資本金と会社の関係、理解してますか。 法務部門が知っトク専門領域3選
- 2020/5/8
- 法令コラム
資本金は、会社法第445条で「株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額」と規定されており、多ければ多いほど資金的な体力があることになります。
一方、資本金は会社の規模を表す目安にも使われています。
「資本金の額」の違いによって、会社の義務が増えたり、逆に優遇措置を受けられたりします。つまり、各種の関係法令において「資本金の額」は会社の規模を表し、その規模によって適用される条項が異なるのです。
そこで、会社と関わりの深い3つの法律、「会社法」「法人税法」「中小企業基本法」において会社を区別する資本金のボーダーラインについて詳しく解説します。
会社法では、資本金5億円がボーダーライン
第2条第6項 大会社とは、次のいずれかに該当する株式会社をいう。
イ 資本金の額が5億円以上※
ロ 負債合計額が200億円以上※
※いずれも、最終事業年度の貸借対照表に計上された数値
上記でわかるように、会社法では資本金5億円以上(又は、負債合計額が200億円以上)の会社を「大会社」として区別しています。
そして、従業員や取引先などが多く存在し社会に与える影響の大きい大会社には、中小会社には無い、次のような義務が課されます。
会計監査人の設置義務
会計監査人設置会社は、監査法人などと監査契約を締結し会計監査を受ける義務があり、年間数百万円の費用が発生するとともに管理部門の負担も大きくなります。
内部統制システムの整備義務
内部統制システムとは、取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制のことです。
損益計算書の公告義務
決算公告では「貸借対照表」の公告義務がありますが、大会社はこれに加え「損益計算書」の公告義務もあります。
連結計算書類の作成義務
この他にも、大会社が公開会社の場合は、監査役会、監査等委員会又は指名委員会等の設置義務などがあります。
法人税法などでは、資本金1億円がボーダーライン
法人税法及び租税特別措置法では、資本金1億円以下の中小法人に対し様々な優遇制度が設けられています。
「中小法人」とは普通法人のうち、次の法人をいいます。
※以下は除外
・「資本金の額」又は「出資金の額」が5億円以上の法人(大法人)との間にその法人による完全支配関係がある法人
・100%グループ内の複数の大法人に、発行済株式又は出資の全部を直接又は間接に保有されている法人
中小法人に対する主な優遇制度には、次のようなものがあります。
1.所得800万円までは、法人税の軽減税率が適用される
資本金が1億円以下の中小法人に対しては、800万円までの所得に低い税率が適用されます。
区分 | 税率 | |
資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分の所得 | 15%(注1) |
年800万円超の部分の所得 | 23.20% | |
資本金1億円超の法人(※上記以外の法人を含む) | 23.20% |
(注1) その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等に該当する法人の年800万円以下の部分については、19%の税率が適用されます。
2.欠損金(税務上の赤字)の繰越控除ができる
青色申告書を提出した事業年度で欠損金が生じた場合、欠損金を翌年以降10年間、所得金額から繰越控除し法人税の負担が軽減できる制度がありますが、中小法人は100%の額を繰り越すことができます。
区分 | 繰越控除限度額 |
資本金1億円以下の法人など | 100% |
資本金1億円超の法人 | 50% |
3.欠損金の繰戻還付が適用できる
中小法人が、青色申告書を提出する事業年度に赤字となった場合、欠損金をその事業年度開始の日の前1年以内に開始した事業年度の所得金額に繰り戻し、既に納めた法人税から、欠損金の分だけ還付受けることができます。
4. 800万円までの交際費等の全額を損金算入できる
法人の交際費等は損金の額に算入できないのが原則ですが、中小法人には800万円を限度として全額を損金に算入することが認められています。
5. 取得額30万円未満の少額減価償却資産が全額損金算入できる
青色申告書を提出する中小法人で、常時使用する従業員が1000人以下の法人に対し年間300万円を限度として損金算入が認められています。
6. 貸倒引当金の特例が適用できる
貸倒引当金とは、将来起こるであろう代金・貸付金の回収不能など、現時点では発生していない費用を見越し計上するもので、中小法人のみに認められています。
7. 各種特別償却、特別控除が適用できる
この他、地方税法で定める法人事業税でも資本金1億円がボーダーラインとなっています。
外形標準課税は企業の規模によって課税される制度で、赤字・黒字に関係なく一定の金額の納付義務が発生しますが、対象外になると赤字の場合には納付する必要がなくなります。
外形標準課税の対象外となる法人の範囲は次の通りです。
・資本又は出資を有しない法人
中小企業基本法では、業種によりボーダーラインが異なる
この法律は、中小企業に関する施策について、その基本理念、基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、国及び地方公共団体の責務等を明らかにすることにより、中小企業に関する施策を総合的に推進し、もって国民経済の健全な発展及び国民生活の向上を図ることを目的とする。
中小企業の健全な発展を目的として、様々な支援施策を定める中小企業基本法の「中小企業者」の範囲は業種によって異なります。
業種 | 中小企業者 (以下のいずれかに該当する者) | |
資本金の額 又は、出資の総額 | 常時使用する 従業員の数 | |
製造業、建築業、運輸業 その他、以下を除く業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5000万円以下 | 50人以下 |
中小企業者に該当すると「経営」「金融」「財務」「商業・地域」などの分野で様々な支援が受けられます。
その他の法律
「会社法」「法人税法」「中小企業基本法」以外の法律でも、資本金の額によって優遇措置の定めをしている法律があります。
消費税法では、資本金1000万円がボーダーラインとなっています。
資本金の額 又は 出資の金額 (事業年度の開始の日における額) | 消費税の納税義務 |
1,000万円未満の法人 | 会社設立から2年以内は消費税の納税が免除されます※ ※以下の事業者は除外 ・前々事業年度の課税売上高が1000万円超 ・前事業年度上半期の課税売上高、及び給与等支払額が 1000万円超 |
1,000万円以上の法人 | 会社設立時から消費税の納税義務が生じます |
また、地方税法で定める法人住民税の均等割額では、特定のボーダーラインというものはなく、資本金等の金額 及び 従業員数で税額が異なります。
まとめ
各種の法律ではその目的により、「資本金の額」をもとに会社を区別するボーダーラインは同じではありません。
会社法では、社会的な影響の大きい大企業を区別し監視体制を強化する目的で各種の義務を設けていますが、逆に、法人税法や中小企業基本法などでは、支援の必要な中小企業を区別し様々な優遇制度を設けています。
ですから、法務部門においても、会社との関わりの深い「会社法」「法人税法」「中小企業基本法」などにおいて自社がどのように分類されるのか、資本金のボーダーラインと、適用される法令・制度の違いを理解し上手に活用しましょう。