株主代表訴訟とは?普通の訴訟との違い
- 2022/8/17
- 法令コラム
会社の不祥事や内部告発なども頻繁に行われている昨今では、株主が会社の責任を追及するために訴えを起こす事例が多くなっています。今回は、株主代表訴訟について解説をしていきます。
株主代表訴訟とは
取締役をはじめとする役員等は、会社に対して善管注意義務や忠実義務などを負っています。これらの義務に反して会社に損害を与えた場合、役員等は会社への損害賠償を行う責任が生じます。この会社に対する責任を訴訟により追及する場合、会社が原告となり役員等を被告として訴えを提起するのが本来の形です。しかし、役員同士の仲間意識などから、会社が必要な責任の追及を怠ったり、真摯に訴訟追行しなかったりする、いわゆるなれ合いが生じるおそれがあります。
そこで、株主が会社に代わって役員等の会社に対する責任を追及する訴えを提起することが認められています。株主が原告となり、提起する責任追及等の訴えを、一般に株主代表訴訟と呼びます。
どのような訴えが対象となるか
①役員等の会社に対する責任を追及する訴え(主に会社法423条の任務懈怠責任)、②株主の権利の行使に関する利益供与がなされた場合の被供与者に対する利益の返還を求める訴え、③募集株式の発行等他における仮装払込人や通謀引受人に支払い・給付を求める訴え、が株主代表訴訟の対象となります。
株主代表訴訟の特殊性
通常の民事訴訟、中でも損害賠償訴訟においては、原告側が勝訴すると「被告は原告に対し金○○円を支払え」という判決が出されることになります。これに対して、株主代表訴訟では、株主は、会社に代わって訴えを提起しているため、勝訴しても原告である株主に対して金銭が支払われることはありません。つまり、勝訴した場合、判決は「被告は会社に対して、金○○円を支払え」ということになるのです。
株主代表訴訟の手続
株主代表訴訟を提起するためには、株主はまず、会社に対して書面等で責任追及等の訴えの提起を求める必要があります。これを提訴請求といいます。提訴請求の宛先となるのは、原則として代表取締役です。しかし、取締役の責任追及等の訴えの場合は、監査役会設置会社であれば監査役に対して提訴請求を行います。
もっとも、株主による提訴請求が、当該株主もしくは第三者の不正な利益を図り、または会社に損害を与えることを目的とする場合には、提訴請求はできません。このような場合に該当すると裁判所が判断した場合、代表訴訟の訴訟要件が欠けることになるため、訴えは却下されます。また、原告株主による訴えの提起が「悪意」による場合、被告の申立てに基づき、裁判所が原告に対して担保提供を命じることもあります。この場合の「悪意」とは、原告株主が請求に理由がないと認識していた場合や、原告が株主代表訴訟を手段として不法不当な利益を得ようとする場合がこれにあたります。
では、なぜそもそも提訴請求を株主代表訴訟の先にしなければならないのでしょうか。
これは、まず会社に訴訟を提起するか否かを判断する機会を与えて、会社が訴訟の原告となるという本来的な形での訴訟提起を促すためといわれています。株主としては、会社による訴訟がなされないことを見届けたうえで、会社に代わって訴訟を提起するという手続を踏むことになります。
提訴請求の日から60日が経過しても会社が訴えを提起しない場合には、提訴請求した株主は自ら原告となって株主代表訴訟を提起することができます。ただし、60日という期間の経過を待っていると「会社に回復することができない損害が生ずるおそれのある場合」には、例外的に、提訴請求を行わず、いきなり株主代表訴訟を提起することができます。
裁判所の管轄は、本店所在地を管轄する専属管轄です。代表訴訟提起権は、単独株主権で、1株以上保有する株主であれば誰でも提起することはできますが、公開会社の場合のみ6ヶ月前から引き続き株式を有する者という保有期間の定めがあります。
株主代表訴訟の終了
株主代表訴訟の判決は、原告の勝訴・敗訴のいかんを問わず、会社にその効力が及びます。また、勝訴した株主は、訴訟に関して支出した必要費用と弁護士報酬のうち相当の範囲内の金額の支払いを会社に請求することができます。
株主代表訴訟では、「和解」をすることもできます。もちろん、原告株主と被告役員等が自由に訴訟上の和解をすることができるとなると、原告株主だけの判断により役員等の責任が免除されることにもなりかねません。そのため、会社法では和解内容により会社の利益が害されないように、「和解」が認められるのは、会社が和解の当事者となっている場合や所定の手続により会社に承認した場合に限られるとされています。
まとめ
株主代表訴訟について理解は深まったでしょうか。取締役をはじめとする役員等は、職務遂行の過程で、会社に対する任務懈怠責任や、第三者に対する責任、その他法律上の責任を問われる可能性があります。そのため、法務部としては、普段から訴訟の存在を意識することが重要です。