M&Aにおける法務デューデリジェンスで行われること
- 2022/9/21
- 法令コラム
M&Aの件数が右肩上がりで増加し続けている昨今、それに合わせて、企業価値の算定に欠かせない法的な権利状況などを洗い出す法務部門の役割も急増しています。
今回は、M&Aにおいて法務部門が主役となる法務デューデリジェンスについてその目的や役割について解説していきます。
M&Aにおける法務デューデリジェンスの目的
法務デューデリジェンスとは、買収対象の会社の株主状況をはじめ、契約関係や許認可、労務状況や訴訟の有無などをチェックし、法的なリスクを洗い出すために実施される調査のことをいいます。
法務部門がメインとなり、弁護士などの外部専門家とチームを作り進めていきます。
たとえば、買収した企業の契約書に以下のような条文が書かれていることがあります。
「甲が合併、株式交換若しくは株式移転を行った場合又は甲の株主が全議決権の3分の1を超えて変動した場合等、甲の支配権に実質的な変動があった場合には、乙は本契約を解除することができる。」
このような条項は「チェンジオブコントロール(COC:Change of control)条項」と呼ばれており、M&Aなどによる大きな資本の変動が伴う場合には契約を解除できるとするものです。
この条項が入っている契約書は、買収後において契約を解除されてしまうリスクが伴うので、法務デューデリジェンスを行う際に洗い出しておかなければならない契約書のうちのひとつとなります。
M&Aによる買収を行う目的のひとつに、自社事業の拡大をはじめとする自社とのシナジー効果を期待するものがありますが、もし、買収企業の主要取引先との取引契約にこういった条項が入っていた時には契約解除のリスクがあるため、もしかしたら今回の買収によって得られると期待されているシナジーが得られないのではないかという視点を持つ必要があります。
想定していなかった契約内容が発覚した場合はM&A自体を取りやめるか、買収金額を減額するといった手段を取ることを検討します。
M&Aにおける法務の役割と特徴
法務担当者は、法務デューデリジェンスにおいて上記のような支配権に関する規定だけでなく開発契約において知的財産に関する規定がどのようになっているか、業務委託契約が下請法などの法律に違反するものでないかといった具体的な契約書の内容チェックを行います。加えて、内容だけでなくその契約書などに基づき発生した債権債務の支払い状況をチェックします。支払われるべき対価が支払われていなかったり、予想外の債務が発覚したりというケースもあるので支払い関係を管理する部門に照会をかけながら進めることになります。
また、労働契約に基づいた給料が支払われているか、労働問題を抱えていないかといった労務関係のチェックも行います。現在や過去に労働訴訟を起こされていないかといったことをチェックする役割も担います。そして、それに伴い、会社自体の規定整備や、ハラスメントの有無など、法令を遵守しているかといったコンプライアンス体制についても確認をします。
法務担当の役割はそれだけではなく、会社法をはじめとする法律に従って株式が発行されているか、誰にどのくらいの比率で発行されているか、譲渡がされている場合は株主名簿がどのようになっているかといった株式関係のチェックも行います。
つまり、法務担当者が法務デューデリジェンスを行う際は、事業の現場レベルの視点から、会社の機関という全体像を見るという経営レベルの視点まで持つ必要があります。
実務の流れ
実際の法務デューデリジェンスでは、以下の流れに沿ってプロジェクトを進めていきます。
1.資料の開示請求
このフェーズでは、買収対象企業にどういった資料を出してもらうかを選定します。
定款や株主リスト、提出してもらう契約書などを選定します。
2.内容の精査
提出された資料の中身を精査します。
3.マネジメントインタビュー
提出された資料を精査した際に、ヒアリングが必要と判断した事項について実際にヒアリングを行います。
4.現地調査
実際に会社を訪問し、提出された資料に基づいた運用がされているか、実際の書類はどのように管理されているかといったことを調査します。
5.報告書の作成
すべての調査が終わると、それを報告書にまとめ、経営層に提出します。
まとめ
今回は法務デューデリジェンスを行う目的や役割と、その際に法務担当者が気をつけなくてはいけないポイントを解説しました。まだ経験されたことがない方はM&Aのプロジェクトに関わるときがきたらこの記事を思い出してみてください。