN株式会社」を設立しました。
OYOは、ITを活用した不動産ビジネスを世界8ヶ国で展開する急成長のグローバル企業で、ソフトバンクグループからも出資を受けています。

設立2018年7月31日
社名OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN 株式会社
本社東京都千代田区大手町一丁目1番2号大手門タワー
資本金非公開
出資比率OYO Hospitality Limited(英国)66.1%
ヤフー(株)(現・Zホールディングス(株))33.9%

新会社の事業は不動産賃貸サービス「OYO LIFE」の運営で、敷金、礼金、手数料0円で、生活に必要な「家具」や冷蔵庫・洗濯機・エアコンなどの「家電」が揃っている物件を商品化し、PCやスマートフォンなどを使い契約から支払いまでの手続きが完了できる、ITを利用した革新的システムの不動産賃貸サービスです。

2019年3月から「OYOLIFE」のサービスをスタートし順調に滑り出したかのように見えたのですが、同年11月に突然合弁を解消し周囲を驚かせました。

合弁事業、合弁会社とは

合弁事業とは、かつては外国資本と自国資本が共同出資し「合弁会社」を設立し共同事業(合弁事業)を行うことを指していましたが、現在は国内企業同士が共同出資する場合も含まれ「ジョイント ベンチャー」とも呼ばれます。
出資比率は、合弁会社の経営に対する親会社のイニシアチブの度合いによって、4パターンに集約されます。

自社保有株式経営に関する権限(※契約等で異なる定めがある場合は除く)
33.4%〜49.9%会社の運営は相手企業に委ねるが、経営上重要な事項の決議には拒否権を持つ
50%会社の運営及び経営上重要な事項については話し合いで決定する

※権限の所在が曖昧になるので、相手企業との信頼関係や良好なコミュニケーション体制がなければ難しい
50.1%〜66.6%会社の運営は自社が主導権を持つが、経営上重要な事項については相手方の同意が必要
66.7%〜社の運営から経営上の判断まで全て自社単独で決議できる

合弁事業の目的及びメリットは?

合弁事業を行う目的は主に次の4つに集約される出しょう。

1.「技術」「製品」「顧客」「ノウハウ」などの補完

新規事業分野の開拓、或いは新規市場に参入する際に、自社に足りないモノを有する企業と連携することは、事業展開のスピードを速める効果が期待できます。

2.リスク分散

スケールが非常に大きいプロジェクトの場合、運営体制の構築や費用負担を複数企業で行うことにより、リスク分散ができるとともに業務の分担も可能になります。

3.シェア拡大

新しい事業領域で確実にシェアを拡大する為に、競合企業同士であっても合弁事業を行うケースがあります。潰し合いよりも、確実な成功を選択した為です。

4.シナジー効果

異なる文化を持つ企業同士が一緒に事業を行うことで刺激し合い、新規事業の創出や新製品開発などのシナジー効果が期待できます。

合弁会社の事例

デンソーとトヨタ

次世代の車載半導体の研究および先行開発

将来のモビリティ社会に向けて、トヨタがデンソーの新会社に参加する形で、車載半導体の研究および先行開発を行う合弁会社の設立を4月に予定しています。

デンソーはより強固な研究・開発体制の構築を行う為にトヨタの持つモビリティ視点での知見を得ることができ、トヨタは最先端の半導体技術を自社のモビリティサービスや 車両開発に企画段階から取り入れることで、さらなる技術革新が可能になります。

設立2020年4月(予定)
社名MIRISE Technologies
本社愛知県⽇進市⽶野⽊町南⼭500-1(デンソー 先端技術研究所内)
資本金5000万円
出資比率デンソー51%、トヨタ49%

ソフトバンクグループの SB C&Sと アイティメディア

■IT製品を選択・導入する際に役立つ製品レビューメディア事業

SB C&Sは、ソフトバンクグループの法人向けIT市場の大手ディストリビューター。アイティメディアは同じソフトバンクグールプのインターネット専業のメディア企業で、ITとその周辺領域では国内最大級メディアです。

合弁会社は、技術の進歩に伴い急拡大するIT関連市場に向け、日本で初めてのビジネスソフトウェア向けレビュープラットフォーム「ITreview」を2018年10月より開始しました。評価が難しい様々なテクノロジーの中から、最適な技術を選択するする指標になる可能性があります。

これによって、SB C&Sはビジネスソフトウェアに関する情報をいち早く入手することができ、アイティメディアはIT分野でのメディアとしての地位を強固なものにするメリットがあります。

設立2018年4月2日
社名アイティクラウド株式会社
本社東京都港区東新橋1丁目9番2号
資本金15,000万円
出資比率SB C&S株式会社:60%
アイティメディア株式会社:40%

資生堂とAura Beaute Indonesiaグループ

■インドネシアで資生堂ブランドを展開

インドネシアはASEAN加盟国中1位、また世界でも4位という約2億5,000万人の人口を擁し、今後も人口増や富裕層の拡大が見込まれる有望市場です。

「Shiseido Professional」ブランドは、2013年12月よりインドネシアでの事業を開始し、サロンオーナーから絶大な支持を得ています。

同ブランドが今後も高い成長性が見込まれることから、資生堂はインドネシア市場において強力な販売力を有するAura Beaute Indonesiaグループと合弁会社を設立することにより、事業基盤を一層強固にできるメリットがあり、Aura Beaute Indonesiaグループはプレステージクラスの顧客を囲い込むことができるメリットがあります。

設立2015年6月26日
社名PT Shiseido Professional Indonesia
本社EightyEight@Kasablanka Tower A
Lantai 28 Unit E, J1. Casablanca Kav. 88,
Kel. Menteng Dalam, Kec. Tebet Jakarta Selatan 12960
資本金30,000,000,000インドネシアルピア
出資比率資生堂:65%
Aura Beaute Indonesiaグループ:35%

合弁事業 と 共同事業のどちらが良いか?

主力事業のコラボレーションのような場合には、合弁会社設立という形をとらずに共同事業を展開することも少なくありません。ビックカメラとユニクロが共同で店舗展開する「ビックロ」などがその良い例で、両者ともに既存事業の延長線上で新しいチャレンジを行っています。

しかし、今まで手がけたことの無い新しい領域の事業であったり、知見の少ない未開拓地域でビジネスを行ったりする場合には、合弁会社を設立し事業を推進する方が、命令系統が明確になり、経営判断のスピードも速くなるので、IT分野のように変化のスピードが速い分野には適していると思われます。

OYOとヤフーの合弁解消後は?

合弁事業の利益分配や損失負担は出資比率に基づいて行われるのが一般的ですが、1991年にソフトバンクが米国のペロー・システムズ社と出資比率50:50で設立したジョイントベンチャーを解消する際に、「こちら側に運営の実質的な責任がある」と感じた孫正義氏は、総額10億~20億円をかけて損失を100%負担するとともに、ペロー・システムズ社の保有する株式を買い取りました。

相手企業のトップとの信頼関係、自分のプライド・信念を重視した判断ですが、誰にでもできる訳ではありません。しかし、ときにはこのような判断は後の成功につながることもあります。

OYOとヤフーの合弁解消は、ヤフー(現ZHD)が保有しているOYO LIFEの株式を全てOYOグループが買い取り100%子会社化し、ヤフー関連企業から出ていた役員は全員が退任することで完了したと伝えられています。

OYO LIFEのスタート当初は、室数の確保や事前予約も多く順調な滑り出しのように見えていたのですが、住民からのトラブルが相次ぎ、稼働率も思うように伸びなかったことから、ヤフーが描いていた事業プランと乖離し始め、早期の合弁解消という経営判断を下したのでは無いでしょうか。

まとめ

合弁事業の場合には単独で事業を行うよりも事業計画の確度が高くなるはずですが、事業の運営権を握っている企業の見通しが甘い、或いはオペレーションが不完全という場合には事業計画のスピードが大きく狂ってしまいます。

特にITを利用した新しいビジネスモデルの事業については、いかに早くトップシェアを握りその事業分野の「スタンダード モデル」になるかが成否を分けてしまうことはGAFAの事例を見ても良く分かります。

ですから、IT系企業にとっての合弁事業は「トップに駆け上がるまでのスピードが最大の命」なのかもしれません。

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