緊急事態宣言の発令で都市封鎖(ロックダウン)は行われるのか?~慌てずに対応するために知っておきたい4つのこと
- 2020/4/14
- 法令コラム
コロナウイスルの感染拡大を原因とする緊急事態宣言が発令されたことで、今後の生活に不安を感じている人も多いでしょう。
特に、諸外国におけるコロナ対策でみられるように、「都市封鎖(ロックダウン)が行われる」ことで、遊びだけでなく、「仕事や生活必需品の買い物にもいけない」状況になることを懸念している人もいるのではないでしょうか。
そこで今回は現在の法律の下において、いわゆるロックダウン(都市封鎖)が行われることの可能性について解説してみたいと思います。
都市封鎖と外出禁止令の違い~この記事における定義
本論に入る前に用語の整理・確認をしておきたいと思います。
たとえば、都市封鎖・ロックダウン・外出禁止令といった用語(対策)は、それぞれ重なり合う部分がないわけではありませんから、その違いをあらかじめ明確にしておくことは、この記事の内容を正しく理解してもらう上でとても重要なことといえるからです。
都市封鎖・ロックダウン
この記事において「都市封鎖」は、道路や公共交通機関の利用制限(禁止)・遮断といった方法によって、一定の都市・地域への人の出入りを規制(禁止)する方法として定義づけしておきます。
この記事では、ロックダウンという言葉も基本的には同じ意味合いで用いますので、基本的には都市封鎖(ロックダウン)という形で表記します。
外出禁止令
この記事において「外出禁止令」は、「事前の許可なしに自宅などから外出した場合に一定の罰則を科す」という「公権力からの命令措置」という意味で用います。
したがって、都市封鎖された場合であっても、外出禁止令が伴う場合とそうではない(ある地域と他地域との交通遮断があってもその地域内の移動は可能)という場合がありえます。
以上の定義を前提に、現行法が予定している仕組み(新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令された状況)において、都市封鎖(ロックダウン)や外出禁止令が発令されうるかということについて解説していきたいと思います。
なお、今回発令された緊急事態宣言の概要などについては、下記の記事で解説を加えていますので参考にしてみてください。
現行法の下での「都市封鎖(ロックダウン)」や「外出禁止令発令」は難しい
今後のロックダウンの有無について、とりあえずの結論を先にしておけば、今回の緊急事態宣言の根拠法令である新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、特措法と表記します)の解釈としては、いわゆる「都市封鎖(交通遮断による街単位での人の出入りの完全禁止)」や「外出禁止令の発令」が行われる可能性はかなり低いと思われます。
なぜなら、現在の法律では都市封鎖(ロックダウン)を行うことは、原則として想定されていないと考えることができるからです。
政府は緊急事態宣言と都市封鎖(ロックダウン)との関連を否定している
先日の首相会見(令和2年4月7日)においても、「今回の緊急事態宣言は、確かに今おっしゃったように、海外で行っている、例えばロックダウンとか都市封鎖、強制力を持って罰則があるようなものではありません(原文ママ)」というように、緊急事態宣言の発令とロックダウンとの関連は明確に否定されています。このことは、上で解説をした現行法規が予定している制度(現状で出来る対応の限界)との関係をふまえてのものといえるでしょう。
【参考】安倍内閣総理大臣記者会見(首相官邸ウェブサイト)
現行法で選択されうる規制はどの程度のものなのか?
次に、現在の法律が定める仕組みの範囲内で想定されうる規制にはどのようなものがあるかということについて確認していきましょう。現行法の下では、人の出入り(往来)に関して国などが選択しうる規制手法は、次の2つの方法があります。
- 緊急事態措置としての外出などの自粛要請
- 感染症法に基づく交通の制限・遮断
緊急事態措置としての外出自粛要請など
特措法に基づいて緊急事態宣言が発令されたときには、対象地域として特定された地域の都道府県知事などは、感染の蔓延を防止するために必要な措置を講じることができるようになります。
今回の緊急事態宣言発令においても、それを受けて対象地域の都道府県知事によって、「外出の自粛要請」や「イベントなどの開催・一部事業の営業の自粛の要請」がなされていますが、これら要請は特措法があらかじめ定めている枠組みの中で行われているものにすぎません。参考のために、根拠条文(特措法45条)を下記に引用しておきます。
(感染を防止するための協力要請等)
新型インフルエンザ等対策特別措置法
第45条 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、当該特定都道府県の住民に対し、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間並びに発生の状況を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間及び区域において、生活の維持に必要な場合を除きみだりに当該者の居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力を要請することができる。
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。
3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを指示することができる。
4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。
(住民に対する予防接種)
「外出自粛要請」は外出禁止令とは大きく異なる
特措法に基づく緊急事態措置としての外出自粛要請は、条文が記しているように「感染の防止に必要な協力」を要請する(お願いする)というものにすぎません。
したがって、最終的に、「外出するかどうか」、「営業するかどうか」は、それぞれの住民・事業者が個別に(自分の意思)で判断することになります。仮に、この要請に従わずに外出・営業したという場合でも罰則(懲役・禁固・罰金・科料)が科されることはありません。特措法には、この要請にしたがわなかった場合についてあらかじめ罰則が定められていないからです。
以上のことから、「命令ではないこと」、「罰則を伴わない」という点において、今回の「外出・営業自粛要請」は、法律の解釈としては、外出禁止令とは大きく意味合いの異なるものであるといえるわけです。
知事からの要請をうけた事業者レベルの対応もまちまちのようです。マッサージ店やインターネットカフェ・飲食店などでは、一時的な営業停止を決めた事業者もいますし、営業を続けざるを得ない事情のある事業者もあるでしょう。たとえば、プロ野球などの興行などでも、開催の無期延期という判断をしたものもあれば、競馬のように「無観客」での開催続行の判断をしたものもあります(※この記事を作成した令和元年4月8日現在)。
感染症法に基づく交通の制限・遮断
重大な危機を生じさせるおそれのある感染症リスクについては、感染症法(正式名称は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)という法律に基づいて、予防などに必要な措置が講じられることがあります。
感染症法33条には、都道府県知事に感染症予防のために交通(公共交通機関・道路)の制限・遮断する権限があることを定めています。
しかし、現時点では、コロナウイルスの蔓延予防のために感染症法33条に基づく交通遮断(この記事でいう都市封鎖(ロックダウン))が行われる可能性はないといえます。
感染症法に基づく交通遮断の要件
まずは、感染症法33条の条文を確認おく必要がありますので、下記に引用しておきます。
感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
(交通の制限又は遮断)
第33条 都道府県知事は、一類感染症のまん延を防止するため緊急の必要があると認める場合であって、消毒により難いときは、政令で定める基準に従い、七十二時間以内の期間を定めて、当該感染症の患者がいる場所その他当該感染症の病原体に汚染され、又は汚染された疑いがある場所の交通を制限し、又は遮断することができる。※太字は筆者
新型インフルエンザ等対策特別措置法
この条文によれば、交通の制限・遮断は、感染症法に定義される「一類感染症の蔓延防止」を目的とする必要があります。
実は、コロナウイルスは、感染症法の適用対象となる感染症ではありますが、一類感染症ではありません(感染症法6条8項に規定される「指定感染症」として指定されています)。
【参考】
令和2年1月28日官報による指定感染症指定の公示(厚生労働省ウェブサイト)
ちなみに、この時期を作成した時点において一類感染症として指定されている感染症は次のものに限られます。
- エボラ出血熱
- クリミア
- コンゴ出血熱
- 痘そう
- 南米出血熱およびラッサ熱のウイルス性出血熱
- ペスト
- マールブルグ病
したがって、法律の仕組みとしては、コロナウイルスが一類感染症として指定されないかぎりは、交通制限・遮断を行うことは難しいと考えるべきだといえます。
ただし、交通機関の出勤管理(感染予防として出勤する従業員を減らす)措置や感染蔓延防止措置などとの関係で、電車・バスなどの運行本数が減らされる可能性は高いといえますので、すべてが今まで通りというわけではないことも頭に入れておく必要はありそうです。
わたしたちが注意すべき2つのポイント
ここまで解説してきたように、緊急事態宣言が発令されたといっても、ただちに都市封鎖(ロックダウン)や外出禁止令といった措置が講じられる可能性はかなり低いといえます。したがって、「生活に必要な品物の買い物ができなくなる」、「1歩も家から出られない状況になる」という不安を感じる必要性も(今の段階では)ないといえるでしょう。
むしろ、近い将来の外出禁止・都市封鎖を懸念して、「商品の買いだめ」、「銀行の取り付け騒ぎ(預金の一斉引き下ろし)」などが生じる方が問題といえそうです。まずは、落ち着いて、冷静に対応すべきでしょう。
その上で、今後わたしたちが注意すべきポイントについて簡単にまとめておきたいと思います。
「正しい情報」をいち早く入手する~根拠のない「憶測記事」に注意!
コロナウイルス対策の今後は、明確な見通しが立っているとはいえません。政府は緊急事態宣言の発令期間を1ヶ月としていますが、それが延長される可能性もないわけではありません。また、ウイルスは生物ですから感染が拡がる過程で変異(進化)することも考えられます。ウイルスそれ自体の危険性がさらに高くなれば、一類感染症に準じた対応を検討する余地が生じることも否定できません。
したがって、今後政府や自治体から発表される最新の情報をきちんと入手し、正しく理解することが一番重要といえます。
現在の私たちにとって、ウェブは簡易に最新の情報を入手できるとても便利で重要なツールです。しかし、ウェブ上には、明確な根拠のない「憶測記事」や「煽り記事」が多数あることにも注意しておく必要があります。
たとえば、「感染者数が増えればロックダウンが起きる」という内容の記事も少なからず存在しますが、そのほとんどは国内法上の根拠に基づく解説ではないことに注意しておく必要があるでしょう。
たしかに、他国では、そのような施策が採用されたというケースもありますが、国が違えばさまざまな諸条件(感染の程度や公衆衛生の程度など)も違いますので、日本において同じ対応がとられるとは限りません。また、ここまで解説してきたように、少なくとも今の法律の下では「長期間にわたる完全な都市封鎖」を行うことは現行法の解釈を超えるものと思われます。したがって、都市封鎖(ロックダウン)、外出禁止令が発令される可能性が高まった場合には、その前提として新規立法やコロナウイルスの一類感染症指定などの作業が事前に行われるはずだからです。
「誰のための対応なのか」ということをよく考えて
都市封鎖(ロックダウン)・外出禁止令が発令されない以上、感染の蔓延予防としての社会活動の制限は、「住民・事業者それぞれの自己判断」に委ねられることになります。
この記事を書いている時点では、外出や就業の自粛に対する保障(現金支給)はかなり限定的になる見込みですから、「生活するため」には外出を余儀なくされる場合も生じると思います。また、どうしても「遊びに出たい」と考える場面もあるかもしれません。
現行法の下では、そのような住民などの自己判断を国が強制的に食い止めることはできません。ただ、有効なワクチンが開発されていない状況において、ウイルス感染が爆発的に拡がることは、私たち自身の今後の生活にさらに大きな影響を与える可能性が高いことを忘れるべきではないでしょう。ウイルスは生き物ですから感染が拡がる経過のなかで変異(進化)する可能性がないわけではありません。 最終的には、わたしたち一人一人が「自分のため」に正しいと思える判断をしていくほかないといえます。
緊急事態宣言の発令で都市封鎖(ロックダウン)は行われるのか?:まとめ
この記事を書いている時点では、緊急事態宣言が発令されたからといって、ただちに都市封鎖(ロックダウン)や外出禁止令のような措置がとられることはないように思われます。実際にも、首相は会見で「即座の都市封鎖」を否定しています。したがって、近い将来の都市封鎖に備えて行動をする必要性もありません。
このような状況では、少数の人がとった問題のある行動が急速に拡がる可能性も高いといえます。最近では、コロナウイルスの影響をうけて「トイレットペーパーが手に入らない」といった事態になったことはまさにその典型といえます。
たとえば、生活必需品を入手するために行列を作らなければならないような状況になることは感染リスクを高めるだけで、誰の利益になるものでもありませんし、感染がさらに爆発的に拡がれば、それこそ都市封鎖(ロックダウン)・外出禁止令発令の可能性も高くなってしまいます。この状況で「不安な気持ちが全くない」という人は皆無だと思われますが、こういうときだからこそ、落ち着いて、冷静に対応することが大切ともいえます。