企業の脱税はデメリットだらけ。経営者の逮捕、身に覚えのない脱税容疑を回避するために注意すべきポイント
- 2019/11/19
- 法令コラム
納税は国民の義務ではありますが、「支払う税金」は少しでも少なくしたいと考えるのも素直な気持ちといえます。特に、決算期の中小企業では、納税時期に手元資金が苦しいことを理由に「魔が差す」ということもあるかもしれません。
しかし、脱税で刑事事件として立件されれば、企業イメージが低下するだけでなく、多額の罰金・追徴課税、最悪は経営者(関与した役員・従業員)の逮捕という事態になることもあります。
そこで、今回は、企業が脱税を疑われたときの調査・捜査の流れ、脱税を疑われないために経営者が心掛けておくべきポイントについてまとめてみました。
脱税をしたら必ず逮捕されてしまうのか?
「犯罪をすると逮捕される」というイメージを持っている人は多いかと思いますが、実際にはそうではありません。
逮捕されるケースは、「被疑者が逃亡する」「被疑者が証拠を隠滅する」おそれがあるときに限られるのが原則だからです。現行犯逮捕された場合であっても、逮捕後に(すぐ)釈放されるケースも少なくありません。
下に示した警察庁発表の統計資料にも示されるように、取り調べなどのために身柄の拘留の続くケースは限られており、実際の犯罪の多くは「在宅事件(書類のみを検察に送致する案件)」として処理されます。
脱税事件で逮捕されるまでの流れ
脱税事件における犯罪の認知から刑事罰を受けるまでの大まかな流れは次のようになります。
↓
(2)国税庁による査察調査
↓ 告発
(3)検察による捜査 ・・・ 逮捕(身柄事件)/書類送検(在宅事件)
↓ 起訴
(4)刑事裁判
↓ 判決言渡し・確定
(5)刑(懲役(執行猶予)・罰金)の確定・執行
上の流れのうち、「逮捕」の可能性が生じるのは、検察による捜査段階(から刑事裁判終了まで)の間のみです。税務署(税務調査員)や国税庁(査察官)には、逮捕権限がないからです。
脱税で逮捕されないために注意すべきポイント
上で述べたように犯罪事件が起きた場合でも被疑者を「逮捕」して捜査を行うのは例外的な対応です。
万が一の場合に逮捕を免れるためには、次の4つのポイントに留意する必要があります。
- 自社の処理に間違い(の可能性)があったことを素直に認める
- 税務署、国税庁、検察への証拠提出に協力する
- 引っ越しや長期の旅行・出張は、事前に調査、捜査期間に申告する
- そのほか逃亡・証拠隠滅を疑われる行為を行わない
これらの対応をきちんとした上で、「申告ミス・申告漏れには悪意がなかった(きちんと納税する意思があったことを理解してもらうよう努める」ことができれば、査察が入った場合でも、脱税での刑事告発を免れ、修正申告+追徴課税のみで処理させてもらえる場合もあります。
脱税は「疑われるだけ」でも後始末が大変
統計上は、脱税をしても経営者が逮捕される可能性は高いとはいえません。しかし、「逮捕されないから大きなダメージはない」と考えてしまうことはとても危険です。
企業の脱税が発覚した際には、次のようなペナルティが用意されているからです。
- 罰金刑
- 追徴課税(加算税・延滞(利子)税)
- 企業イメージの低下
- 取引先への迷惑(反面調査の実施)
脱税によって科される罰金額は、脱税額の2割が相場といわれています(悪質な事件ではそれ以上の罰金が科されることもあります)。
※過去の脱税事件で言い渡された罰金額については、Legal Searchで「脱税 罰金」というキーワードで検索をすることで調べることもできます。
追徴課税については、手口が悪質なほど加算割合が高くなります。最も重い重加算税は、過少申告・不納付加算税の場合は追徴税の35%相当額、無申告のケースでは追徴税に対して40%が課税されることになります。つまり、脱税が発覚すれば、罰金・追徴課税などで、5割増し近い金額の支払いを求められる可能性があります。
また、脱税で捜査を受けていることなどが報道の対象となれば、企業の社会的なイメージ低下も避けられません。
さらには、企業が脱税による調査を受ければ、自社の業務遂行に大きな支障がでる場合もあるでしょう。脱税として告発される可能性のある案件では、1年を超える調査が行われることも珍しくありません。調査への対応に自社のリソースを充てなければならないというだけでも、経営効率の観点では大きな損失となります。
それに加え、脱税の疑いのある調査・査察では、自社だけでなく取引先にも大きな迷惑をかけてしまいます。企業の脱税調査の場合には、「反面調査」とよばれる取引先への調査も実施されるからです。反面調査がきっかけで重要な取引先を失ってしまえば、売上げの大幅減だけでなく、業務フローの見直し、事業撤退といった企業経営に大きな打撃が生じることもあるでしょう。
近年の脱税事件の傾向
脱税事件は、近年対応が厳しくなりつつあります。
たとえば、最近話題になった某有名社長の脱税事件においても、その手口が古典的で込み入ったものではなかったことなどから、逮捕されたことに驚いた専門家は少なくありません。
この案件では、経営者がメディアでの露出も多い有名人だったが故に余罪の可能性を見込まれた、情状面で問題があったといった可能性もありますが、「脱税は、以前に比べて逮捕のリスクは高くなった」と考えておいた方が良いともいえるでしょう。
脱税に対する対応が厳しくなっていることは、統計的な数字にも表れています。下の表は、国税庁が公表している査察が行われた案件に対する刑事告発の件数・割合をまとめたものです。
数値に示されるように、この5年で査察事件がそのまま刑事告発に繋がる割合は年々増加しています。
国税庁が公表しているデータでは、平成28年度~平成30年度で起訴に至った案件の有罪率は100%ですから、統計的には「査察=告発=起訴=刑事罰」となる可能性は従来よりもかなり高くなっているといえます。
脱税と申告漏れの線引きはどこにあるのか?
納める税金を少なくするための企業側の対応が「申告漏れ」として修正申告のみで許容されるか「脱税」として罪に問われるのかの線引きは、「税金を不当に免れることの意思の有無」にあります。
つまり、脱税行為として立件するためには容疑者に「故意」があることが必要で、「過失に過ぎない」場合には、脱税には問われない(修正申告には応じなければならない)ということになります。
とはいえ、企業(経営者)の内心の意思(故意がなかったこと)を客観的に明らかにすることは簡単ではありません。
たとえば、以下に挙げるような脱税の典型的な手口では、いずれも「企業(経営者)の故意」が推定されます。「数字の操作」は、故意でなければ行えないものだからです。
- 売上・在庫の過少申告
- 仕入の水増しする
- 経費の架空計上
- ペーパーカンパニーを用いた不正取引
当然、これらのケースではその金額が大きい(脱税額が大きい)ほど、故意が強く推定されることになります。記載ミス、記載忘れの類いであれば、通常であれば大きな金額になることは考えられないからです。
「脱税」と指摘されてないために経営者が注意しなければならない4つのポイント
実際のケースでは、「企業(経営者)としては、節税のつもりだった」が国税庁に「脱税と指摘される」ケースもあるかもしれません。
その場合には、客観的な証拠に基づいて「故意ではなかった(あくまでも申告ミス、記載漏れである)」ことを明らかにしていくことで、不起訴または無罪判決を目指すことになります。
しかし、本来的には「脱税」と指摘されることのないように日頃から慎重な対処をすることが何よりも大切です。
不起訴(無罪)となったとしても、それに対応するコストがかかっている時点で、企業にとってはマイナスだからです。
身に覚えのない脱税の容疑をかけられないためには、これから説明する4つの点が特に重要といえるでしょう。
(1)「脱税は割に合わない」ときちんと認識する
あらぬ疑いをかけられないために最も重要なことは「脱税は会社に利益にならない」ということを経営者自身が強く認識することです。
納税の手続きをきちんと済ませなければ、追徴分の負担だけでなく、対応コストなど、脱税で得られる利益を大きく超える損失が生じます。
また、税務署・国税庁の情報収集能力は非常に高いです。新興企業の経営者には、Twitter・Instagram・FacebookといったSNSなどを通じて、私生活などをアピールして会社の宣伝につなげている人も少なくありませんが、当局はこれらの情報も漏らすことなくチェックしています。
「うちみたいな新しい(小さい)会社なら多少のことはバレない」と都合の良い考えをもつことはとても危険です。
(2)企業内の統制を厳格に
中小企業の場合には、企業統制上の問題が脱税のきっかけとなることも少なくないでしょう。
典型的には、消費税の使い込み(他費目への流用)が脱税の誘因となるようなケースです。消費税は、本来的には「顧客からの預かり金」ですから、管理がしっかり行き届いていれば、納付の際の資金繰りを心配する必要のないものです。
また、経理担当者の無知が原因で、脱税を疑われることもあるかもしれません。このケースの多くは、「企業側には故意はない」と思いますが、不要な税務調査・査察・取り調べに対応しなければならないコストを生じさせてしまうだけ損失となります。
新興企業などでは、経費節約の観点で、税理士への相談・依頼を行わない場合もあるかもしれませんが、その結果として不要なコストが生じれば不採算となります。
企業の内部統制・ガバナンスを強化することは、怪しい部外者(甘い言葉で拐かす怪しい節税コンサルタント)との関わりを回避・阻止し、企業が犯罪に巻き込まれることの抑止力にもなります。某有名社長のケースでも、創業社長のリスクのある判断を阻止できるだけの仕組みが会社に備わっていれば事件化を回避できたかもしれません。
(3)「複数の専門家」に意見を求める
脱税を疑われないためには、経営者自らが税法について正しい知識を有し、自らの目で厳しく会社の経理をチェックできることが理想です。
とはいえ、税金に関する実務は、複雑なルールも多く、専門的な知識ノウハウを習得した者でなければ正しく理解することは簡単ではありません。
やはり、信用のおける税理士などのプロフェッションに必要に応じて相談をすることが何よりも大切でしょう。
ところで、近年は、税法について正しい理解をもたない「節税コンサルタント」も増えているようです。
上でも引用した国税庁の資料では「平成30年度は消費税の脱税案件が過去最高の件数となった」ことも指摘されていますが、このことは、消費税法を正しく理解していないコンサルタントが増えているのも原因ではないかという専門家の声もあります。
※Legal Searchで、「脱税 消費税」と検索してみても、近年消費税の脱税案件が増えていることがわかります。
本文中でも触れた、某有名社長のケースは、消費税の案件ではありませんが、社長自身は「コンサルタントを信じて税務処理をしただけ」と自身のSNSなどでは発言しています。
「税金を1円でも少なくしたい」というのは、ほぼすべての人の願いではあるのでしょうが、「本当にそんなにおいしい節税方法があるのか?」とちょっとでも不安に感じたときには、必ず他の専門家に意見(セカンドオピニオン)を求めるべきでしょう。
(4)不安があるときには迅速に対応する
「企業で行った処理に間違いがあるかもしれない」と感じたときには、1日もはやい迅速な対応をすることもあらぬ疑いをかけられないためには重要です。
たとえば、本来減価償却費として損金処理すべきところを、仕入れ金として処理してしまったような場合でも、「税務調査が入る前」にしかるべき手続きを済ませれば、過少申告加算税(追徴課税)は課されずに処理できる場合があります。
税務実務の上でも「間違いがあった場合でも誠実に振る舞った者は救われる」という原則があることは、知っておくべきでしょう。
企業の脱税はデメリットだらけのまとめ
企業の申告漏れの報道は、ほぼ毎年報道されます。誰でも名の知っている有名企業でも「見解の相違」、「手続き上のミス」を原因に、修正申告を余儀なくされるケースは、実は珍しくありません。
一般的に、組織統制の進んでいる大企業でもこのようなミスがあるのですから、中小企業では、申告漏れ・手続きミスのリスクはさらに高いと考えておいた方がよいのかもしれません。
「我が社の規模なら目を付けられることはない」と決めつけてしまうのではなく、「中小企業だからこそ注意しなければいけない」と日頃から厳しい姿勢で対処することが、身に覚えのない脱税容疑をかけられないための一番の秘訣といえるでしょう。