酒の安売りはなぜ規制されるのか?健全な価格競争を国が規制する本当の理由

価格競争を国が規制する本当の理由

企業努力による商品の値下げは、企業間の正当な競争を促す要因です。消費者の側から見ても、商品を安く購入できる点で値下げは歓迎すべきものです。

そんな値下げですが、お酒に関しては国の法律によって安売りが規制されています。今回は、酒の安売りが規制される本当の理由を解説します。

酒の安売り規制とは

酒の安売り規制とは、2017年6月から施行された「改正酒税法」と「改正酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」によって規定された項目です。

具体的には、著しく低い価格での安売りを行うことを禁止しています。この規制に従わない場合、行政指導の対象となり、最悪の場合販売免許が取り消される可能性もあります。

参考:酒税法 e-Gov

独占禁止法との違い

そもそもお酒に限らず、商品を不当な安さで販売することは独占禁止法の第2条9項3号(不当廉売)で禁止されています。

では、独占禁止法と今回の法改正にはどのような違いがあるのでしょうか?最も大きな違いは、不当に安いと判断される価格の水準です。

独占禁止法では、酒類の販売に要する「可変的性質を持つ費用」を下回る価格で販売することが禁止されます。可変的性質を持つ費用とは、人件費などの固定費とは違い、仕入れ原価や製造原価などの供給量に応じて変動する費用を意味します。
一方で今回の改正酒税法等では、仕入れや製造に要した原価に人件費などの費用を加えた「総販売原価」を下回る価格で販売することが禁止されています。

つまり独占禁止法と比べると、今回の法改正の方が酒の安売り規制基準が厳しいわけです。

参考:酒類の公正な取引に関する基準に関するQ&A 国税庁 酒税課

酒の安売りが規制された理由

では一体、なぜ酒の安売りは法律によって規制されているのでしょうか?酒の安売りが規制されている主な理由として、下記2つの理由が考えられます。

中小小売店の利益を保護するため

酒の安売りが規制されている最も大きな理由は、中小小売店の利益を保護するためです。

大手のスーパーや量販店は、一度に大量のお酒を仕入れて販売します。メーカー側にとっては、一度にたくさんの酒類を購入してもらえる点でメリットがあります。そのため業界内では、大量仕入を行ってくれたスーパーや量販店に対して、リベートと呼ばれる手数料を支払うことで、購入代金の一部をスーパーや量販店に戻す慣習がありました。

つまり大手のスーパーや量販店にとっては、大量仕入により通常よりも安く酒類を仕入れることができます。この仕組みがあるため、安く仕入れて安い値段で販売し、より多くの顧客を獲得できます。また、大手のスーパーや量販店は、酒類以外にも多くの商品を取り扱っているため、安い酒類などを購入しに来た顧客に、他の商品を購入してもらうことで利益を補填できます。

一方で中小の小売店は、資金力や販売力がないため、一度に大量の酒類を仕入れることが困難です。安く仕入れることができないため、大手スーパーなどとは異なり、安く酒類を販売する手段が使えません。

その結果、価格面で魅力のある大手スーパーなどに顧客を取られ、業績低下や廃業に追い込まれる中小の小売店が出てくるのが現状でした。 中小の小売店が続々と廃業する事態は、経済面から見ても好ましくありません。そこで事態を重く見た政府が、法改正によって酒の安売りを規制したという背景もあるのです。

酒税による税収を確保するため

酒の安売りが規制されたもう一つの理由は、酒税による税収を増やすためです。

今では所得税や法人税などの税収が日本を支えていますが、明治30年代前後まではあらゆる税金の中で最も税収が多いのは酒税でした。しかし近年は、酒税の金額が減少傾向にあります。特に平成6年以降は、右肩下がりに酒税の税収が減少しています。

そんな酒税の税収を再び増やす目的で、酒の安売りが規制されたとも考えられます。酒の安売り規制が行われたことで、中小小売店でお酒を購入する人が増える可能性があります。そうなると、国全体で酒税による税収が増加します。

実際に税収が増加するかは分からないものの、国税庁の資料にて今回の法改正の目的に「酒税の確保」と明言されていることから、税収確保の目的が背景にあると言えるでしょう。

参考
酒税が国を支えた時代|租税史料特別展示|税務大学校|国税庁
酒税に関する資料 : 財務省

酒の安売りはなぜ規制されるのか?:まとめ

酒の安売り規制は、企業間の公正な競争を阻害するとして、各所から批判が来ているのも事実です。実際商品の価格が上がると、消費者にとってもあまり嬉しいことではないでしょう。

とはいえ、税収確保や中小企業の保護という良い側面もあります。実際に効果が出るかは不透明ですが、今後業界内で大きな変化が見られる可能性は高いので注目です。

関連記事

ページ上部へ戻る