プロキシーファイトとは?メリット・デメリットと株主への影響
- 2020/6/15
- 法令コラム
業績不振の企業や株主の利益を軽視する企業では、経営陣の交代や経営方針の変更を希望する株主が少なからず存在します。会社に対する要望を実現するには、大多数の株主から賛同を得なくてはいけません。
そこで不満を抱いた株主が経営陣に対して仕掛けるのが「プロキシーファイト」です。最近だと大塚家具のプロキシーファイトが連日話題となったので、用語自体は知っているという方も多いと思います。今回の記事では、そんなプロキシーファイトの意味やメリット・デメリット、株主に与える影響などをわかりやすく解説します。
今回の記事では、そんなプロキシーファイトの意味やメリット・デメリット、株主に与える影響などをわかりやすく解説します。
プロキシーファイトとは
プロキシーファイトとは、一体どのような行為でしょうか?ここでは、プロキシーファイトの意味や一連の流れを説明します。
プロキシーファイト(proxy fight )とは、経営陣と株主の間で行われる委任状の争奪戦です。委任状とは、株主総会における議決権を行使する権限を第三者に与える書類を意味します。
株式会社において、取締役の解任や合併の実施といった重要事項は、全株主の有する総議決権のうち一定数以上の賛成により決議されます。言い換えると、株式会社で自らの要求を通すには、議決権の賛成をよりたくさん集める必要があるわけです。
そこで経営陣に不満を有する株主は、他の株主からなるべくたくさんの委任状を集めることで、自らの要求を通そうとします。過半数または3分の2以上の議決権の委任状を集めることができれば、経営陣の意向とは無関係にほとんどの要求を通せるようになります。
しかし経営陣からすると、株主による委任状集めを容認することはできません。一定数以上の委任状を集められてしまうと、もはや経営陣は権限を失ってしまうためです。そこで経営陣は、自分たちに味方する株主から委任状を集めて、敵側の株主が一定数以上の議決権を握らないように対抗します。
つまりプロキシーファイトは、よりたくさんの賛成票を集めるための争いと言えます。ただし株式会社では、賛成する人数ではなく「議決権の数」によって行使できる権限の強さが決まります。そのため実務上は、たくさんの議決権を有する大株主や機関投資家をいかに味方につけるかが、プロキシーファイトで勝つ上で重要となります。
プロキシーファイトのメリット
プロキシーファイトにより生じるメリットは、主に以下に挙げる2つです。
経営陣が株主の利益を優先するようになる
プロキシーファイトの結果に関係なく、その後は株主の利益を優先した経営が行われるようになります。プロキシーファイトが発生したということは、経営陣や方針に不満を有する株主が少なからず存在することを意味します。
よって経営陣からすると、株主から解任されるリスクが高いと言えるため、株主の利益を最優先せざるを得なくなります。企業に出資している株主からすると、この点は大きなメリットと言えます。
経営陣や経営方針の変更により、企業価値の向上を見込める
一概には言えませんが、業績の低迷や企業価値の低下は、経営陣に原因がある可能性があります。例えば経営陣が過去の成功体験にとらわれていることで、時代や消費者のニーズの変化に対応できていないケースなどが考えられます。
そんな経営状況の低迷を打開できる手段の一つに「プロキシーファイト」があります。プロキシーファイトにより経営陣や経営方針が変われば、時代や消費者のニーズに対応することで企業価値が向上する可能性があります。
プロキシーファイトのデメリット
一見すると良いことづくしのプロキシーファイトですが、下記に挙げるようなデメリットもあります。
プロキシーファイトに勝つために多大な労力や費用がかかる
一度プロキシーファイトが発生してしまうと、よりたくさんの賛成票(委任状)を集めるために多大な労力や費用をかける必要が出てきます。
例えば、新聞などの広告を使って大々的に自らの考えを主張したり、説得力のあるプレゼン資料を作って大株主や機関投資家の支持を得る必要があります。こうした活動には多大な労力や費用がかかるため、プロキシーファイトに勝ったとしても、その後の事業運営に支障をきたす可能性が高いです。
経営陣の交代や経営方針の変更により事業の拡大が停滞するリスクがある
経営陣や経営方針の変更は、必ずしも企業にとって良い影響をもたらすとは限りません。
例えばカリスマ性のある経営陣のおかげで業績を伸ばした企業の場合、経営陣の交代により業績が低迷するリスクがあります。
プロキシーファイトが株主に与える影響
プロキシーファイトは、委任状の取り合いにまったく関係のない株主にも大きな影響を与えます。というのも、プロキシーファイトにより株価が大きく変動するためです。
そもそもプロキシーファイトで勝つには、よりたくさんの委任権を株主から集めるだけでなく、議決権を有する株式を買い集める方法も有効です。実際プロキシーファイトが発生すると、経営陣や株主は、勝つために株式を買い集めます。
また、経営陣や経営陣と争う株主が株式を買い集めていると予想した投資家も、キャピタルゲインを得る目的で株式を買い集めるため、結果的に株価は上昇する可能性が高いです。
その企業の株式を有する株主からすると、株価上昇により自らの有している資産の額が増加したこととなります。その時点で株式を売却すれば、大きなキャピタルゲインを得られます。
以上のように、プロキシーファイトは株主に対してかなりポジティブな影響を与えます。しかし、プロキシーファイトによる良い影響は長期的に続くとは限りません。というのも、勝利した(もしくは勝利しそうな)経営陣の方針次第では、業績の低迷が予想されて株価が一気に下がる可能性もあるためです。場合によっては、プロキシーファイトが生じる以前よりも株価が下がることもあります。
プロキシーファイトは、この通り短期間で大きな株価の変動を生じさせるため、少しだけ株式を保有しているような株主は翻弄されることとなります。自らが投資している会社でプロキシーファイトが生じた際には、株価の変動や争奪戦の結末を予測して慎重に行動しましょう。
プロキシーファイトとは:まとめ
経営陣と株主の間で行われるプロキシーファイトは、企業自体や株主に大きな影響を与えます。少なくとも、株主の利益を重視した経営方針に移行する可能性は高いでしょう。
しかしプロキシーファイトにより、株価の下落や業績の低迷といったデメリットが生じる場合もあります。プロキシーファイトが生じた場合、株主はよく考えて慎重に行動する必要があるでしょう。