かっぱ寿司社長ら、はま寿司の営業秘密を不正取得の疑いで逮捕 不正競争防止法についても解説

2022年9月30日、はま寿司の営業秘密を不正に持ち出したとして、かっぱ寿司社長らが不正競争防止法違反の容疑で逮捕されました。

そこで、田辺社長らがなぜ逮捕されたのか、営業秘密の不正取得と不正競争防止法との関係も含めて解説します。

事案の概要

2022年9月30日、「カッパ・クリエイト」の田辺公己社長(46)や同社幹部、田辺社長の元部下のはま寿司社員について、警視庁が逮捕状を取りました。容疑の内容は、営業秘密領得などの不正競争防止法違反となっています。

カッパ・クリエイトは、回転ずしチェーン大手「かっぱ寿司」を全国に約300店舗を展開する会社です。1973年に創業し、横浜市西区に本社を構えています。従業員は約790人です。

田辺社長らには、競合の回転ずしチェーン「はま寿司」の仕入れに関するデータを不正に持ち出し、はま寿司の営業秘密を侵害した疑いがかけられています。

「逮捕状を取る」とは?

報道では、「警視庁が逮捕状を取った」という表現が多く用いられています。これは刑事訴訟法上、通常逮捕をするために必要な逮捕状を警察官等が請求し、その請求が認められた結果、逮捕状が発布されたことを意味します。つまり、いつでも逮捕ができる状態になった、ということです。

田辺社長らは、逮捕状を取ったとの報道がなされた30日夕方ごろ、実際に逮捕されました。

田辺社長はどんな人物?

田辺社長は、1998年に東海大学開発工学部を卒業後、ゼンショー(現ゼンショーホールディングス)に入社し、2014年から2017年まではま寿司の取締役を務めていました。

ゼンショーホールディングスは、はま寿司やジョリーパスタなどを子会社に有している外食最大手です。田辺社長は、ジョリーパスタ代表取締役も務めていました。

その後、2020年11月にカッパ・クリエイトへ移り、2021年2月には同社の社長に就任しました。

田辺社長は、はま寿司において売上高を伸ばすことに成功したといわれます。そのため、2010年代前半以降業績が低下していたカッパ・クリエイトの経営を立て直すべく、田辺社長が引き抜かれたとみられています。

なぜ逮捕されたのか?

田辺社長は、2020年9月30日ごろ、ゼンショーホールディングスにおいてはま寿司の商品原価や食材の使用量などに関する内部情報を不正に取得し、同11月1日にカッパ・クリエイトに移った後、同9日ごろに商品企画部長にデータをメールで送信するなどした疑いがかけられています。

この内部情報の持ち出しが不正競争防止法2条6項の「営業秘密」の不正取得などに当たり、同法に違反するため、逮捕に至ったとみられています。

本件の焦点は、はま寿司の仕入れ価格などの情報が、不正競争防止法の「営業秘密」に当たるかどうかになります。

不正競争防止法とはどんな法律?

不正競争防止法は、同法1条にその目的が規定されています。

不正競争防止法1条
「この法律は、事業者間の公平な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」

つまり、資本主義の根幹である公正な競争を保護すべく、違反行為やそれに対する措置を規定した法律が不正競争防止法です。

この法律に違反した場合には、民事上の差止請求や損害賠償請求、刑事上の罰則がなされるおそれがあります。

営業秘密を不正取得するとどうなるか?

不正競争防止法は、「営業秘密」について定義を規定しています。その定義を踏まえつつ、今回の事件における「営業秘密」とはどのような情報なのか、それを不正取得するとどのような規定に違反するのかについて、罰則も含めて説明します。

不正に持ち出されたはま寿司の「営業秘密」とは?

まず、「営業秘密」の定義を規定している2条6項を確認しましょう。

不正競争防止法2条6項
「この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている清算方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。」

すなわち、同法上の「営業秘密」に当たるには、①秘密管理性、②有用性、③非公知性の3要件を満たす必要があります。

①秘密管理性が認められるには、情報が秘密であることの認識のみならず、保有者が秘密として管理しようとする意思が必要です。

②有用性が認められるには、設計図や実験データなど、事業活動にとって客観的に有用であることが必要です。

③非公知性が認められるには、一般的に知られていない状態にある、又は容易に知ることができない状態にあることが必要です。

本件においては、持ち出されたはま寿司の商品原価や食材の使用量などに関する内部情報が、これら3要件を満たすかが重要な争点となるでしょう。

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どのような行為が不正競争防止法に違反するのか?

不正競争防止法は「不正競争」を禁止しています。「不正競争」には、有名な商品や会社の名前を勝手に使用して販売する行為や、営業秘密を侵害する行為、また品質などについて誤認させるような表示をする行為などがあります。

本件では、田辺社長らがはま寿司の仕入れに関する情報を不正に取得したと疑われています。そのため、不正競争防止法2条1項4号〜9号の規定する営業秘密の侵害に当たるとして、違反するとみられています。

ここでは細かい条文は挙げませんが、気になる方は以下より法令を参照ください。

不正競争防止法に違反した場合どうなるのか?

不正競争防止法に違反した場合、民事上と刑事上のそれぞれにおいて、措置が取られるおそれがあります。

民事上では、民法の規定する損害賠償請求のほか、不正競争防止法で差止請求(3条)や損害賠償請求(4条)、信用回復措置請求(14条)などが規定されています。刑事上では、懲役や罰金などの刑事罰(21条、22条)が規定されています。

不正競争防止法3条1項(差止請求)
「不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。」
不正競争防止法4条(損害賠償請求)
「故意または過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。(後略)」
不正競争防止法14条(信用回復措置請求)
「故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の信用を害した者に対しては、裁判所は、その営業上の信用を害された者の請求により、損害の賠償に代え、又は損害の賠償とともに、その者の営業上の信用を回復するのに必要な措置を命ずることができる。」
不正競争防止法21条1項(個人の罰則)
「次の各号にいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」
不正競争防止法22条1項(法人の罰則)
「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。」

このように、不正競争防止法に違反した場合には、違反した者に対する措置のほか、法人に対しても罰則が適用されるおそれがあります。実際、本件では田辺社長に加えて、カッパ・クリエイトも書類送検されています。

過去には、東芝の半導体メモリーの研究データが不正取得された際、法人に対する罰金の上限が3億円から10億円に引き上げられており、罰則が強化されました。

法律による罰則に加え、社会的なイメージの低下も無視できません。田辺社長ら逮捕の報道がされた2022年9月30日、カッパ・クリエイトの株価は、前日終値から一時6%超下がったことがわかっています。

営業秘密を不正取得して問題となった事例

先程も少し触れましたが、秘密漏洩による被害を防ぐべく、不正競争防止法違反の罰則を強化する要請が強くなっています。転職等が容易になることによる人材の移動の活発化に伴い、企業の秘密情報の漏洩リスクが高まっているためです。

以下では、これまでに営業秘密を不正取得して問題となった事例の一部を紹介します。

東芝の半導体メモリーの研究データ漏洩

2014年、東芝の半導体メモリーに関する研究データを、提携先の元技術者が無断で複製し、転職先の韓国企業に漏洩したことがわかりました。

この事件は、罰則を強化する一つの契機となりました。事件の翌年である2015年、窃取した情報を海外で使用した際の法人に対する罰金について、上限が3億円から10億円に改正されました。

積水化学工業の機密情報漏洩

2020年、積水化学工業の自社技術の機密情報を、積水化学工業の元社員が不正入手し、中国企業にメールで提供したことが発覚しました。

中国企業は、ビジネス向け交流サイトを通じて元社員に接触し、導電性微粒子の情報を提供するように勧誘したとみられています。

ソフトバンクの5Gに関する技術情報の不正持ち出し

2021年、ソフトバンクの5Gに関する技術情報を不正に持ち出したとして、ソフトバンクから楽天に転職した元社員が摘発されました。

2021年、営業秘密の侵害に関して検挙された事件数は、過去最多になっていると警察庁が発表しています。

まとめ

・田辺社長らは、はま寿司の仕入れ価格などの営業秘密を不正取得したとして、不正競争防止法違反の疑いで逮捕されました。

・不正競争防止法に違反した場合、差止請求や損害賠償請求を受けるほか、懲役や罰金などの刑事責任を負うおそれがあります。

・人材の流動化が活発化している現代において、企業は内部者による情報の流出・漏洩について厳しい対策を講じる必要があります。

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情報過多の現代では、情報漏洩対策は必須です。日ごろからアンテナを張って備えましょう

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