日本郵便の年末年始ごあいさつ用カレンダーの配布にあたって全国郵便局長会から不適切な指示がされていたことに関する第三者委員会の報告の概要

今回の記事では、郵政民営化を経て誕生した日本郵便株式会社(以下「日本郵便」という。)における、政治資金規正法違反の疑いに関する第三者委員会の調査について解説します。

問題の概要

政治資金規正法21条1項は「会社、労働組合…、職員団体…その他の団体は、政党及び政治資金団体以外の者に対しては、政治活動に関する寄附をしてはならない。」と規定しています。

そして、2018年から2020年にかけて、日本郵便はお客様に年末年始ごあいさつ用カレンダーを配布していたところ、この配布が全国郵便局長会[1]の政治活動に利用されていた疑いが生じました。

もし、配布が政治活動に利用されていた場合、カレンダーの代金を日本郵便が支出したことが、全国郵便局長会への「寄附」とみなされて違法となる可能性があります。

そこで、日本郵便は、その親会社である日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という。)に調査を依頼して、カレンダー配布に至った内部事情や配布の政治資金規正法違反の有無について明らかにすることとしました。そして、日本郵政は外部調査チーム(第三者委員会)を設置しました。

なお、日本郵便と日本郵政はとても名前が似ていますが、それぞれ別の会社ですので、本記事を読み進める際には注意してください。

第三者委員会の概要

構成

今回の調査は、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業の危機管理プラクティスグループに所属する15名の弁護士によって構成されました。

さらに、一部のヒヤリングはDT弁護士法人に所属する5名の弁護士が行い、デジタルフォレンジック調査はデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下「DTFA」という。)が実施しました。

調査手続

日本郵政は2021年10月15日に、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業に対して調査を依頼し、外部調査チームは同年12月21日まで調査を実施しました。

調査の対象は2018年4月1日から2021年3月31日までの期間で、本件カレンダーの関連資料の調査、本件の関係者へのヒヤリング、電子データやメールデータの[2]デジタルフォレンジック調査(以下「DF調査」という。)が行われました。

調査結果

カレンダー配布の概要

まず、各年度におけるカレンダー配布に係る予算執行額は以下の通りでした。

2018年度2億37万円
2019年度4億104万円
2020年度4億104万円

カレンダー配布に至る事実経緯

2018年度の配布

2018年8月下旬頃、全国郵便局長会事務局担当者L氏が、日本郵便の取締役会長AおよびI執行役員と面談し、本件カレンダーを日本郵便で購入することを全国郵便局長会が希望していることを伝えました。これを受けて、I執行役員はカレンダーを配布することを日本郵便として「地方創生」の一環として行うことに合理性があり、金融営業や郵便・物流営業にも貢献できると考えました。

I 執行役員は、全国郵便局長会がカレンダーの配布を希望する理由の詳細を聞くことはありませんでしたが、当然に業務の目的に沿ってカレンダーの配布が行われ、政治活動に利用されることはないと認識していました。

こうして、I執行役員は地方創生室に指示をして経営幹部向けの説明資料を作成しまし、A会長の了解を得ました。この説明資料を用いて、経営幹部に説明を行いましたが、代表取締役社長兼執行役員社長と予算措置の決裁権限者に対しては全国郵便局長会の要望を伝えることはありませんでした。

その後、A会長は、L氏から「カレンダー調達の件では、会長に大きな決断をしていただき、I執行役員に調整いただき実現していただきました。ありがとうございます。」などと記載したメールを受信しました(当該メールはDF調査にて発見された)。

2019年度の配布

2019年の6月頃までに、L氏はI執行役員に、全国郵便局長会が次のカレンダー配布は前年度の2倍に増やしてほしいと考えていることを伝えました。さらに、全国郵便局長会のM会長からも、2019年度版カレンダーの評判がよかったことから2020年度は2倍に増やしたい旨を伝えらえました。

I執行役員は前年度の倍額となる約4億円の予算を確保することは合理性があると考え、地方創生室に指示をして経営幹部向け資料を作成しました。そして、A会長の了承を得たうえで、経営幹部に説明しましたが、経営幹部にはM会長の要望については説明しませんでした。

2020年度の配布

2020年度については、前年度と同様の内容の書類を作成し、経営幹部の決裁を得ました。そして、2020年度は全国郵便局長会から指示を受けたという事実は認められませんでした。

政治資金規正法への抵触の有無の検討

外部調査チームは、法解釈と以上の事実関係に基づいて、本件カレンダー配布は政治資金規正法に違反しないと結論付けました。理由は以下の通りです。

「寄附」に該当しないこと

本件のカレンダー配布の施策実施等行為は、会社の業務としても使用する本件カレンダーなどを郵便局で購入する予算措置を行い通知するにすぎないから、供与又は交付の相手方がいません。そうだとすると、「寄附」に該当すると評価することは困難であると結論づけられました。

配布行為が私的な行為としての性質を有すること

政治資金規正法の規制対象となるのは、日本郵便の「役職員又は構成員」としての行為に限られます。

今回のカレンダー配布について、日本郵便から地方創生のための配布であるとの指示があったものの、全国郵便局長会が介入し、局長会支援者にカレンダーを配布するように指示しました。これによって、郵便局長らが会社の業務と局長会の業務を峻別することなく、局長会支援者にカレンダーを配布しました。

これらの事実を考慮すると、カレンダーの配布は私的な行為としての性質を有するため、日本郵便の「役職員又は構成員」としての行為として評価することは困難であると結論付けました。

経営幹部らに故意が認められないこと

刑事責任は、原則として故意がある場合に限って負うことになります。

本件カレンダー配布の決定は社内で定められた手続にしたがって実施されていること、今回の日本郵便の意思決定機関である経営幹部の多くは、全国郵便局長会の要望があった等の経緯を確認していないこと、経営幹部はカレンダーが政治活動に使用されることはないと認識していたことから、故意があったとはいえないと結論付けました。

まとめ

今回の調査では、政治資金規正法の抵触の有無が問題になりましたが、結論として問題はないと判断されました。今回のように会社の予算が予期せぬ形で政治行為に利用された場合、政治資金規正法の抵触が疑われることがあります。そのため、予算の決定においてその使途を透明化し、その予算が適切に運用されるような体制を整えることが大切だといえるでしょう。


[1] かつての全国特定郵便局長会。かつて特定郵便局に指定されていた郵便局の現局長らによって構成される。政治活動も積極的に行っており、日本郵政グループに関わる政策の実現に尽力している。

[2] デジタル機器上に残るデータを抽出・調査解析し、「コンピュータやネットワーク上で実際に何がどのように行われたのか」を法的な証拠になりうるように確保する手法・技術(『デジタルデータは消えない』佐々木隆仁著)。

簡単にいうと、消えてしまったデジタルデータを復元させることなどを通じて、デジタルデータの確保をする技術のことをいう。

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