コロワイドのTOBから学ぶ友好的・敵対的TOBとは?
- 2020/10/20
- 法令コラム
2020年9月9日 外食大手のコロワイドは、同年7月10日より実施していた大戸屋ホールディングスのTOB(株式公開買付け)が成功したと発表しました。
同日、コロワイドは大戸屋HDに対し、経営体制一新のため山本匡哉氏を除く現取締役全員の解任と、コロワイドが推薦する取締役候補者7名の選任を目的とする臨時株主総会の開催を請求。
当初は友好的な資本・業務提携か買収を希望していたコロワイドですが、なぜ大戸屋HDに対し敵対的TOBに踏み切ったのでしょうか。
今回は、コロワイドのTOBの経緯を通じて、友好的TOB・敵対的TOBついて考えてみたいと思います。
TOBとは
TOB(Take Over Bid)は「株式公開買付」のことで、買付け価格、期間、株式数などを公告し対象会社の株主に直接働きかけ、証券取引所を通さずに買い付けることを言います。
一般的にTOBの買付価格は「プレミアム」と呼ばれる金額が上乗せされるため、対象会社の株主は市場で売るよりも得になり、買付側では市場で株式を買い集めるよりも一定の資金で多数の株式が買い集めやすいメリットがあります。
目的は企業買収、合併、子会社化などが挙げられますが、それによって出資者の不利益とならないように法令に従って行わなければなりません。
友好的TOBと敵対的TOB
TOBは当事会社の関係によって友好的TOBと敵対的TOBに分かれます。「友好的TOB」とは、買収対象となる会社の経営陣の同意を得たうえで実施されるTOBで、「敵対的TOB」とは、買収対象会社の経営陣や関連会社の同意を得ずに行われるTOBのことをいいます。
外食大手のコロワイド
株式会社コロワイドは1963年に設立、1977年に手作り居酒屋「甘太郎」逗子店を開店。その後、多店舗化を進めながら鎌倉、大阪、浦和などにセントラルキッチンを設置し2002年には東京証券取引所第一部に上場しました。
M&Aを繰り返しながら成長・拡大し、現在では「牛角」や「かっぱ寿司」をはじめとする居酒屋、レストラン、ファストフード、カラオケなど、20を超えるブランドの運営により、グループ売上は2020年3月期で2,353億円になります。
定食の大戸屋
株式会社大戸屋ホールディングスは、「日本一の定食屋」をスローガンに、1958年東京池袋に「大戸屋食堂」を開店、1983年に株式会社大戸屋を設立、2001年株式を店頭登録、2010年大阪証券取引所に上場しました。
フランチャイズ店及びタイ・台湾・インドネシア・香港などの海外出店を含めると2019年3月末で463店舗、グループ会社8社、海外フランチャイズ4社、グループ売上は2020年3月期で246億円になります。
どこで敵対的TOBに発展したのか
TOBの手順は次の4ステップからなりますが、実際には公開買付開始公告の前に様々な事前交渉が行われ、その結果で「友好的TOB」が「敵対的TOB」が決まります。
- 公開買付開始公告と公開買付け届出書の提出
- 売主の意見表明報告書の提出と回答
- 公開買付説明書の交付
- 公開買付報告書の提出
創業家からの株式買付
この話は、2019年6月にコロワイドが創業家から大戸屋HD株式の売却に関する打診を受けたところから始まります。
コロワイドは以前から興味があった「大戸屋」のブランドバリュー、メニュー、顧客を高く評価しており大戸屋グループとの協業も視野に、発行済み株式の18.67%を買付けることを決断し大戸屋HDの筆頭株主となりました。
さらに、2019年11月13日には創業家から買付けた株式に加え、市場で購入した分も合わせ保有株式は19.16%に増加。
大戸屋HDへ協業の提案
コロワイドは、今後の外食産業の見通しを考えると、人件費や物流費の増加、 食材価格の高騰、顧客ニーズの多様化など、厳しい経営環境が予想されるため大戸屋グループとの協力が必要と考え建設的な協議を大戸屋HDに提案。
2019年10月25日に大戸屋HDを訪問し、コロワイドグループと大戸屋グループの協業のメリットについて以下の6項目を説明しました。
- 仕入条件の統一によりコストの削減
- コロワイドグループのセントラルキッチンの活用
- 物流拠点の相互活用・物流効率改善を図る
- 上記3項目による増加収益の大戸屋グループ事業への還元
- 新店立地・業態転換候補の共有
- 給食事業への進出
協業からM&Aへ
コロワイドは協業を前提として大戸屋HDに働きかけを行ってきましたが、2019年11月21日に説明を受けた大戸屋グループの「経営改善計画案」について、合理性のある計画ではなく業績回復は期待できないと判断しM&Aに切り替えたようです。
友好的TOBから敵対的TOBへ
そして、12月27日に実施したコロワイドの野尻社長と大戸屋HDの窪田社長との面談で友好的M&Aによるコロワイドグループへの参画を再び打診しましたが、経営の独自性の維持を理由に友好的M&Aは拒絶され、敵対的TOBへと進み始めることになります。
ここから先の経緯は次の通りです。
4月14日 コロワイド、大戸屋HDの経営陣の変更を目的とした株主提案を表明
同日、大戸屋HD、コロワイドの株主提案に反論
5月25日 大戸屋HD、コロワイドの株主提案に反対表明
6月25日 大戸屋HDの株主総会でコロワイドの株主提案を否決
7月 9日 コロワイド、大戸屋HDのTOBを開始
※買付け価格:1株 3,081円(直近3ヶ月の平均株価2,173円)
7月20日 大戸屋HD、コロワイドのTOBに反対を表明し敵対的TOBに発展
8月14日 大戸屋HD、経営の自力改善策の一つとして食品宅配大手の「オイシックス・ラ・大地」と業務提携を発表
9月 8日 コロワイド、大戸屋HDのTOB成立を発表
コロナ禍がコロワイドの判断を急がせた?
コロワイドは、2012年の焼き肉チェーンの「牛角」を始めとして回転ずしの「かっぱ寿司」や「フレッシュネスバーガー」などを買収し事業を拡大してきましたが、それらは友好的買収によるものでした。
しかし、コロワイドが大戸屋HDとの協業を前提とした交渉をする中、新型コロナウイルスの感染拡大によって両者とも売上を大きく落としてしまいます。
コロワイドの4〜6月の売上は前年同期の52%にまで落ち込み、最終損益は約42億円の赤字。そこで、196店舗の閉店を決定するとともに、商品力の強化や仕入・物流の合理化などを推進し、特に業績の回復に「給食事業」の展開を加速させる必要に迫られます。
病院や介護施設への給食の提供を強力に推進するために、大戸屋グループの知名度や定食のノウハウを出来るだけ早期に手に入れたいと考えるのは自然の流れでした。
一方、大戸屋HDにおいては2017年から連続3年間売上が前年を割り続け、4〜6月の売上はコロワイド同様に前年同期の52%にまで落ち込み、最終損益は約15億円の赤字となり、抜本的な経営改善が急務となっていました。 まさにコロナ禍が友好的な協業に必要な、両者の話し合いの時間を奪ったかのようにも見えます。
まとめ
TOBはお互いに納得し友好的に行うのが望ましいのですが、合理的な考えでM&Aを繰り返し成長してきたコロワイドが、創業の精神と伝統を守りながら独自経営によって成長してきた大戸屋に対して友好的TOBを実施するのは、たとえコロナ禍がなくても難しかったのかもしれません。
文化の異なる企業間のM&Aは、時間をかけて信頼関係を醸成することが何よりも大切ではないでしょうか。