ブルドックソース事件の経緯を専門家が解説!敵対的買収から会社を守るために何ができるのか?

敵対的買収

ブルドックソース事件とは、2007年に東証二部上場企業のブルドックソース(株)が、当時筆頭株主だったアメリカの投資ファンド スティール・パートナーズの関連会社「Steel Partners Japan Strategic Fund SPV II LLC」(以下、スティール・パートナーズ)の敵対的買収に合い、防衛に成功した事件です。

※買収される企業と買収する企業が同意の上で行う企業買収は「友好的買収」、同意が無く一方的に行われる企業買収が「敵対的買収」です。

ブルドックソースの行った買収防衛策の一つである「ポイズン・ピル」は、我が国では始めての実例であり、最高裁判所が適法と認めたという点で新たな扉が開かれた事件となりました。

そこで、本事件の経緯を整理するとともに、敵対的買収に対する予防策、防衛策を詳しくご説明します。

ブルドックソー ス事件の経緯

ブルドックソース事件が最終決着するまでの2007年5月16日から8月7日までの経緯を、時系列に整理すると次のようになります。

BD:ブルドックソース(株)

SP:スティル・パートナーズ

5月16日 BDがSPから株式公開買付(TOB)の実施に関する書面を受領
 18日 SPがBD株式の全株取得を目指しTOBをスタート
 25日 BDがSPに対しTOB成立後の経営方針などについての質問を提示
6月6日 BDがSPによる書面による回答を受領
  7日 BD経営陣はSPの回答が不十分であり、株主共同の利益の毀損につながる可能性があるとしてTOBに反対の意見を表明
 13日 SPはBDの取締役に対する新株予約権無償割当の決議禁止、及び新株予約権の発行差し止めを求め東京地裁に仮処分の申し立てを行う
 24日 BDは定時株主総会でTOBへの防衛策として新株予約権無償割当に関する議案を提出し、圧倒的多数の賛成を得て可決される
 28日 東京地方裁判所は、BDの新株予約権無償割当の差し止めを求めるSPの申立てを却下
7月 9日 東京高等裁判所は、東京地方裁判所の判決を不服として行ったSPの即時抗告を棄却
 11日 BDはSPに対し新株予約権無償割当による買収防衛策を発動
8月 7日 最高裁判所は、東京高等裁判所の判決を不服として行ったSPの特別抗告・許可抗告を棄却

ブルドッグソースが行った新株予約権無償割当の内容

新株予約権は、筆頭株主であるスティール・パートナーズにも当然割当てられましたが権利行使できないなどの条件が付いていました。 ブルドックソースが行った新株予約権無償割当による買収防衛策(ポイズンピル)ののポイントは次の4点です。

  1. 株式1株につき3個の割合で、新株予約権を割当てる
  2. 新株予約権1個の行使で、普通株式1株を1円で交付する
  3. スティール・パートナーズは「非適格者」として新株予約権は行使できない
  4. スティール・パートナーズの新株予約権は1個につき396円(TOB価格の1/4)を交付しブルドックソースが取得する

この決定は、1.株主平等の原則に反するのではないか、2.経営陣の保身を目的とした不公正発行に該当しないかという点が問題となりますが、最高裁判所はどちらにも該当しないと判断し、スティル・パートナーズの抗告を棄却しました。

買収防衛策の3原則

買収防衛策を行うには3つの原則に従って行わなければなりません。 法務省は2005年5月27日に出した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」の中で示した「買収防衛策の3原則」は次の通り。

  1. 企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則
  2. 事前開示・株主意思の原則
  3. 必要性・相当性の原則

企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則とは

買収防衛策は特定の利害関係者を守るために行うのではなく、会社の財産・収益力・安定性・成長力などを包含する「企業価値」、ひいては「株主共同の利益」の維持・向上のために行うということです。

ブルドックソース事件のケース

ブルドックソースは、スティール・パートナーズがTOB成功後の経営方針や投下資本の回収方法などを明確にしなかったことから、企業価値を毀損し、ひいては株主共同の利益を損なうと判断しました。

事前開示・株主意思の原則とは

買収防衛策の内容を事前に開示することで株主などが先の見通しを立てられるようにするとともに、株主の意思を確認するために株主総会の承認を得た上で導入することです。

ブルドックソース事件のケース

ブルドックソースはTOBに反対する意向を明示した上で、スティール・パートナーズも含めた株主総会の特別決議で議決権総数の83.4%の賛成を得て可決されたことから、事前開示・株主意思の原則はクリアしていると考えられます。

必要性・相当性の原則とは

買収防衛策は本当に必要な場合に行うものであり、その内容は相当であり過剰なものとしないことです。

ブルドックソース事件のケース

ブルドックソースの防衛策は業価値及び株主共同の利益を守るために必要であり、新株予約権の買付価格もスティル・パートナーズの損失とならないように1個につき396円としています。

新株予約権の割当てにより株式数が4倍になると、株価は理論上1/4になります。スティル・パートナーズの買付価格1,584円は、TOB前の平均株価にプレミアムを加算したもので、TOBが成功しても1,584円の1/4を大幅に上回る可能性は低く、ブルドックソースの買い戻し価格396円は妥当な金額と考えられます。

敵対的買収の予防策

ここからは敵対的買収に対する予防策をご紹介してゆきます。

ライツプラン(ポイズンピル=毒薬条項)

米国では買収防衛策の代表格で、あらかじめ既存株主に新株予約権を付与し買収者が一定以上の株式を取得すると、毒薬条項(ポイズンピル)と呼ばれる条項に基づき発動(権利行使)されるものです。新株予約権(ライツ)を付与するところから「ライツプラン」とも呼ばれています。

ブルドックソースのケースは、TOBへの反対を表明し行われたもので「事前警告型ライツプラン」と呼ばれています。

黄金株(拒否権付種類株式)の発行

黄金株とは、株主総会において会社の合併や取締役の選任・解任などの重要議案に対し拒否権がある種類株式のことです。

この黄金株を一部の友好的株主に付与しておけば、敵対的買収が成功しても買収者の議案を否決できるので安定経営が可能となり、また黄金株の存在は投機を目的とした買収者の買収意欲を低下させることにもなります。

ゴールデンパラシュート/ティンパラシュート

買収後に役員や従業員が解任・解雇された場合、退職金などを高額に設定することで企業価値を低下させ、敵対的買収の抑止力とする手法です。

役員の退職金などを高額にする手法を「ゴールデンパラシュート」、従業員を対象にした手法を「ティンパラシュート」と呼びます。

プット・オプション

支配権が変わるなど一定の事由が生じた場合に、株主や債権者に対し株式の買い取りや一括弁済の請求権を与える手法です。

買収後にこの請求が有ると多額の資金が必要となるため、敵対的買収の抑止力になります。

チェンジ・オブ・コントロール条項

合弁契約やライセンス契約などで、契約当時者の支配権が変わった場合に契約内容の制限や契約解除・見直しなどができる条項を盛りこむことで、敵対的買収の意欲を低下させる手法です。

非公開化/MBO、LBO

株式の非公開化を行うことで買収ができなくする防衛策で、マネジメント・バイアウト(MBO)、レバレッジド・バイアウト(LBO)などの手法があります。

MBOは会社の経営陣が自社の株式を買取り非公開化する手法です。

LBOは、他の企業を買収する際にターゲットとする企業の資産や将来の収益性を担保に金融機関から資金を調達し買収する手法ですが、本件ではこの手法を応用し自社の株式を買取し非公開化します。

敵対的買収に対する防衛策

敵対的買収にあった場合の防衛策には、友好的な第三者と連携して行う手法や、自社の企業価値を低下させる手法などがあります。

友好的な第三者と連携する

第三者割当増資

株式の販売先を自社で決定できる「第三者割当増資」によって、友好的な企業に新株を引き受けてもらい、買収者の持株比率を低下させる手法です。

ホワイトナイト

友好的な第三者に買収者よりも高い価格でTOBをかけてもらう、あるいは第三者割当増資を引き受けてもらうことにより買収者を退ける手法で、友好的な第三者を白馬の騎士になぞらえて「ホワイトナイト」と呼ばれています。

第三者との株式交換

友好的な企業との間で株式を交換し敵対的買収を阻止する手法です。

企業価値を低下させる

焦土作戦(クラウン・ジュエル)

買収者が狙っている資産や事業の売却、あるいは多額の負債引受けで、企業価値を低下させ買収意欲を削ぐ手法です。

焦土作戦とは、敵に奪われる地域の武器や施設を焼き払い使わせなくすることですが、この手法を使うと自社にも大きなダメージが残ります。

資産ロックアップ

重要な事業や資産を市場価格以下で、敵対的買収など一定の場合に取得できる権利を友好的な第三者に付与し買収意欲を削ぐ手法です。

その他の買収防衛策

敵対的買収に対する防衛策はこれまでご紹介してきた手法以外にも、マスコミを利用し買収者の弱点や問題点などのネガティブイメージを宣伝し社会的信用を低下させる「ジューイッシュ・デンティスト」、買収企業に対し逆に買収を仕掛ける「パックマン・ディフェンス」、役員の改選時期をずらす「スタッガードボード」などさまざまなものがあります。

敵対的買収から会社を守るために何ができるのか?:まとめ

最近でも大戸屋の筆頭株主であるコロワイド(株)のTOBがマスコミを賑わせていますが、敵対的買収全てがネガティブな結果を招くものではありません。

敵対的買収によって、時代に合わない経営陣の交代や買収者の傘下に入ることで、グループ企業との相乗効果が生まれ企業価値がさらに高まる可能性もあります。

しかし、買収する企業の将来を見据えた経営方針を持たず、投機などの短期的な利益獲得を目的する敵対的買収に対しては何らかの対策が必要です。

その際には、防衛策を講じた後の企業価値の低下や支配権の移動などの影響も十分考慮して手法の選択を行うことが重要です。

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