電子契約による契約業務のペーパーレス化
- 2020/8/6
- 法令コラム
ペーパーレス化の推進とともに少しずつ電子契約サービスの導入が増えてきています。電子契約とは、紙文書でやり取りしていた契約書の電子化を行うとともに、合意前の交渉及び合意後の保管、保存といった契約に関わる業務をペーパーレス化することです。
紙の契約書で行なっている署名や押印の代わりに、電子契約では電子署名とタイムスタンプの付与を行います。電子契約で作成された文書の受け渡しはインターネット経由で行われ、PDFなどの電子文書としてサーバーやクラウドストレージに保存されることになります。
電子契約を行うことによって、契約書を必要部数印刷して、製本、押印、郵送、控えを返送してもらうといった面倒な作業と時間を省略することが可能です。また、電子文書による契約では、印紙は不要ですので、コストダウンにも繋がります。さらに、電子文書ですのでコンピューターを使って検索すれば、お目当ての契約書をすぐに探し出すことも可能です。
電子契約の導入が増加している背景
電子契約が普及している背景には、上記のような利便性やコスト削減、ペーパーレス化へのニーズがあります。さらに、偽造や改ざんを防止し安全に電子契約を実現するための技術力が向上したことも関係しています。しかし、一番は、基盤となる法律が整備されたことによる影響が大きいのではないでしょうか。電子契約関連の法律の中で、特に重要な法律をご紹介します。
電子帳簿保存法
電子帳簿保存法は、1998年に制定され、2016年、2017年と相次いで改定されている法律です。一定の要件を満たせば、見積書、契約書、注文書、契約書といった国税関係書類を電子データで保存することを認めています。
認定タイムスタンプ、マニュアルの備え付け、画面とプリンターでの内容の確認、複数条件での検索性の確保といった要件をクリアすれば電子契約で作成された電子文書もデータでの保存が可能です。(詳しくは、国税庁の「電子帳簿保存法Q&A」をご確認ください)
電子署名法
電子署名法は、2001年4月1日に施行された法律です。一定の要件を満たせば、電子署名が手書き署名や押印と同等の法的有効性をもつことと規定しており、電子契約の根幹を形成する法律とも言えます。
e-文書法
e-文書法は2005年に制定されました。それまで紙文書での保存を義務にしていた法令に対し、一括で電子データでの保存を認める法律です。電子帳簿保存法と似ていますが、電子帳簿保存法は国税関係書類のみを対象としているのに対して、e-文書法は保存が義務つけられている全ての文書を対象としています。
印紙税法
印紙税法では、印紙税が課される課税文書や納税義務者、税金などが定められています。印紙税法だけでは、電子契約で作成された契約書が課税文書か非課税文書かはっきりわかりません。
しかし、内閣総理大臣の国会答弁において、「これまで専ら文書により作成されてきたものが電磁的記録により作成されるいわゆるペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこと」と回答され、電子契約で作成された電子文書は課税対象ではないと明確になりました。
訴訟時の電子契約の法的抗力
そもそも契約書は、「言った、言わない」の争いを避けるために作成するものです。そこで気になるのが、電子契約サービスで作成した電子文書が裁判の証拠として有効かどうかです。
民事訴訟法228条4項に「私文書は、本人またはその代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定する」という規定があり、署名はまたは押印が法的証拠として有効とされてきました。
電子署名の場合にも、電子署名法第3条で「電磁的記録であって・・・、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と定めているため、法的証拠として有効とみなされています。
公益社団法人日本文書マネジメント協会(JIIMA)「電子契約活用ガイド」を参照
電子契約サービスを利用する場合の注意点
電子契約をクラウド環境で提供するサービスが充実してきています。電子証明書の発行から契約書の締結・管理をワンストップで行えるもの。不動産、建築業界といった特定の業界に特化しているもの。発注側のみに料金が課金されるもの。というように、提供内容も様々です。
どの電子契約サービスを使えばいいか、判断基準が難しいかもしれません。まずは、以下のリストに従って、情報収集してみてはいかがでしょうか。
- 電子契約サービスを構成する仕組み(基盤)は何か(PKI 方式、独自仕様)
- 利用する証明書の種類、取得方法はどうなっているのか
- 契約書締結プロセスの進捗管理機能はあるか
- 締結済みの電子契約ファイルの検索・閲覧・他文書との関連付けなど文書管理機能はあるか
- 料金の設定、何が(契約数、ユーザー数、ファイル容量、期間など)課金の対象となっているか
- 一括送信や一括署名など大量作業の効率化機能はあるか
- ヘルプデスクなどの利用支援設定はあるか
- 他システムとの連携の容易さはどうか
- 登録済みの契約書、付帯情報のダウンロードはできるか
- スマホやタブレットでの利用ができるか
- 多言語対応となっているか
出典:公益社団法人日本文書マネジメント協会(JIIMA)「電子契約活用ガイド」
電子契約による契約業務のペーパーレス化:まとめ
電子署名やタイムスタンプといった技術的基盤や法的基盤が整うことにより、電子契約の導入が増加しています。電子契約サービスを利用することにより、郵送代や印紙代などのコスト削減、時間短縮、ペーパーレス化の推進が期待されています。
電子契約を利用することは、メリットばかりなのですぐに導入したいと思うかもしれません。しかし、契約は相手があることなので、取引先にも電子契約サービスを利用することに同意してもらわなければいけません。そのためにも、安全で使いやすいサービスを選ぶ必要があるのではないでしょうか。
参考資料
印紙税の課税対象は書面の文書だけという内閣総理大臣の国会答弁
電子帳簿保存法Q&A(電子計算機を使用して作成する帳簿書類及び電子取引関係)
公益社団法人日本文書マネジメント協会(JIIMA)「電子契約活用ガイド」