公務員っておごったりおごられたりしたら贈収賄にならならないの?
- 2020/9/4
- 法令コラム

賄賂(わいろ)とは、贈る側からすると「自分に有利なように取り計らってもらうために贈る不正な金品」、受け取る側からすると「公務員などの職務に関する不法な報酬」のことで、この賄賂を贈ったり受け取ったりすることを「贈収賄(ぞうしゅうわい)」といいます。
最近話題になった、黒川前東京高検検事長及び3人の新聞記者らが新型コロナウイルス感染拡大に対する緊急事態宣言下で賭けマージャンを複数回行った問題で、一連の行動が常習賭博罪や贈収賄罪の疑いがあると、市民団体などが東京地検特捜部に告発状を提出していました。
どのような場合に贈収賄と認定されるのか、あるいは認定されないのか、本事件を通して贈収賄罪について詳しく説明します。
収賄罪(しゅうわいざい)とは
冒頭で贈収賄について簡単に記載しましたが、公務員が賄賂を受け取る「収賄罪」にはいくつかのパターンがあります。
刑法では犯罪のパターンによって、次の1〜7の収賄罪が規定されています。
1.単純収賄罪(刑法第197条 第1項前半)
公務員がその職務に関し、賄賂を収受・要求・約束をしたときは、5年以下の懲役。
※「賄賂」は公務員の職務に関する不正の見返りとしての性質がなければいけませんが、直接贈る金品だけではなく、接待、旅行への招待、値引き、試験の有利な採点、就職の口利きなどの行為も含まれます。
2.受託収賄罪(刑法第197条 第1項後半)
請託を受けて単純収賄を行ったときは、7年以下の懲役。
※「請託」とは、公務員に一定の職務行為を行うように依頼することです。
3.事前収賄罪(刑法第197条 第2項)
公務員になろうとする者が、将来担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受・要求・約束をしたときは、公務員となった場合に5年以下の懲役。
4.第三者供賄剤(刑法第197条の2)
公務員が、その職務に関し、請託を受けて第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役
5.加重収賄罪(刑法第197条の3 第1項・第2項)
- 公務員が1〜4の罪を犯し、よって不正な行為をし、または相当の行為をしなかったときは、1年以上(20年以下)の有期懲役
- 公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受・要求・約束をし、または第三者に賄賂を供与させ、または供与の要求・約束をしたときは、1年以上(20年以下)の有期懲役
6.事後収賄罪(刑法第197条の3 第3項)
公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと、または相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受・要求・約束をしたときは、5年以下の懲役
7.あっせん収賄罪(刑法第197条の4)
公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、または相当の行為をさせないようにあっせんをすること、またはしたことの報酬として、賄賂を収受・要求・約束をしたときは、5年以下の懲役
贈賄罪(ぞうわいざい)とは
上記1〜7の収賄罪において、公務員に賄賂を供与し、またはその申込み・約束をしたときには「贈賄罪」となり、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処せられます。
黒川前検事長のケース
ここからは、公務員である黒川前検事長が行った賭けマージャンのケースにおいて、どの部分が収賄罪の疑いがあるのか見てゆきたいと思います。
事件のあらまし
- 黒川前検事長は、新型コロナウィルス感染防止のため外出自粛要請が出ているなか、5月1日と5月13日に、産経新聞記者2名、朝日新聞社社員1名と産経新聞記者宅で賭けマージャンを行った。
- 賭けマージャンでは、実際に現金のやり取りが行われた。
- 賭けマージャンは、平成29年から月に1~2回の頻度で定期的に行われ、その都度現金がやり取りされていた。
- 賭けマージャン終了後、黒川前検事長は産経新聞記者が用意したハイヤーで自宅まで送ってもらい費用を支払ったことはなかった。
- 黒川前検事長はこの問題で訓告処分を受け5月22日に辞職したが、市民グループは5月26日に常習賭博罪及び贈収賄罪で東京地検特捜部に告発状を提出した。
収賄罪の可能性について
収賄罪を判断する最大のポイントは、公務員だった黒川前検事長が「賄賂」を受け取ったかどうかです。
本件で「賄賂」として考えられるのは ①マージャンの掛け金と ②タクシー代金の2つになるでしょう。
マージャンの掛け金は「賄賂」になるか?
黒川前検事長らが行っていたマージャンの掛け金は、1,000点を100円に換算する通称「点ピン」と呼ばれるレートで計算され、両日とも10,000円~20,000円の現金のやり取りがあったと報じられています。
新聞記者らが黒川前検事長からの情報の見返りとして故意に負けて掛け金を支払っていたとすると「賄賂」の疑いは高くなりますが、実際には勝ったり負けたりしていたことから賭けマージャン自体は娯楽を目的とした賭博行為と考えられます。
ハイヤー代金は「賄賂」になるか?
産経新聞の記者が用意したハイヤーの支払いは産経新聞社のチケットで行い、黒川前検事長が支払っていないことは確認されています。
同記者宅から黒川前検事長の自宅までのハイヤー料金は15,000円~20,000円で、過去3年間のハイヤー料金の合計は計算上100万円を超えていることになります。
ハイヤー料金に関しては金額も大きく、黒川前検事長が支払っていないことが確認されているため「賄賂」の疑いが高いと言えるでしょう。
東京地検特捜部が下した処分
東京地検特捜部は2020年7月10日、黒川前検事長らの賭けマージャンに関する一連の容疑について、賭博罪の成立を認定したものの不起訴処分としました。
それぞれの容疑に対する処分、及び理由は次の通りです。
賭博罪は不起訴(起訴猶予)
※起訴猶予とは罪は成立するが、様々な事情を考慮し起訴を見送る処分こと
不起訴の理由は次の3点。
- 賭博罪は認定するも、1日に動いた賭金は多額とは言えず娯楽の延長線上にある 。
- 黒川前検事長は辞職し、新聞記者らも社内処分を受けるなど社会的制裁を受けている。
- 黒川前検事長らは事実を認め反省している。
常習賭博罪は不成立
不成立の理由は、賭博の種類、賭けた金額、期間、頻度などから常習性は認められないと判断。
贈収賄罪は嫌疑なし
嫌疑なしとした理由は、黒川前検事長が産経新聞の記者が手配したハイヤーの料金を支払っていない事実は認められたが、黒川前検事長個人のために手配されたハイヤーではなく、産経新聞の記者が帰宅するハイヤーに同乗したものであるから利益供与とは認められない。
尚、黒川前検事長が不起訴になったことを受けて、黒川氏を常習賭博の疑いで刑事告発していた市民グループらが2020年7月21日、「厳正な処分」をもとめて、東京の検察審査会に申し立てを行なっています。
贈収賄のまとめ
公務員が誰かから金品を受け取ったらすぐに収賄罪になるという訳ではありませんが、たとえ友人からの「誕生祝い」「出産祝い」「お中元」「お歳暮」であっても、利害関係があれば非常に注意が必要です。
また、公務員は国家公務員倫理規程によって、利害関係者から金銭・物品の贈与や接待を受けたりすることなど、及び割り勘の場合でも利害関係者と共にゴルフや旅行などを行うことは禁止されています。
国家公務員倫理審査会は「国家公務員の利害関係者」について次のように説明しています。
1.許認可等の申請をしようとしている者、許認可等の申請をしている者及び許認可等を受けて事業を行っている者
2.補助金等の交付の申請をしようとしている者、補助金等の交付を申請している者及び補助金等の交付を受けている者
3.立入検査、監査又は監察を受ける者
4.不利益処分の名あて人となるべき者
5.行政指導により現に一定の作為又は不作為を求められている者
6.所管する業界において事業を営む企業
7.契約の申込みをしようとしている者、契約の申込みをしている者及び契約を締結して債権・債務関係にある者
8.予算、級別定数又は定員の査定を受ける国の機関
※同一省庁内の国家公務員同士は利害関係者にはならないものとしています。
いずれにしても、公務員が利害関係のある人から何かを提供される場合、あるいは民間企業が利害関係のある公務員に何かを提供しようとする場合には、各種規程や担当部門に確認することが重要です。