年に3回も値上げの食用油、その原因は?

食用油の値上げ

日清オイリオグループ、昭和産業、J- オイルミルズの製油メーカー大手3社が一斉に8月の納入分から家庭用食用油や業務用食用油などの油脂製品を値上げしました。値上げは、今年に入ってから4月、6月に続いてこれで3度目となり、同一製品が短期間に3度も値上げすると言うのは異例のことです。

また、中堅メーカーの利権農産化工、食用加工油脂メーカーのミヨシ油脂やカネカなども値上げを発表しています。今回は、家庭料理には欠かせない食用油がなぜ半年の間に3度も値上げしなければならなかったのか、その原因について詳しく解説します。

値上げの中心となった家庭用食用油

家庭用食用油には様々な種類がありますが、今回の値上げの中心となったのは次の3種類の食用油です。

菜種(なたね)油

セイヨウアブラナから採取した植物油で、酸化、熱に強いのが特徴。カナダ原産のキャノーラ種から採取した「キャノーラ油」も菜種油の一種です。菜種油は、オレイン酸の割合が高く日本では最も使用量の多い食用油です。

大豆油

大豆の種子から採取した植物油で、世界的にはパーム油に次ぐ生産量です。家庭で使用するサラダ油は、大豆油にコーン油や菜種油などをブレンドしたもの。大豆油は、リノール酸を豊富に含み、サラダ油の他にマヨネーズやマーガリンの原料などとしても広く使用されています。

パーム油

アブラヤシの果肉から採取され、世界では最も多く生産される植物油。パーム油は、パルミチン酸やオレイン酸を豊富に含み、常温では固形で酸化安定性に非常に優れ、マーガリンなどの原料としても使用されています。また、近年では食用油の他にバイオ燃料にも利用されており、既にパーム油を燃料とするバイオマス発電所も稼働しています。

2020年過去最高の売上を記録した家庭用食用油

以前はカロリーの高さなどから敬遠されがちだった食用油ですが、最近では健康維持に必要な成分を豊富に含んでいることが広く知られ、食用油の「健康性」や「おいしさ」に対する消費者嗜好が合致し需要が高まっています。

さらに、コロナウィルス感染拡大の影響によって内食の機会が増加するなど、4年連続で過去最高を更新し2020年度には1,668億円を記録しました。

ところが、売上好調の最中に大豆・菜種・パーム油などの原料価格の歴史的な高騰によって大手3社が一斉値上げを実施することになりました。

家庭用食用油の市場規模(国内)

家庭用食用油の市場規模(国内)
(出典:食品産業新聞社 ニュースWEB 2015.5.13)

大手3社の家庭用食用油値上げの推移

値上げ時期や値上げ幅には若干の違いはありますが、今年実施した製油メーカー大手3社の値上げについてはほぼ横並びとなっています。

日清オイリオグループの値上げ

値上げ時期 値上げ幅
2021年4月1日出荷分より 20円/kg以上
2021年6月1日出荷分より 30円/kg以上
2021年8月1日出荷分より 50円/kg以上

J-オイルミルズの値上げ

値上げ時期 値上げ幅
2021年4月1日出荷分より 30円/kg以上
2021年6月1日出荷分より 30円/kg以上
2021年8月2日出荷分より 50円/kg以上

昭和産業の値上げ

値上げ時期 値上げ幅
2021年3月1日出荷分より 30円/kg以上
2021年6月1日出荷分より 30円/kg以上
2021年8月2日出荷分より 50円/kg以上

値上げはマーガリンやマヨネーズにも波及

マヨネーズの最大手キューピーは、マヨネーズの主原料である食用油価格の高騰を受けて、キューピーマヨネーズ、キューピーハーフなどの家庭用マヨネーズを2021年7月1日出荷分から2〜10%の値上げを実施。

また、雪印メグミルクも、大豆・菜種・パーム油などの価格高騰により主力商品のネオソフトなどのマーガリン類、バター類、クリーム類などを2021年10月1日出荷分から最大12.2%値上げすると発表しました。

値上げの原因は原料価格の高騰!?

原料の価格は基本的に、生産量、在庫量、需要の3つのバランスによって変動しますが、ときには投機資金の流入によっても変動します。

今回のケースは、我が国が輸入に頼っている大豆・菜種・パーム油の需要が世界的に増大し在庫量が低下。それに加えて天候不順などで生産量の低下懸念が発生したことが急激な価格高騰の引き金となりました。

天候不順による生産量の低下

大豆の相場は、ラニーニャ現象の発生でペルー沖の海水温が平常時よりも低くなった影響で、世界第1位の大豆生産国ブラジルと世界第2位のアメリカが乾燥に見舞われ減産の懸念によって2014年以来の高値となりました

菜種の相場は、世界第1位の菜種生産国のカナダが夏場の高温による生育不良で生産量が下方修正されEU諸国の生産量も減ったのですが、菜種の需要は拡大し在庫水準が低下したことから品薄感が広がり2008年以来の史上最高値を更新

パーム油の相場は、ラニーニャ現象の影響や新型コロナウイルスのパンデミックによる労働力不足などで主要生産国であるマレーシアの生産量が落ち込んだのに対し、価格が急騰する大豆や菜種などの代替品としてパーム油の需要が世界で急増し2011年来の高値水準になりました。

バイオ燃料の需要増

CO2(二酸化炭素)をはじめとする温室効果ガスの排出量削減は、世界全体で急ぎ取り組まなければならない課題です。

そこで植物油を利用して開発が進められているのが、ディーゼルエンジンの代替燃料「バイオ燃料」。太陽光や風力に比べ安定的な出力が得られることから、近年では生産量が4,000万トンを超えると見込まれています。

バイオ燃料の中心的な油種は「大豆油」「菜種油」「パーム油」で、天候不順による生産量低下の見通しに加えて、バイオ燃料の需要増大が価格高騰の要因にもなっているのです。

中国の輸入量の急増

2018年に流行したアフリカ豚熱によって中国の豚肉の生産量が大きく落ち込んだのですが、現在は疫病が沈静化し回復基調にあります。そのため、豚のエサになる大豆の輸入量が急増したこともあって中国の大豆輸入量は過去最高の1億トンの大台に乗り、世界の大豆在庫が減少しました。 そのため、中国を中心とする世界の需要に対して供給がひっ迫し、今後もこの状況が継続すると想定されるため大豆の価格が過去に類を見ない水準になっています。

まとめ/年に3回も値上げの食用油、その原因は?

過去に大豆の相場が最高値を更新したのは、ブラジルの高温・乾燥による減産懸念と中国の輸入需要の期待から価格が高騰した2012年。その後、アメリカにおける大豆の生育が回復し、ブラジルの増産見込みなどにより価格は低下しました。

前回の価格高騰は、世界の大豆輸出量の80%以上を占めるブラジルとアメリカの生産量と、世界の60%以上を占める最大の輸入国である中国の動向が相場に大きな影響を与えたのですが、今回の価格高騰も基本的には同じ構造の様です。

2020年後半の原料価格の急激な上昇をなんとか吸収しようと大手3社が2021年4月から製品価格の値上げを実施しましたが、その後の原料価格の上昇が止まらず6月、8月の値上げとなりました。 この値上げは、植物油を原料とする化粧品、石鹸、菓子類などへ波及する可能性があり、このままの高騰相場が続くと家計への影響が懸念されます。

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