フォートナイト裁判のその後と巨大IT企業がもたらした米独禁法の限界

フォートナイト裁判のその後

人気ゲーム「フォートナイト」の開発元である米エピックゲームズが巨大IT企業のアップルを相手どり提訴した裁判の行方に業界の注目が集まっていましたが、去る9月10日、ついに米カリフォルニア州連邦地裁が判決を下しました。

その結果、米連邦地裁はエピックゲームズの主張を認めてアップルの反トラスト法(日本の独占禁止法に相当する法律)違反を認めたのでしょうか、それともアップルの正当性を認めたのでしょうか。

今回は2021年5月24日の記事「エピックゲームズの真の狙いは?Appleを訴えた裁判について」の続編として、米連邦地裁の判決内容と米独禁法の限界についてわかりやすく解説します。

これまでの経緯

App Store、Google Playなどのアプリストアでは、取引額の30%を手数料として徴収するのが一般的ですが、世界的な大人気ゲームアプリ「フォートナイト」を開発したエピックゲームズは30%の手数料を不当と考えていました

そこで、アイテムをApp StoreやGoogle Playよりも20%安く直接購入できる決済方法をゲーム内に設置したところ、数時間後に規約違反としてApp Store及びGoogle Playから「フォートナイト」が削除され、2020年8月、エピックゲームズによるアップルの提訴へと向かいます。

※2020年・2021年とアップル、グーグルは年間売上100万ドル以下のアプリ開発企業に対し手数料を半額の15%としました。

エピックゲームズの主張は「アップルは独占企業」

エピックゲームズは、アップルが優越的立場を利用しアプリ開発者に対し次の点を義務付けていることが、反トラスト法に抵触している疑いがあると主張し提訴しました。

  • アプリ開発者に対し全てのアプリをApp Store経由で販売すること
  • アプリの支払いに関しアップルの決済システムを利用すること
  • 最大30%という高額な手数料を支払うこと

正当性を主張するアップル

  • フォートナイトは、アップル以外の機器でもプレイできるため独占に該当しない
  • App Storeを経由するのはアプリの安全性や品質を維持するため
  • アップルの決済システムを利用するのはスムーズで安全な決済を実現するため
  • 最高30%の手数料は、上記の安全性や利便性を維持・向上するための資源であり業界の標準的水準である

本裁判の最大の争点

  • アップルが反トラスト法に抵触しているか?
  • App Store の30%の手数料は不当か?

米連邦地裁の判決は?

2021年9月10日に米カリフォルニア連邦地裁が下した一審判決では、アップルによる主張の大半を支持したものとなりました。

エピックゲームズの主な主張に対する判決内容は次とおりです。

⒈ アップルは独占企業とは認定できない

米連邦地裁は、スマートフォンやタブレット端末向けのゲーム配信市場でアップルの世界シェアは50%台にとどまっていることなどを理由に、連邦または州の反トラスト法に定める独占企業とは結論づけられないと、エピックゲームズの主張を退けました。 この点に関し、9月27日の日本経済新聞では、カルテルなどの共同行為は即、独禁法違反とされるが、1社の単独行為に対しては独占を認定する基準が欧州連合(EU)が40%以上のシェアなのに対し、米国では70%以上となっており米国の反トラスト法の限界を指摘しています。

⒉ アップルの課金ルールは反競争的と認定

アップルがApp Store以外の外部課金システムへ顧客を誘導することを禁止することに対しては、米連邦地裁は消費者の不利益になり反競争的と認定

全てのアプリ開発業者がApp Store以外の課金システムに顧客を誘導することを認めるようアップルに命じました。

⒊ App Store の30%の手数料は不当ではないと判断

アップルの課金ルールは反競争的と認定されましたが、App Store内での取引に対し30%の手数料を徴収することは不当とは認められませんでした

⒋ エピックゲームズに損害賠償命令

米連邦地裁はエピックゲームズに対し、アップルとの契約に違反し「フォートナイト」内に代替決済システムを導入して得た金額の30%に相当する400万ドルを、アップルに支払うよう命じました。

⒌ その他のエピックゲームズの主張は?

「アップルの独占」に関する主張以外に、エピックゲームズが主張した以下の主張は退けられました。

  • アップルのOS内でApp Store以外の第三者によるアプリストアを認める
  • 「フォートナイト」をApp Storeなどに復帰させる
  • App Storeの手数料を引き下げる

アップルと日本の公正取引委員会の合意

米国とは別に、日本の公正取引委員会はアップルに対して「リーダーアプリ」の開発者に対する課金ルールの変更を求めていましたが、2022年初めからアプリ内に自社のwebサイトへのリンクを1つ設置できるようにすることで合意しました。

リーダーアプリとは、デジタル書籍や新聞、音楽、ビデオなどのユーザーが購入したコンテンツを提供するアプリのことで、NetflixやSpotify、Audible、Dropboxなどが該当します。

このような著作権が関わるコンテンツを提供するには、著作権料などの負担が大きくApp Storeの手数料が負担となっており、公正取引委員会はアップルの課金ルールが開発者の事業を制限し、独占禁止法に違反している疑いがあるとして審査していました。

この合意は、日本国内だけではなくApp Storeで公開されている世界中の全てのリーダーアプリに適用されますが、ゲームアプリは含まれていませんでした。

今後の行方

アップルは米連邦地裁の判決に対し、アップルが反トラスト法で禁止されている独占企業には当たらないという、同社の主張を裏付けるものとして評価。

対するエピックゲームズは、アップルにApp Store以外の課金システムへの顧客誘導を認めるよう命じた今回の判決に対し「開発者や消費者の勝利とはいえない、リンクなどではなくアプリ内課金を認めてもらうまでは戦いを続ける」として上訴しています。

App Storeの手数料収入は2020年で約200億ドルと推測されており、今回の判決で手数料回避の動きは他のアプリ開発業者にも拡大し、App Storeの収益性に大きな影響を与える可能性が出てきました

まとめ

この裁判は単なる大手プラットフォーマーとアプリ開発業者の争いだけではなく、米国における巨大IT企業の規制強化の一環としての側面もありましたが、現在の反トラスト法が抱える限界を浮ぼりにする結果となりました。

2021年6月6日に、反トラスト法を所管する米議会の下院司法委員会が、アップルやアルファベット(グーグル)、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックを対象とする巨大IT企業による反トラスト法調査の報告書を発表。 反トラスト法調査の報告書の主要ポイントは次の5点です。

  • 大手IT企業4社は市場を支配し、独占的な力によって利益を得ている
  • 大手IT企業が分野が近い事業を行う場合には、構造的に分割すべき、
  • プラットフォームで自社の製品・サービスを優遇する行為は禁止すべき
  • M&Aを行う場合には企業側が合法性を証明すべき
  • 反トラスト法を強化し、支配的地位の乱用の禁止が必要

この報告書に基づく反トラスト法の改正案も検討されていますが、巨大IT企業の制御に対しては米議会でも賛否が分かれています。

今回、米連邦地裁が下した判決が巨大IT企業の規制強化の流れに対し、どのように影響するのか先行きは見通せない状況です。

関連記事

ページ上部へ戻る