コロナ禍による失職・減収で家賃が支払えないときの対処方法~住まいを失わないために知っておきたい重要ポイント
- 2020/4/7
- 法令コラム
新型コロナウイルスの感染が全国的に拡がり、都市封鎖や非常事態宣言の発令などを求める声もあがる状況になり、あらゆる経済活動が停滞しています。そのため、失職や収入の大幅減少といった深刻な状況に陥る人も今後増加していくものと思われます。
特に賃貸物件を借りている人にとっては、収入が絶たれれば家賃の支払いも困難となるので、問題はより深刻といえます。この記事を読んでいる人の中にも「立ち退きを迫られる」ことに不安を感じている人もいるのではないでしょうか。
そこで、今回は、コロナ禍(か)が原因で家賃を支払えない場合の立ち退きの要否という点について、法律の基本的な考え方や実際に家賃が払えなくなった場合の対処法についてまとめてみました。 「もうダメだ・・・」と諦めてしまう前に、この記事を一読してみてください。
コロナ禍が原因で「家賃を支払えない」ときにやってはいけない対応2つ
この記事を書いている時点では、コロナ禍が収束する見通しは全くたっていません。世界的な規模であらゆる活動が停滞状況に向かいつつあるなかで、自分の暮らしにも不安が生じれば、どうしても不安な気持ち、弱気な考えになってしまいがちです。また、目先の問題を何とか解決しなければと気持ちばかりが焦ってしまうこともあるでしょう。
「家賃を支払えない」ということは、ほとんどの人にとって大変重大な問題ですが、それでも、一連のコロナ禍を原因とするケースにおいては、以下のような対応は絶対にすべきではないと思われます。
- 自分から賃貸借契約の解除を申し出る
- 借金して家賃を工面する
居所を失えばコロナ感染のリスクも増大する
家賃が支払えない以上、自分から賃貸借契約の解約を申し出る(自ら部屋を立ち退く)ことは、平時であれば家主に対する最も誠実な対応といえます。しかし、新たな仕事を見つけることも難しいこの状況で住む家を失えば、親族・知人などの支援を受けない限り、住居の目処をつけることも困難といえるでしょう。
いわゆる「ネカフェ難民」とよばれるような状況に陥ってしまえば、それこそ見ず知らずの他人と密閉空間で接触するリスクを増やすことになるのでとても危険です。
借金で家賃を工面しても返済のアテがない
カードローンやクレジットカードのキャッシングなどで借金をして家賃を工面する方法も、今回のケースではとても危険です。なぜならお金を借りても返済できる見通しが立たないケースの方が多いと思われるからです。
カードローンやクレジットカードのキャッシングには、高い金利が付されます。また、家賃の支払いにも窮している状況では、「今後の備え」という名目で必要以上の借金をしてしまうリスクも高いでしょう。そもそも、収入が途絶えた状況ではローン審査にも通らないことの方が多いといえます。「何とかお金を工面したい」と「嘘の収入」を申告して借金してしまった場合には、万が一の場合(借金が返せずに自己破産をする場合)に不利になってしまう可能性も高くなります。
債権者を騙して借り入れた借金があるときには、自己破産をしても免責が認められない可能性があるからです。仮に、免責が認められたとしても、詐欺的な借金がある場合には、必ず破産管財人を選任して手続が進められるため、自己破産をするにも高額な費用(弁護士費用込みで50万円以上)が必要となります。
コロナ禍を原因とする家賃滞納なら強制退去が認められない可能性も
驚く人も多いかもしれませんが、今回のコロナ禍を原因として家賃が支払えないという場合には、「家賃を滞納したまま居座る」というのが最も正しい対処方法といえます。家主とは毎月家賃をきちんと支払うという約束(契約)を交わしている以上、「家賃を払わずに住み続ける」ことには心理的な抵抗感を感じる人もいるかもしれませんが、今回のコロナ禍は一種の災害(緊急事態)といえますので、致し方ない部分があるといえます。
また、このような対応は、法律の解釈としても成り立たないわけではありません。以下では、このことについて順を追って解説していきたいと思います。
賃貸借契約を解約するための要件
賃貸借契約の解除について、最初に抑えておくべき重要なポイントは、アパートやマンションなどの賃貸借契約は、当事者双方の同意がある場合を除いては「簡単には解約できない」ということです。
民法などの法律に明文化されているわけではありませんが、法実務の上では、賃貸借契約を一方的に解除するためには、「契約解除が相当と認められるだけの特別な事情」がなければならないとされています。この考え方のことを「信頼関係破壊の法理」とよんでいます。
信頼関係破壊の法理とは
信頼関係破壊の法理は、昭和27年4月25日に言い渡された最高裁判所の判例(最(2小)判昭和27年4月25日民集6巻4号451頁)に基づく考えです。
この判決のうち特に重要な部分は、下記に引用するとおりです。
およそ,賃貸借は,当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから,賃貸借の継続中に,当事者の一方に,その信頼関係を裏切って,賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあった場合には,相手方は,賃貸借を将来に向って,解除することができるものと解しなければならない
最(2小)判昭和27年4月25日民集6巻4号451頁
※太字は筆者
さらに、最高裁判所は、昭和28年にこの信頼関係破壊の法理が無断転貸による法定解除(民法612条)のケースにも適用されることを判示し、さらに昭和39年には、賃料滞納(債務不履行)による解除のケースについても当てはまるとの判断を示しています。
つまり、「家賃の滞納があっても信頼関係の破壊されていると判断できる客観的な事情」がない限りは、家主からの一方的な契約解除はできないというのが裁判上のルールとなっているわけです。
コロナ禍を原因とする家賃滞納と信頼関係の破壊
ここまで解説してきた判例法理を「コロナ禍を原因とする家賃滞納のケース」に当てはめてみたいと思います。
ここでのポイントは、「コロナ禍のために収入が途絶えた(減少した)ことが原因で家賃を滞納してしまった」ということが、家主との信頼関係を破壊するに足りる事情がどうかということです。 家賃滞納が信頼関係の破壊に足るべき事情となるかどうかについて、最高裁は次のような判断を示しています。
土地賃貸借関係における賃料不払の場合に、なお信頼関係を破壊するものとは認められない特段の事情があるかどうかの認定判断にあたっては、賃貸借期間の長短、賃料不払の程度、右不払に至った事情その他当該賃貸借関係における諸事情の一切を考慮すべき
最(2小)判昭和57年11月19日集民137号495頁 ※太字は筆者
つまり、上の最高裁の判断に従えば、「コロナ禍というやむを得ない事情によって家賃滞納に至った」ということは、信頼関係破壊の有無の認定において、当然に考慮されるというわけです。
コロナ禍によって仕事を失った(収入が途絶えた・減少した)ことは、予期することも困難(回避不能)で、賃借人にも落ち度のないやむを得ない事情といえますから、通常は、賃借人にとって有利に(コロナ禍による家賃滞納では信頼関係は破壊されない)判断される事情といえます。
また、家賃の滞納期間についても、コロナ禍が収束し社会情勢が安定するまで(収入がコロナ禍以前に回復したといえるまで)の期間であれば、長期になっても信頼関係破壊に足りる事情とはいえないという判断になる可能性もかなり高いといえるでしょう。
解約の通知にも事前予告が必要
以上のように、コロナ禍を原因とする家賃滞納のケースでは、これまでの判例法理に基づく限り、家主からの一方的な賃貸借契約の解除は難しいといえます。
さらには、家主が賃貸借契約を解除する旨の意思を通知するためには、そのことについての事前予告(催告)が必要であると考えられます。
なぜなら、最高裁判所は、昭和43年に、次のような判断を示しているからです。
家屋の賃貸借契約において,一般に,賃借人が賃料を一箇月分でも滞納したときは催告を要せず契約を解除することができる旨を定めた特約条項は,賃貸借契約が当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係であることにかんがみれば,賃料が約定の期日に支払われず,これがため契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には,無催告で解除権を行使することが許される旨を定めた約定であると解するのが相当である。
最(1小)判昭和43年11月21日民集22巻12号2741頁
※太字は筆者
したがって、何の前触れもなしに家主から突然賃貸借契約解除(立ち退き)の通告をされることを心配する必要もないといえます。
また、契約時に敷金を差し入れているのであれば、滞納分は敷金から充当されることになりますので、契約問題が深刻化する時期はさらに先延ばしされることになります。
コロナ禍が原因で家賃を支払えないときの対処方法の基本
ここまで解説してきたことを前提に、実際に「コロナ禍が原因で家賃が支払えなくなった場合にどのように対処すべきか」ということについてもまとめておきたいと思います。
基本的な対応は、以下の3点です。
- まずは家主(管理会社)に相談
- 公的支援制度利用の可否を検討する
- 弁護士などの専門家に相談
できるだけ早く家主に相談・報告
家賃が支払えない可能性が高いときには、できるだけ早い時期に家主(管理会社)に相談(報告)することが最も基本的な対応です。賃貸借契約は賃貸人(家主)と賃借人との信頼関係を重視する以上、「できる範囲で誠実な対応に努める」ことが重要といえるからです。
また、家主に相談・報告する際には、集められる範囲・わかる範囲でかまわないので、「コロナ禍が原因で収入が減った(なくなった)こと」の資料を提示したり、「今後の見通し(実家などに移れる余地があればそのために必要な期間など)」について説明をしてあげるとよいでしょう。家主さんとしても、多少であっても情報があれば、今後の見通しを立てる際の参考となるからです。
特に、コロナ禍以前から家賃の支払い状況に問題を抱えていたようなケースでは、より慎重・誠実な対応をすることが大切といえます。すでに信頼関係が破壊されている状況にあったというケースでは、コロナ禍の影響の有無を問わず賃貸借契約の解除が(裁判所に)認められる可能性も否定できないからです。
公的支援制度の利用を検討する
会社の倒産などによって失職してしまった場合には、家賃を工面するための公的支援制度が用意されています(住宅確保給付金)。コロナ禍が原因で会社倒産した、解雇されたというケースでも、この住宅確保給付金を利用すれば、家賃相当額(ただし上限額の設定あり)を原則3ヶ月(さらに最大3ヶ月まで延長可)受給することができます。
また、この住宅確保給金に今回のコロナ禍対応としての特例措置を設けることについての議論もなされているようなので、失業・解雇に至らずとも、大幅減収になったようなケースでも利用が認められるようになるかもしれません。
住宅確保給付金制度は、市区町村単位の管轄になっていて上限額なども地域によって異なりますので、まずは、お住まいの地域の自治体(福祉・生活支援窓口)や社会福祉協議会などに相談してみるとよいでしょう。
【参考】住宅確保給付金(横浜市ウェブサイト)
万が一の場合には速やかに弁護士に相談
万が一、家主から契約解除(立ち退き)などを求められたときには、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。追い詰められたときこそ、自分1人で問題を抱え込まないことが大切です。
「弁護士に相談するには費用が必要」と躊躇してしまう人も多いと思いますが、手持ちのお金がないというケースでも弁護士に相談する方法が閉ざされているわけではありません。
たとえば、手取り月収額と保有資産が一定額以下の人であれば、法テラスで無料の法律相談を受けることができます。
また、コロナ禍を原因とする家賃不払い問題については、強い関心を示している弁護士も数多く存在します。TwitterなどのSNSで支援に応じる意思を表明している人もかなり見受けられます。そのような弁護士に直接コンタクトを取れば、無料相談(無料での受任)などにも応じてもらえる可能性もゼロではないでしょうし、貧困問題を支援しているNPO法人などに相談をしてみるのも、よい弁護士をみつける上では有効な方法といえます。
コロナ禍による失職・減収で家賃が支払えないときの対処方法:まとめ
収入源は生活に直撃する大きな問題です。人は、生活に不安を感じればどうしても焦ってしまいますし、ネガティブな思考にも陥りやすくなってしまいます。
特に「毎月の家賃を支払う」ということは、ほとんどの人にとって「当たり前の約束事」であるだけに、「何とかしなければいけない」と思い込んでいる人も多いかも知れません。
しかし、ここまで解説してきたように、コロナ禍が原因に家賃が支払えなくなった場合には、家主の一存だけでは賃貸借契約を解約できない可能性が高いといえますので、慌てて対処することはリスクの方が高いといえます。
「契約したことを守る」というのは確かに法律の世界では当たり前のことですが、法律は「不可抗力の出来事」に対して無慈悲というわけではありません。収入が途絶えることはとても辛いことではありますが、諦めずに、専門家に相談してみることが何よりも大切といえるでしょう。