自動運転の事故は誰の責任?

自動運転の事故

自動運転車の普及は、交通事故や交通渋滞の解決策になると期待されています。しかし一方で、将来自動運転が高度化した際における、事故に対する刑事責任や損害賠償に関するルールは確立されていません。この記事では、自動運転による事故の責任が誰にあるのか、その現況と将来の見通しについて解説します。

自動運転の法責任は誰にあるのか

自動運転の法責任の所在は、自動運転の性能レベルによって異なってきます。現況の法律で、誰に対して責任が問われるのか紐解いていきましょう。

自動運転の区分

自動運転の法規制を知るうえで、自動運転の性能区分を押さえておきましょう。自動運転は次のような区分で分類されています。

  • レベル1……アクセル、ブレーキ、ハンドル操作のひとつを自動化(自動ブレーキ等)
  • レベル2……上記の複数を自動化(車線を維持しながら前の自動車に付いて走る等)
  • レベル3……条件付の自動運転化(システムがすべての運転任務を実施するが、システムの介入要求等に対してドライバーが適切に対応することが必要)
  • レベル4……特定条件下における完全自動運転(特定条件下においてシステムがすべての運転任務を実施する)
  • レベル5……完全自動運転(常にシステムがすべての運転任務を実施する)

このうち、すでに実用化されているのは、レベル3までです。

レベル1での責任

ドライバーが基本的に運転操作を行い、一部をシステムが運転支援するシステムであるため、事故による責任はドライバーにあります。

レベル2での責任

アクセル、ブレーキ、ハンドルなど複数の操作をシステムが行いますが、運転はドライバー主体のシステムであるため、事故による責任はドライバーにあります。

レベル3での責任

運転操作がドライバー主体からシステム主体に移行します。車線変更や分岐なども自動で行うことができますが、設計外の操作はドライバーが対応します。2020年施行の改正道路交通法で、前方注意義務が一部緩和されました。

レベル4~5での責任

現在、実用化されておらず、法整備もなされていません。自動運転レベル4以上のシステムは、ほとんどが自動化されるため、ドライバーの責任を問うことは難しく、事故の責任はメーカーの責任となる可能性が高いとされています。事故の原因が道路環境によるものであれば、管轄する自治体の責任となる可能性もあります。

法規制の現状

日本の法規制が、現在対応しているのはレベル3までです。2020年施行の改正道路交通法で、事故時の責任やドライバーの安全義務などの規定が盛り込まれました。

自動運転関連で新たに加えられたのは次の前方注意義務に関する一部緩和規定です。


第71の4の2の2

自動運行装置を備えている自動車の運転者が当該自動運行装置を使用して当該自動車を運転する場合において、次の各号のいずれにも該当するときは、当該運転者については、第71条第5号の5の規定は、適用しない。

(1)当該自動車が整備不良車両に該当しないこと。
(2)当該自動運行装置に係る使用条件を満たしていること。
(3)当該運転者が、前二号のいずれかに該当しなくなった場合において、直ちに、そのことを認知するとともに、当該自動運行装置以外の当該自動車の装置を確実に操作することができる状態にあること。

自動運転のドライバーに適用しないとする第71条第5号の5は、「自動車を運転する場合においては、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置を通話のために使用し、または画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと。」と規定されています。

つまり、改正道路交通法では、自動運転車両の自動運転中には、いわゆる「ながら運転」をしても罰せられないことになります。ただし、安全運転義務まで免除されたわけではなく、走行中の車内でドライバーが眠ることは認められていません。

整備不良の責任は問われる

自動車事故で刑事責任を問われるものとして、過失運転致死傷罪、危険運転致死傷罪があります。いずれの場合も、ドライバーに過失や不注意がないと責任が問われることはありませんが、過失の有無の判断には、道路交通法を順守していたか否か大きく関係してきます。

レベル3の自動運転においても、整備不良や居眠りが要因となった場合には自動運転中であってもドライバーの過失が認められる可能性があります。

また自動運転特有の整備不良として、自動運転ソフトのアップデートをしていなかったといったことや、走行中に異音がしたのに放置したといった場合にも過失を問われる可能性があります。

常に緩和されるのではない

レベル3の車のドライバーが前方注意義務を緩和されるのは、「運転者が当該自動運行装置を使用して当該自動車を運転する場合」に限定されています。

現在の基準ではレベル3で走行できるのは、①時速50km以下、②渋滞などで先行車が存在、③高速道路、④精密地図のある区間のみとされているので、この条件外になれば、従来の規制が適用されることになります。

もし走行条件外になったときにドライバーが運転を引き継がなかったり、引継ぎに時間を要したりしたことで事故が起きれば、ドライバーが責任を問われる可能性があります。

損害賠償責任の将来

国土交通省に設置された「自動運転における損害賠償責任に関する研究会」では、レベル0~4が混在するであろう2025年時点の対応策について検討を進めています。

自動運転による事故の損害賠償と自賠責保険の将来のあり方について、どのような展開が予測されるのかみていきましょう。

自動運転システムの欠陥を原因とする事故

自動車事故の被害者に対する迅速な救済を引き続き確保するため、自動運転システムを搭載した自動車の構造上の欠陥や機能の障害を原因とした事故についても、自賠法に基づき損害賠償責任を自動車の保有者に負わせることとし、従来どおり自賠責保険から支払いが行われます。

しかし、自動運転においては、その責任が自動車の機能による可能性もあるため、保険会社から自動車メーカー等に対して事後的に求償を行う仕組みの検討が進められています。

ハッキングを原因とする事故

悪意をもった第三者によるハッキングを原因とした事故については、盗難車による事故と同様に、政府保障事業により対応することが妥当とされています。ただし、自動車の保有者がセキュリティ対策に必要なソフトウェアのアップデートを怠っていた場合等は、保有者の損害賠償責任が追及される可能性もあります。

自動運転に対応した自動車保険

自動運転システムの欠陥やハッキングにより事故が発生した場合、ドライバー等の責任の有無が判明するまでには時間を要すると想定されることから、これまでの自動車保険では迅速な被害者救済を図ることができません。

そのため、多くの保険会社では、事故発生当初に法律上の損害賠償責任が不明または存在しない場合でも、被害者の損害を補償する被害者救済費用等補償特約の付いた保険を販売しています。

レベル5への対応は?

様々なレベルの自動運転技術を搭載した自動車が混在する当面の過渡期においても、被害者保護を目的とした現行自賠法の枠組み等の下、これまで同様の責任関係が引き続き維持される見込みです。

将来的にレベル5の完全運転自動化が実現した際には、自動車の操縦に全く関与しない者に損害賠償責任を求めていくのかといった課題が生じ、現行とは全く異なる法的責任の枠組みが必要になる可能性もあります。自動運転技術の高度化を踏まえた今後のさらなる検討の進展が望まれます。

参考:自動運転における損害賠償責任と保険(損害保険料率算出機構)

まとめ

レベル3の自動運転では、いわゆる「ながら運転」をしていても、責任が問われないもとする改正道路交通法が施行されました。

しかし、現在の基準ではレベル3での走行が認められるのは限定的な区間です。適用外の区間での「ながら運転」は、当然禁じられています。

またたとえ自動走行が認められる区間であっても、事故の原因が整備不良や居眠りによるものであれば、ドライバーの過失が認められる可能性があります。

さらに従来の自動車では責任を問われなかった、自動運転ソフトのアップデートをしていなかったといったことや、走行中に異音がしたのに放置したといった場合などが過失を問われる可能性があります。 大きな可能性を秘めた自動運転ですが、自動車の性能はまだ発展途上であり、法整備にも様々な課題を残しています。今後の国の対応に注視していきましょう。

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