エピックゲームズの真の狙いは?Appleを訴えた裁判について
- 2021/5/24
- 法令コラム
2020年8月、人気ゲーム「フォートナイト」の開発元である米エピックゲームズがアップルを相手どり提訴した訴訟の公判が5月3日に始まり、初日にはエピックゲームズのCEOティム・スィーニー氏が出廷し、公判期間中にはアップルのCEOティム・クック氏も出廷する予定だという。
エピックゲームズが問題としているのは、アップルのアプリ配信サービスが米国の反トラスト法違反に抵触するのではないかという点や、アップルが優越的立場を利用して有料アプリに対し割高な手数料を課している点などで、同社はグーグルに対しても同様の訴訟を起こしています。 今回は、年間10兆円を超える巨大マーケットのトップシェアを有するアップルの戦略に影響するかも知れない注目の裁判についてわかりやすく解説します。
順調に成長する世界のアプリ市場
米国のモバイルアプリ調査会社「Sensor Tower」の調査によると、コロナ禍の影響もあり、2021年第一四半期の世界のアプリ消費額はApp StoreとGoogle Playの合計で前年比31%と大きく上昇。
同社の予測では、この傾向は今後も続き2025年にはApp Storeで年間1,850億ドル、Google Playで年間850億ドルに達する可能性があるとしています。
Epic Games VS Apple の経緯
フォートナイトとは
年々拡大しているオンラインゲーム市場で、プレイヤー数が3億5000万人を超える「フォートナイト」は、2017年にリリースされNintendo Switch、PlayStation、Xbox 、Windows PC、Android端末など数多くの機器で楽しまれています。
「フォートナイト」は、100人のプレイヤーが何も持たずに巨大な島に降下し、アイテムを収集しながら戦い、最後に残った一人が勝者となるバトルロイヤルのゲームの一種です。基本プレイは無料で、ゲーム中でアイテムを取得するときに課金するタイプのビジネスモデルを採用しています。
サイドローディング
App Store、Google Playなどのアプリストアでは取引額の30%を手数料として徴収するのが一般的で、他のアプリストアなどでも同様のレートで課金していました。
エピックゲームズが最初にAndroid端末に「フォートナイト」をリリースしたのは2018年。30%の手数料を不当と考えていた同社はゲーム内課金を回避するためにGoogle Playを経由しない「サイドローディング」でアイテム提供を実施。
しかし、Google Play上でアイテムを販売する「フォートナイト」のなりすましアプリが数多く登場するなどして、2020年にGoogle Play上での配信に切り替えます。 一方、アップルはサイドローディングを認めていなかったため、エピックゲームズは最初からApp Storeを通じてアイテム提供をせざるを得ませんでした。
Epic Direct Payment
エピックゲームズは第二の手数料対策として、新たな支払い方法「Epic ディレクトペイメント」を2020年8月13日「フォートナイト」内に導入しました。
これは、ゲーム内でアイテムを購入する時の支払い方法にエピックゲームズから直接購入できる「Epic ディレクトペイメント」を追加表示し、それを選択するとApp StoreやGoogle Playで購入するよりも20%安く入手できるというものです。
しかし、数時間後には規約違反としてApp Store及びGoogle Playから「フォートナイト」が削除され、2020年8月14日のアップル 及びグーグル に対する提訴へと向かいます。
Appleの対応
8月18日、アップルはエピックゲームズに対し、8月28日までに「Epic ディレクトペイメント」を削除しなければ開発者アカウントおよび開発ツールへのアクセス権を削除すると公表。これによりエピックゲームズは、「フォートナイト」以外のアプリでもiOSおよびmacOS向けの開発が出来なくなるため差し止め請求で対抗します。
Epic Gamesの主張
アップルがアプリ開発者に対し全てのアプリをApp Store経由で販売することを義務付けることは、iPhoneおよびiPadのゲーム市場を独占する行為であり、反トラスト法に抵触している疑いがある。
そして、その優越的立場を利用し、
(1)デジタルコンテンツの支払いに関しアップルの決済システムの利用を義務付けるとともに、(2)最大30%という高額な手数料を徴収していると主張しています。
アップルの主張
エピックゲームズのアプリは、Nintendo Switch、PlayStation、Xbox など、さまざまなプラットフォームでプレイすることができるため、ユーザーはアップルの端末が利用できなくても他の競合機器でプレイできるので独占に該当しない。
iOS向けの全てのアプリをApp Store経由としているのは、マルウエアなどからユーザーを守り安全で高い品質を維持するためであり、アップルの決済システムを利用することによってユーザーは詐欺行為などから守られ円滑で簡単に購入手続きができるメリットがある。
また、最高30%の手数料はそのための資源であり、アプリ配信業界の標準的なものであると主張しています。
裁判のポイント
この裁判の大きな争点は、(1)アップルのApp Storeが反トラスト法に抵触しているか、(2)30%の手数料は不当か、の2点になると考えられます。
App Storeは独占に当たるか
この点を判断するためには、独占の対象となっている「市場」をどのようにとらえるかが重要です。
「市場 = アプリ配信市場」と考えるならば、アップルが主張しているようにゲーム用デバイスはiPhoneやiPad以外にも数多く存在するため、アップルの独占が認定される可能性はきわめて低いものになります。
しかし、「市場 = iOSを対象としたアプリ配信市場」ととらえればアップル製品に限定した市場となりますからアップルが独占状態にあるのは明白ですが、果たしてそのような主張が通るのでしょうか。
決済手数料30%は不当か
アプリ配信サービスが始まった2003年から手数料30%は業界標準レートとなっており、アップルやグーグル以外でも、米マイクロソフトや日本のSONYやDeNAなども同じレートに設定してきたとされています。
しかし、今回の裁判の影響も有って次のような手数料引き下げの動きも出てきています。
- 2020年11月18日 アップルは2021年1月から年間売上100万ドル以下のアプリ開発企業に対し手数料を半額の15%とすることを決定
- 2021年3月16日 グーグルは7月1日からアップルと同様に年間売上100万ドル以下のアプリ開発者に対し手数料を半額の15%に引き下げると発表
- 2021年4月29日 米マイクロソフトはパソコン向け手数料を一律12%に引き下げると発表
Epic Games VS Apple:まとめ
アップルの手数料に関してはエピックゲームズだけではなく、音楽配信サービスの世界最大手「スポティファイ」やデートアプリの「マッチ・グループ」なども不満を持っており、小規模の開発者に限定する手数料の引き下げは、売上貢献率の高い大手企業には適用されないため単なるポーズだと非難しています。
アップルの規約違反を承知で独自の決済システムを導入したエピックゲームズの狙いは、損害賠償を得ることではなくApp Storeの運営体制や決済システムを見直し、公正な競争とアプリ開発者の適正利益の確保に焦点が当てられています。
いづれにしても、消費者やゲーム業界も巻き込んだアップルとエピックゲームズの裁判は、5月3日にスタートし月末までには終了する見通しです。
業界の構造改革を目指すエピックゲームズの主張が認められるのか、牙城を守ろうとするアップルの正当性が認められるのか、今後の推移を見守りたいと思います。