過労死の裁判事例5選!企業法務が考えるべき遺族への適切な対応方法
- 2020/3/4
- 法令コラム
今回の記事では、働き方改革の普及の一因ともなった過労死について、具体的な裁判事例を5つご紹介しつつ、万が一過労死が起きた際の企業法務が取るべき対応方法を説明します。
ワタミの過労死裁判事例
事件の概要
ワタミグループの運営する居酒屋チェーン「和民」で働く従業員が、月141時間もの残業を行なっていた末に、社宅の近くで自殺した事件です。
裁判の結果
東京地裁で行われた裁判の結果は、遺族側とワタミの間で和解という形で終わりました。
具体的には、ワタミと創業者である渡辺氏が遺族側に対して1億3,000万円を超える慰謝料を支払う形で和解しました。働き続けたら本来もらえたはずの逸失利益に加え、会社全体で過酷な労働を強いていたことに対する懲罰的な慰謝料も加算された点で大きな話題となりました。
また本件の和解により、ワタミ側は過重労働に向けた本格的な対策を行うことや、新入社員に対して未払い残業代や天引きしていた賃金を支払うことに同意しました。
過労死に対する懲罰的な慰謝料が認められた点や、過労死に対する対策を講じる責務が課された点で、本件の裁判は企業の過労死に対する認識に大きな影響を与えました。
参考:ワタミグループ過労自殺訴訟が和解 会社側が責任認める 朝日新聞デジタル
ファミマの過労死裁判事例
事件の概要
コンビニストア大手「ファミリーマート」の加盟店で働いていた従業員が、過労死ラインを大幅に超える労働(平日15時間、休日9〜12時間)を行なった末に、過労による脚立からの転落で亡くなった事件です。
裁判の結果
大阪地裁で行われた裁判は、遺族側と本社および加盟店の間で和解という形で結末を迎えました。
具体的には、本社と加盟店が連帯して4,300万円の慰謝料を支払う和解案となりました。雇用関係が直接ない加盟店の従業員について、本部が労災の慰謝料を支払うことは極めて異例であるため、この事例も大きな話題となりました。
参考:ファミマ、過労死訴訟で和解 店員遺族側に4300万円 朝日新聞デジタル
JR西日本の過労死裁判事例
事件の概要
JR西日本で働いていた従業員が、最大で月254時間もの時間外労働を課され、結果的に過労による精神的苦痛から飛び降り自殺した事件です
裁判の結果
大阪地裁で行われた裁判では、JR西日本の過失を認め、約1億円の損害賠償の支払いを命じました。
1億円にも上る損害賠償の中には、逸出利益に加えて慰謝料も含まれると考えられています。
参考:JR西日本、社員過労死で遺族が提訴し、1億円支払い命令 残業250時間超の月も Business Journal
ディーソルNSPの過労死裁判事例
事件の概要
ソフトウェア開発会社ディーソルNSPで働いていた従業員が、月180時間に達する長時間労働を強いられた末に飛び降り自殺した事件です。
なお労働基準監督署によると、この従業員は長時間労働により適応障害を発症していたために、自殺に至ったとのことです。
裁判の結果
福岡地裁で行われた裁判では、ディーソルNSPとその親会社に対して合計およそ4,000万円の支払いを命じる判決が下されました。
月の時間外労働が180時間に達していることに加え、亡くなる前日までの21日間は休日無しで働いていたことが、今回の判決に大きく影響しました。
長崎みなとメディカルセンターの過労死裁判事例
事件の概要
長崎市にある病院「長崎みなとメディカルセンター」で働く医者が、数カ月にわたって平均180時間弱の時間外労働を強いられた結果過労死した事件です。
裁判の結果
長崎地裁で行われた裁判では、病院側の安全配慮義務の違反を認め、病院に対して約1億6,700万円の支払いを命じる判決を下しました。
判決には、死亡の約2カ月前まで84日間にわたって連続で勤務していた点が大きく影響したと考えられます。
企業法務が考えるべき遺族への適切な対応方法とは?
万が一自社で過労死が生じた場合、企業の法務部門は遺族に対してどのような対応をとれば良いのでしょうか?
下手に隠そうとはせず、遺族や労働基準監督署の要求に対して誠実に対処する
大手企業での過労死事件が相次いで発生した影響で、近年は世間の過労死問題に対する目は厳しくなっています。
下手に過労死の事実をごまかしたり隠そうとすると、マスコミや一般の人から激しく非難され、かえって企業のイメージダウンにつながりかねません。
明らかに過労死である事実がある場合には、遺族や労働基準監督署による調査や要求に対して誠実かつ正直に対応するのがベストです。
過労死の裁判事例5選:まとめ
今回は、過労死の裁判事例を基に、企業法務が取るべき遺族への対応を説明しました。会社組織が大きくなると、どれほど注意を払っていても過労死が生じる可能性は残ります。万が一の事態に備え、企業の法務部門は常に対処法を検討しておくことが重要です。