失敗が多い本店移転登記を詳しく解説
- 2020/6/12
- 法令コラム
登記とは、取引しようとする第三者の安全を図るため、重要な情報を事前に確認できるように一般公開する制度です。会社についても、商号、事業目的、役員、資本金、本店所在地 などが登記によって一般に公開されています。
そのため、本店所在地が変更になった場合には、本店移転登記の手続きが必要になりますが、会社の本店は定款記載事項なので、移転先によっては株主総会の特別決議の承認を得て、取締役会で決議しなければならない場合もあります。
但し、定款変更が不要なケースや、移転先に同一の社名(商号)の会社が存在し登記できないケースなども稀にあります。また、本店移転登記が法令で定められている期間以内に行わなければ、会社の代表者個人に対する罰則が適用される可能性もあります。 そこで、今回は「本店移転登記」について失敗しないように、様々な角度からわかりやすく解説します。
事前に必要な3つのチェック
本店移転登記を進めていて、途中で手続きの変更が必要になる事態を避けるために、次の3つのチェックを事前に行いましょう。
商号のチェック
「商標」は、特許庁に登録されている商標と同一又は類似する場合には、国内のどこであっても使用できませんが、「商号」は会社の所在地さえ異なれば同一の商号であっても法務局へ登記し使用することが可能です。
言い換えると、「商号」は、同一の所在地で同じ商号が存在する場合には登記できませんから、本店移転に際して一番先に行わなければならないのは、移転先の所在地における同一商号の有無を確認することです。
移転先の建物全体を使用する場合には心配する必要はありませんが、複数の会社が入居する建物に移転する場合には有り得ることです。
定款のチェック
本店所在地というのは、定款の絶対的記載事項(必ず記載しなければならない事項)ですが、最小の行政区画である市区町村までの記載で良いので、例えば「本店を東京都渋谷区に置く」のように記載することが一般的です。
そのため、新所在地が同じ渋谷区であれば定款の変更は必要ありません。但し、丁目・番・号、さらには建物の名称などまで記載している場合には、同じ市区町村での移転であっても定款変更が必要となりますので、本店移転に際しては定款のチェックも必須事項です。
法務局のチェック
本店移転登記は、その地域を管轄する法務局で行わなければなりません。そのため、新所在地を管轄する法務局と旧所在地を管轄する法務局が異なる場合には、それぞれの法務局で登記申請しなければなりません。
そのため、本店移転登記を行うには新所在地を管轄する法務局がどこになるかを事前に確認しておく必要があります。
※法務局の管轄は、法務省ホームページで確認できます。
移転先の法務局が異なる場合
新所在地を管轄する法務局が旧所在地を管轄する法務局と異なる場合には、新・旧両方の所在地を管轄する法務局に本店移転登記の申請を行わなければなりませんので、登記申請書は2通必要になります。
しかし、旧所在地の法務局に「新所在地の法務局に提出する登記申請書」も一緒に提出すると、職権で新所在地の法務局に送付してもらえるため、登記申請は旧所在地の法務局1ヶ所だけですみます。
定款変更には株主総会の特別決議が必要
定款のチェックによって定款変更が必要となる場合には、本店移転登記の前に株主総会を開催し「特別決議」を行わなければなりません。特別決議とは、行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で決議となります。
取締役会の決議
定款変更の有無にかかわらず、本店移転登記には取締役会において、本店の具体的な移転場所及び移転日を決議しなければなりません。取締役会非設置会社の場合には、取締役の過半数の賛成で決議します。
移転登記申請に必要な書類
本店移転登記申請には次の書類が必要となります。
- 本店移転登記申請書(※移転先の管轄法務局が異なる場合には、旧法務局と新法務局に提出する登記申請書が2通必要)
- 株主総会議事録(※定款変更が必要な場合)
- 取締役会議事録(※取締役会非設置会社の場合は取締役の過半数の一致を証する書面)
- 印鑑届書(※移転先の管轄法務局が異なる場合には、旧印鑑カードは使用できなくなるので、印鑑届書を提出し印鑑カードの交付を受けます)
登記申請の3つの方法
登記申請には次の3つの方法があります。
- 管轄登記書での窓口申請
- オンライン申請
- 郵送申請
ここで、一番便利なオンライン申請について詳しく紹介します。
オンライン申請の3つのメリット
- 法務局に行く必要がないのでオフィスにいながら申請できる
- 処理状況をWebで確認できる
- 法務局の業務時間外でも利用できる
オンライン申請の手順
登記申請は「登記・供託オンライン申請システム」を利用し、登記申請します。 主な申請手続きの流れは次のようになります。
オンライン申請に必要なもの
オンライン申請を利用するには次の2点が必要になります。
※ICカードを使用して電子認証する場合には、ICカードリーダー必要となります。
本店移転登記を忘れたときの罰則
本店移転登記は、会社法で「本店移転の日から2週間以内に、変更登記をしなければならない」と定められています。
もし、会社法に定める期限内に本店移転登記を行わなかった場合には「登記懈怠」ということで、会社の代表者個人に100万円以下の過料が課せられる可能性があります。
本店移転の日から2週間を超えた後に登記申請した場合でも登記はできますが、罰則適用の有無や過料の金額は裁判所が決定しますので明確な基準はありません。
いずれにしても、会社の代表者や法務担当者は不要な罰則を受けない為にも、本店を移転した際の移転登記は速やかに行うことをおすすめします。
移転登記とは別に必要な各種届け出
本店を移転したときに行わなければならない手続きは移転登記だけではありません。それぞれの手続きの期限が異なるので、事前に確認しスケジューリングしておきましょう。
- 税務署への届け出(本店移転後速やかに)
- 年金事務所への届け出(本店移転の日から5日以内)
- 都道府県税事務所への届け出(本店移転の日から10日以内が原則)
- 市区町村への届け出(本店移転の日から30日以内)
- 労働基準監督署(本店移転の日の翌日から10日以内)
- ハローワーク(本店移転の日の翌日から10日以内、※労働基準監督署の届出控添付)
失敗が多い本店移転登記を詳しく解説:まとめ
本店を移転するということは、移転登記や各種届け出の他にも、オフィス家具や什器などの実際の引越し作業や、株主・取引先・顧客への通知、名刺・封筒・各種帳票類などの差し替えなど多くの業務が発生します。
その中でも、本店移転登記は非常に重要な手続きで、特に管轄法務局が変わるケースでは株主総会の開催を行わなければなりません。株主総会の召集通知は、公開会社の場合2週間前までに、非公開会社の場合1週間前までに発送する必要があります。
ですから、本店移転に関し会社の方針が決定した後は、司法書士などの専門家にも相談しながら、速やかに登記手続きのスケジュールやチェックシートを作成し、計画的に進めることをおすすめします。