実用新案権とは?特許権との違いや取得プロセスを解説
- 2020/12/28
- 法令コラム
知的財産権の1種である「実用新案権」は、特許権と比べると比較的取得しやすい権利です。有効活用すれば、ビジネスを有利に進めることができます。そこで今回は、実用新案権について最低限知っておくべきポイントを解説します。
実用新案権とは
実用新案権とは、考案(自然法則を利用した技術的思想の創作)を保護する権利です。具体的には、物品の形状や構造、組み合わせに関するアイデアが保護の対象となります。
実用新案権と特許権の違い
実用新案権と「自然法則を利用した技術的思想の創作」を保護対象としている点では同じです。ただし特許権とは違い、実用新案権の考案は高度である必要はありません。
つまり実用新案権は、小さな発明(比較的簡単なアイデアや技術など)が保護の対象となるわけです。
実用新案権を取得するメリット
実用新案権を取得するメリットは下記のとおりです。
- 考案の内容を真似されて、損をするリスクを軽減できる
- ライセンス契約を他社と締結し、収入源を確保できる
- 無審査なので、特許権よりも手軽に権利を得られる
2つ目のメリットまでは、特許権や商標権などの知的財産権と同様です。特筆すべきは3つ目のメリットであり、手軽に知的財産権を活用したい事業者には大きな利点となるでしょう。
実用新案権の存続期間
実用新案法第15条によると、実用新案権の存続期間は「登録出願の日から10年」となっています。20年となっている特許権と比べると、存続期間は短いので注意です。
実用新案権の取得要件
実用新案権を取得するには、以下5つの要件をクリアする必要があります。基本的な部分は特許権と同じですが、進歩性や先願の部分に関しては特殊なので注意しましょう。
産業上の利用可能性がある
特許法第3条柱書の規定により、実用新案権の取得には産業上の利用可能性が求められます。
ですので、ビジネスで役に立たないものや現実的に実現が不可能な考案に関しては、実用新案権の保護対象外となります。
新規性がある
実用新案法第3条1項では、新規性を実用新案権の要件としています。以下のケースに該当すると、新規性がないため実用新案権の対象外となります。
- 出願時点で公然と知られている
- 出願時点で公然と実施されている
- 出願時点で、刊行物やインターネットなどによって利用可能となっている
要するに、出願時点で世間一般的に知れ渡っていない考案であれば、実用新案権を取得できるわけです。
進歩性がある
実用新案法第3条2項では、進歩性を実用新案権の要件としています。進歩性とは、既存の技術などを用いて簡単に対象となる考案を思いつけないことを意味します。
ただし特許権と比べると、進歩性の度合いが低くても実用新案権は認められます。
先願の考案である
実用新案法第7条により、同一の考案に関しては最初に出願した人物のみが実用新案権を取得できます。ただし、同じ日に複数の出願があった場合には、誰も実用新案権の登録を受けられません。
反社会的な考案でない
実用新案法第4条の規定により、反社会的な考案(公衆の衛生や善良な風俗を害する恐れがある考案)に関しては、実用新案権を得られません。
実用新案権の取得プロセス
実用新案権を取得する際には、下記3つの手順を経ます。
手順1:出願
はじめに、以下の書類を特許庁の長官に提出する必要があります。
- 願書(出願人の氏名・名称、住所・居所、考案者の氏名、住所・居所を記載したもの)
- 明細書(考案の名称、図面の簡単な説明、考案の詳細な説明を記載したもの)
- 実用新案登録請求の範囲
- 図面
- 要約書
なお実用新案権に関しては、出願と同時に登録料を納付する必要があります。納付する金額は、初回に限って3年分となるので注意しましょう。万が一出願が却下された際には、納付済みの登録料は返金されるので安心です。
手順2:方式審査・基礎的要件の審査
次に、方式審査(書類の不備に関する確認)と基礎的要件の審査(考案が満たすべき最低限の要件を満たしているかの確認)が行われます。なお実用新案権は無審査主義であるため、特許権と異なり実体審査は実施されません。
万が一書類や要件に不備が見つかった場合には、「補正命令」が下されます。このとき、補正を適切に行えば、出願が却下されることはありません。
手順3:設定登録
実用新案権は、出願があった時点で原則登録される仕組みとなっています。したがって、書類や基礎的要件に不備がなければ、実用新案権の設定登録が行われます。
なお登録した実用新案権の概要は、「実用新案公報」に掲載されることで、一般の事業者や消費者に知れ渡ることになります。
実用新案権とは?:まとめ
実用新案権の取得は、他の知的財産権と比べると容易です。存続期間がやや短い点を除けば、デメリットは特にありません。したがって、特許権を取得するほどではないものの、自社で開発したアイデアや技術を有効活用したい場合には、ぜひ実用新案権の取得を検討してみてください。