日本大学アメリカンフットボール部 反則行為問題における第三者委員会報告書の概要

日本大学アメリカンフットボール部における反則行為問題における第三者委員会報告書の概要

この記事では、日本大学アメリカンフットボール部の反則行為問題を事例に用いて、第三者委員会の活動について解説します。

問題の背景

本件は、日本大学のアメリカンフットボール部に所属していた選手(以下A選手)が、関学大との試合中に相手チームの選手(以下B選手)に対してルール違反となる危険なタックルを行なって負傷させた問題です。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件の第三者委員会は、反則行為の事実確認や原因究明、ガバナンス体制の検証、再発防止策の提言という役割を担いました。

本件の第三者委員会は、下記のメンバーで構成されました。

  • 委員長:勝丸 充啓(弁護士 〈元広島高等検察庁検事長〉芝綜合法律事務所)
  • 同代理:辰野 守彦(弁護士 芝綜合法律事務所)
  • 委員:本田 守弘(弁護士 〈元検察官〉大西清法律事務所)
  • 委員:山口 幹生(弁護士 〈元検察官〉大江橋法律事務所)
  • 委員:齋藤 健一郎(弁護士 〈元検察官〉渥美坂井法律事務所)
  • 委員:和田 恵(弁護士 高野隆法律事務所)
  • 委員:磯貝 健太郎(弁護士 芝綜合法律事務所)

第三者委員会の活動スケジュール

では次に、問題発生から第三者委員会が調査を始めた経緯をご説明します。

そもそもの始まりは2018年5月6日に行われた、日本大学と関西学院大学のアメフトの試合にさかのぼります。この試合にて日大側のA選手が関学大側のB選手に対して危険なタックル行為を行なったことが、インターネット上で動画として拡散して大きな騒動となりました。

翌日からは報道番組で取り上げられて、より一層騒動は大きくなりました。本件問題を受けて関東学生アメリカンフットボール連盟は、5月10日にA選手の対外試合出場停止や指導者である内田氏への厳重注意を発表しました。

これで事態が収束するかと思いきや、5月14日にスポーツ庁の鈴木大地長官が本件問題を強く非難したり、同月29日には関東学連が指導者である内田氏や井上氏による反則指示があったことを認定する発表を行ったりと、事態は深刻化の一途をたどりました。

事態の深刻化を受けて同大学は、同日中(29日中)に常務理事会を開催し、第三者委員会の設置を決定し、同月31日には第三者委員会の設置を発表しました。その後調査は約2ヶ月に及び、2018年7月30日には最終報告書を提出しました。

日本大学のアメフト問題の経緯をまとめると、以下のようになります。

  • 2018年5月6日 本件事案(危険タックル行為)が発生
  • 2018年5月7日 報道番組で大きく本件問題が取り上げられて大騒動となる
  • 2018年5月10日 A選手の対外試合出場停止、内田氏への厳重注意が発表される
  • 2018年5月14日 スポーツ庁の鈴木大地長官が本件問題を強く非難
  • 2018年5月29日 関東学連が指導者による反則行為の指示を認定する
    同日 日本大学が常務理事会により、第三者委員会の設置を決定
  • 2018年5月31日 第三者委員会が設置される
  • 2018年7月30日 第三者委員会が最終報告書を提出

本件の調査のポイント

本件調査のポイントは、多くの関係者にアンケートやヒアリングを行うことで、事実確認や背景にある原因を詳細に分析した点です。

具体的には、日大アメフト部の関係者約100名にヒアリング、部員150名にアンケートをそれぞれ取ることで、悪質なタックルがどのようにして行われたのか、そしてなぜそのような行為に至ったのかを多面的な視点から分析しました。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の調査により、A選手が危険な行為により相手を負傷させた経緯が判明しました。

そもそもA選手は、1年生の時から日大アメフト部の中心選手として活躍し、日本代表選手にも選考されるほどの実力者でした。しかしある時から、「やる気が感じられない」といった抽象的な理由により、内田氏やコーチの井上氏からパワハラとも呼べるレベルの扱いを受け、試合にも出させてもらえなくなりました。

そんな中でA選手は、内田氏と井上氏から、試合に出させる条件として相手チームの選手に危険なタックルを行うことを指示されました。精神的に追い詰められていたA選手は、この指示を受け入れて本件問題を起こしました。

なお第三者委員会の調査によると、本件のA選手に限らず、日大アメフト部では一定の期間にわたり特定の選手に対して厳しい態度をとり、精神的に負荷をかけて追い込む指導が行われていたとのことです。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

最終報告書でも述べられているとおり、現時点で本件の影響を定量的に測ることは難しいです。しかしながら、オープンキャンパスの来場者数や受験者数の減少、私立大学等経常費補助金の減額が予想され、今後財務状況に大きな悪影響を及ぼすことが懸念されています。

格付けの評価

第三者委員会の提出した最終報告書は、第三者委員会報告書格付け委員によって格付け評価が行われました。なお格付け評価は、原因分析の深度や調査範囲の妥当性などの基準により、A(良い)〜F(悪い)までの5つの段階で実施されました。

日本大学の第三者委員会については8名の委員が評価を行い、C評価が1名、その他7名全員はD評価と総合的に低評価となりました。学生のスポーツや教育機関に対して専門的な知見を持つ委員が不足している点や、ガバナンス問題や組織構造に着目した調査が不十分である点などが、多くの議員から低評価を受けています。

日本大学の危機対応に不備があった点を詳しく事実認定した点についてはプラスの評価を行う議員もいたものの、その他に目立ってプラスの評価を受けた点はありませんでした。

根本的な原因

第三者委員会は、日大アメフト問題が生じた背景には、二つの根本的な原因があると述べています。

一つ目の原因は、日大アメフト部が内田氏の独裁体制下となっていた点です。選手に対して一方的にパワハラとも呼べるほどの過酷な練習を課したり、井上氏をはじめとした周囲のコーチも内田氏に迎合していたがゆえに、本件のような行き過ぎた行為に発展したと考えられます。

二つ目の原因は、ガバナンスの欠如です。日本大学では、アメフト部の上位組織に保体審と呼ばれる組織がありました。しかし内田氏が保体審会長の大塚学長より実質的に大きな権力を持っていたために、保体審が形骸化していました。本来保体審には、監督やコーチの指導方針を監督し、問題がある場合には指導者を変えるなどの役割がありました。

しかし形骸化の影響で保体審には問題発生時の対処に関する仕組みがなかったため、内田氏の独裁を止めることができない状態となっていたのです。

まとめ

今回の記事では、日本大学アメフト部の問題を事例に、第三者委員会の活動や調査結果をお伝えしました。

日大アメフト部の問題をはじめとして、独裁やパワハラ気質の組織では、組織のメンバーが度を超えた行為に走ってしまう傾向があります。こうした問題を解決するには、ガバナンスや組織の構造にメスを入れて、根本的な部分から組織の仕組みを改善する必要があります。
組織内部の構造にまで踏み込んだ調査を行い、適切な対策を提言すれば、本件第三者委員会はより良い格付け評価を得られたと考えられます。

参考文献

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