弁護士ランキングの正しい使い方
- 2020/1/14
- 法令コラム
普段から付き合いのある弁護士がいない人にとって「弁護士選び」は、簡単な作業ではありません。「よい弁護士をなかなか見つけられない」というときに「弁護士ランキング」のような情報に接すれば、「ぱっと見てわかりやすい指標」を参考に弁護士を選ぼうと考える人も多いかもしれません。
しかし、実際にわたしたちが目にすることのできる弁護士ランキングには、「無条件に参考にすべきではない」ものも少なくありません。そもそも弁護士をランキング化することが不適切といえる場合も少なくないからです。
そこで、今回は、「弁護士ランキング」とよばれるものを利用して弁護士を選ぶ際に注意すべきポイントなどについてまとめてみました。
信用すべきではないランキングの具体例3つ
近年では、「弁護士の数が大幅に増えた」、「法的なニーズが増えた(多様化した)」といった事情などを背景に、「弁護士のランキング」を取り扱う媒体が増えてきています。特に、ウェブで見ることのできる「弁護士ランキングサイト」は、誰でも(いつでも)アクセスできるという意味でとても便利ですから、参考にしようと考えた人も多いかもしれません。
しかし、これらの「弁護士ランキング」には、信憑性に疑いのあるものも少なくありません。特に、以下で解説するようなランキング(サイト)は、その評価(ランキング)を割り引いておく必要があるといえるでしょう。
作成者の主観に過ぎないランキング
ウェブ上などで目にすることのある弁護士ランキングには、「作成者の主観」によるランキングに過ぎないものが少なくありません。しかし、「わたしはこうだと思う」というランキングは、別の人が評価をすれば全く違う結果になる可能性があることに注意する必要があります。「好きな芸能人ランキング」の上位にくる芸能人の中に「好きではない芸能人」がいる場合があるのと同じように考えればわかりやすいといえるでしょう。
また、主観的なランキングのほとんどは、ランキング作成者である「広告業者」が弁護士事務所からの広告出稿を受けるために行っているものであることも忘れるべきではありません。
根拠の詳細が示されていないランキング
取扱い実績や顧客満足度(口コミランキングのようなもの)に基づいているとされる弁護士ランキングの場合には、その根拠となる数値の詳細が示されているかどうかが、ランキングの信頼度をはかる大きな指標といえます。
信頼に値するランキングといえるためには、最低でもその根拠となった情報について、次のような事項が明らかにされていることが必要でしょう。
- ランキングを作成するにあたり「どのようなモノサシ(基準)」を採用しているのか
- モノサシとなる情報を「誰が」取得(調査)したのか
- モノサシとなる情報を「どのような方法」で取得したのか(アンケート調査など)
- モノサシとなる情報を「いつ」取得したのか
- モノサシとなる情報の「詳細」(アンケートの母数・回答数・回答結果など)
しかしながら、いわゆる「弁護士ランキングサイト」では、これらのランキングの根拠となる情報が示されていないことがほとんどです。
自分の弁護士ニーズと合致しないランキング
弁護士ランキングは、たとえば「○○に強い弁護士」、「費用の安い事務所」といった具合に、「弁護士に関する特定の事項」にターゲットを絞って示されていることが一般的です。言い換えれば、「すべての情報を総合評価した弁護士ランキング」は存在しないということです。
他方、消費者側には弁護士に対する様々なニーズがあります。言い換えれば「その依頼人が良い弁護士と考える基準」も千差万別ということですから、「自分が探している評価基準のランキングがない」ということも珍しくありません。
この場合に「似ている(と感じる)ランキング」を参考にすることは、ミスマッチの原因となりやすいことは注意しておくべきといえます。なぜなら、それぞれの弁護士ランキングの結果には相関関係がない場合の方が多いからです。
つまり「企業法務に強い弁護士」と「交通事故に強い弁護士」は同じとは限らないし、「費用の安い事務所」と「満足度の高い(口コミ評価の高い)事務所」も同じとは限らないということです。
弁護士を「ランク付け」することが難しい3つの理由
弁護士ランキングを参考にする際には、弁護士をランキング化することそれ自体が難しいことであることを前提にした上で参考にすべきです。
以下では、「弁護士(事務所)をランク付けすることが難しい理由」について簡単にまとめておきます。
弁護士をランク付けするためには弁護士をよく知る必要がある
弁護士のことを最もよく理解しているのは当然弁護士であるといえますが、弁護士自身が(広告目的で)弁護士ランキングを作成することは、弁護士による比較広告を禁止している内規に抵触する可能性が高いといえます。
たとえば、弁護士(事務所)が「○○に強い弁護士ランキング」のようなものを作れば、「客観的な根拠に基づかない比較広告」、「誤導・誤解を招く恐れのある広告」となる可能性がかなり高いといえるからです。
【参照】業務広告に関する指針(日本弁護士連合会策定) https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/rules/pdf/kaiki/kaiki_no_45-2_160620.pdf
もちろん、理屈としては、弁護士以外の者が作成することによって評価できる部分(弁護士ではない者だからわかる要素)もあるのですが、実際に弁護士に業務を依頼したことのない人が作成したランキングというのは、どうしても割り引いて評価せざるを得ないでしょう。また、広告目的で作成されたランキングサイト(「○○に強い弁護士ランキング」サイトのようなもの)は、「弁護士事務所への集客目的に第三者が作った情報」という時点でかなり強いバイアスがあることには注意しておく必要があります。
良い弁護士事務所だから薦めているというよりも、「広告業者の顧客である弁護士事務所を紹介する」ためのランキング(ステルスマーケティングの一種)である可能性の方が高いからです。
異なるタイプの事務所を同じ基準で評価するのは難しい
数的な評価は、「基礎条件が同じ」であることが、客観性や公平性を担保するための必須条件といえます。しかし、弁護士費用の比較や、取扱件数の比較といったランキングの多くは、これらの基礎条件が同じではない事務所を並べていることもあるので注意する必要があります。
たとえば、弁護士1人の事務所と、弁護士100人の事務所をある案件の取扱件数で比較することは、それぞれの弁護士(事務所)の力量を比較する方法として適切ではない場合が多いといえるでしょう。
取扱件数のような項目は、実際に取り扱った案件の難易度や依頼人の満足度と切り離されて示されることも多いので、その点でも限界があるといえます。定型化できる案件の100件と、難易度の高い1件を同じに評価するのはやはり適切とはいえないからです。
同様に、勝訴率のような数値も「確実に勝てる事件」だけを受任していれば自ずと数値は高くなるので、弁護士の力量をはかるモノサシとしては不適切とえいます。いわゆる「負け筋」の案件を上手に対応することも弁護士にとって重要な業務のひとつだからです。
また、弁護士費用についても弁護士の力量とは無関係の要因(事務職員の人件費・家賃・所属弁護士会の会費といった固定費など)で定められているケースが多いことにも注意しておく必要があるでしょう。
「全く同じ事件」は基本的に存在しない
弁護士への業務依頼のほとんどは、オーダーメイド型の依頼です。たとえば、契約書のチェックといっても、対象となる契約の内容、チェックしなければならない事項の種類・程度が全く同じという仕事はないでしょう。
相手方との交渉が必要となる案件ではなおさらです。その意味では、どのような基準に基づいていたとしても、「他者の評価」であるという時点で限界があることは否定できません。
当サイトで紹介している弁護士ランキングの読み方
当サイトでは、弁護士ランキングに関するいくつかの記事を提供していますので、それらを参考にする際の注意点についても触れておきたいと思います。
所属弁護士数で弁護士事務所を比較することが有効な場合
所属する弁護士数を参考に弁護士事務所選びをすることが有効なケースの典型は、「大規模な案件」を依頼するようなケースです。
たとえば、巨大プロジェクトの契約交渉では、多量の契約書の作成・チェックが必要となるなど、弁護士に依頼する業務量それ自体が膨大になることが多いでしょう。1人の弁護士が対応できる仕事量には限界がありますので、大規模な案件では裏方スタッフも含めた「チーム」で対応してもらえる人員規模の大きな事務所に依頼した方がよい場合が多いといえます。
また、一つ一つの仕事は大きくなくても、同時並行的に多量の業務を依頼する場合や、緊急の対応を依頼する可能性が高いケースでも、同様のことが当てはまります。小規模事務所であれば、依頼への対応は、その弁護士のスケジュールに左右されてしまう側面があることは否定しづらいからです。
所属弁護士数で弁護士事務所を比較することの限界
他方で、所属弁護士数で弁護士事務所を比較することには、「比較の対象となる弁護士事務所が全体のごく一部にとどまってしまう」ことに注意する必要があります。
日本の弁護士事務所の約9割は、弁護士数1~5人までの小規模事務所ですから、所属弁護士数で弁護士事務所を比較すれば、全体の弁護士事務所の数%の範囲でしか弁護士を比較していないということになってしまいます。
大企業の企業法務を依頼するという文脈では、最先端の企業法務実務に精通した弁護士が多く所属しているこれらの事務所に依頼した方がよいケースが多いことは事実でしょう。
とはいえ、すべての企業法務が大企業(大規模案件)で必要される法サービスと同じとは限りません。中小企業が弁護士を選ぶという場合には、「チームでの対応」や「特殊な知識・スキル」を必要としないことも珍しくないといえます。個人事務所の弁護士であっても、協力関係にある他の弁護士や税理士などの隣接専門家と連携することで、十二分に対応してもらえる可能性も十分にあります。
また、顧問契約を結ぶことで、個人の事務所であっても優先的に対応してもらえることもあるでしょう。中小企業の場合には、遠くにある大規模事務所よりも、「自社の近く」の個人事務所の方が融通も利きやすくてメリットが大きいというケースもあるかもしれませんが、弁護士数で比較をすれば、これらの事務所はそもそも検討の俎上にすら上がらないことになってしまいます。
「同業者による評価」の難しさ
当サイトでは、日経新聞社が実施した「企業法務・弁護士調査」の結果も紹介しています。この調査は、アンケート結果の詳細についても情報が開示され、同業者である弁護士や、日頃から弁護士との関わりのある企業の法務担当者による評価をベースにつけられたランキングであるという点では、一定の信頼性が担保された弁護士ランキングであるといえるでしょう。
ただ、大手企業法務部や、企業法務のスペシャリストによる評価という点で、「大規模事件」、「先端領域」、「有名事件」への対応といった、社会的にも注目の高い案件への貢献などがベースに評価がなされている可能性が高い点では、一定の限界があるともいえます。
また、弁護士や企業の法務担当者も「すべての弁護士」を知っているわけではありませんから、「その評価者が知っている弁護士限り」のランキングであることも限界の一つということができます。 実際の弁護士業務には、地味だけど重要という業務も多いですから、著名な弁護士でなければ、依頼人の期待に応えられないというわけではないからです。
弁護士ランキングの正しい使い方:まとめ
「弁護士ランキング」は、弁護士について全く予備知識のない人にとっては、参考とすべき情報をわかりやすく与えてくれるという点で一定の意義があります。
しかし、弁護士という職業の性質を考えたときには、「弁護士ランキング」には明確な限界点があることだけは忘れるべきではありません。それぞれのランキングが必ず抱えている限界を見落としたままその結果だけを鵜呑みにすることは「ミスマッチ」の原因にもなります。
弁護士に依頼した業務は、「後でやり直す(別のサービスを買い直す)」ことが難しいケースがほとんどですから、弁護士を選ぶときには、様々な選択肢があることを忘れずに、必ず「自分自身で弁護士と直接会ってから判断する」ことを大切にすべきといえるでしょう。