使用者責任とは何か?法務が押さえるべき5つのポイントを紹介

使用者責任とは何か?

従業員の犯した不法行為により、第三者に損害を与えた場合、その労働者を雇用している会社に使用者責任があります。では、使用者責任とはどういうものなのでしょうか?この記事では使用者責任を具体的に解説した上で、法務が押さえるべき5つのポイントについて紹介します。

使用者責任とは

民法第709条によると、不法行為による損害は、被害者に賠償請求権があり、加害者は賠償する義務があるとされています。そして、従業員を雇っている会社は、従業員が犯した不法行為により、第三者に損害を与えた場合、会社にも賠償責任があります。このことを使用者責任と呼びます。使用者責任は民法第715条第1項および第2項に定められています。

使用者責任の法理を知ろう

従業員が犯した不法行為に対して、使用者責任があるというのは、法律の原理によります。このことを法理を言います。使用者責任に関する法理としてはさまざまな議論がありますが、代表的なのが報償責任の法理と危険責任の法理です。

報償責任の法理は、特別な利益をあげるプロセスで、他人に損害を与えた場合にとるべき賠償責任です。従業員の故意または過失を責任の要件としています。ただし、使用者が従業員に求償権を持っているため、使用者側が責任を全うしないとの声もあります。

危険責任の法理とは、危険をつくりだしている者は、そこから発生した損害に対して、過失の有無を問わず責任があるというものです。危殆責任(きたいせきにん)と呼ばれることもあります。

企業側は従業員の活動で利益を得ているため、従業員の活動によって発生した損害は、賠償責任があるのです。

免責のケース

使用者責任には、免責の規定も定められています。免責とは文字通り責任が免除されるケースであり、使用者責任の免責は民法第715条第1項に書かれています。

それによると、「使用者が被用者の選任及び監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、使用者の責任を免責する」と規定しています。

つまり、使用者に落ち度がなければ免責と定めているのです。とはいえ、判例により使用者責任の免責は認められず、実質的には使用者に落ち度がなくても責任は免れないと考えておきましょう。

法務が押さえるべき5つのポイント

従業員の不法行為とはどのようなことを指すのでしょうか?使用者責任に問われないために法務が押さえるポイントとして、以下の5つを紹介します。

  1. 取引先への詐欺行為に留意
  2. セクハラ・パワハラへの配慮
  3. 社用車での事故を想定
  4. 従業員同士のケンカに注意
  5. 手形の偽造を防止

これらを把握した上で未然防止に取り組みましょう。

1.取引先への詐欺行為に留意

取引先へ詐欺行為を働き、損害を負わせた場合に使用者責任が問われます。売上を上げるために虚偽の内容で購入をすすめたり、在庫ストックのため仕入先をだまして不良在庫の損害を出させるなど、さまざまなケースが考えられます。報告・連絡・相談を徹底して未然に防ぎましょう。

2.セクハラ・パワハラへの配慮

セクハラやパワハラ、モラハラなど、各種ハラスメントによる被害も、使用者責任が問われる可能性があります。取引先や出張先でのハラスメントはもちろんのこと、派遣や出向先でのハラスメントでも成立し得ます。また、飲み会などの勤務時間外のハラスメントで使用者責任を問われたケースもあります。ハラスメント研修などにより、社員の見識を上げておく必要があります。

3.社用車での事故を想定

業務のために自動車はバイク、自転車など運転し、事故を起こした場合にも使用者責任が問われます。勤務に関わった交通事故により第三者に損害を与えれば、それが社用車であろうと自家用車であろうと責任を負わなければなりません。

社用車を勤務時間外に利用した事故も、使用者責任が認められたケースがあります。事故は起こしたくて起こすものではありませんので、一定の覚悟が必要です。勤務時間外に利用しないルールや、保険の加入などで備えておきましょう。

4.従業員同士のケンカに注意

従業員同士のケンカによる損害賠償の可能性もあります。ケンカの原因がプライベートのものであれば使用者責任に問われる確率は低いですが、業務に関わる原因であれば使用者責任が問われる可能性があります。日頃から従業員同士のコミュニケーションが取りやすい環境づくりが大切です。

5.手形の偽造を防止

経理が取引先に出す約束手形を偽造した場合、業務に関連する不法行為として使用者責任に問われます。この場合、犯罪を犯した人は有価証券偽造罪として、刑事事件となる可能性もあります。

3カ月以上10年以下の懲役が課せられるケースもあるため、とても重い犯罪行為です。従業員のモラル教育とコンプライアンス遵守の教育にも力を入れましょう。

使用者責任とは何か?:まとめ

使用者責任に問われると、社会からの信頼が損なわれるほか、損害賠償請求による損害を被る可能性があります。損害が大きくなると経営のダメージも大きくなるため、あらかじめ想定しておく必要があります。起こり得る不法行為の種類を押さえ、それぞれの対策を施しておきましょう。

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