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東洋ゴム工業の免震ゴム問題における第三者委員会報告書の概要

東洋ゴム免震積層ゴムの認定不適合

本件では、東洋ゴム工業株式会社(現TOYOTIRE株式会社)の免震ゴム問題について、第三者委員会の調査内容やスケジュールを解説します。

問題の背景

本件では、東洋ゴム工業において、「製品の大臣認定を得る際に根拠のないデータを用いて申請が行われたこと」や「出荷時に製品の性能検査で恣意的な数字が用いられたこと」などが問題となりました。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件の第三者委員会は、ゴム製品の性能検査において技術的根拠のないデータ処理が行われた原因究明や、問題が発覚した経緯の調査、再発防止策の提言といった役割を担いました。

なお本件第三者委員会は、東洋ゴム工業と利害関係を持たない下記委員で構成されました。

第三者委員会の活動スケジュール

では次に、本件問題の発覚から第三者委員会の調査が行われるまでの経緯を確認しましょう。

問題の発端は、2012年8月に東洋ゴム工業に入社した従業員A氏が子会社の技術部で免震積層ゴムの設計等を担当したことでした。A氏は業務過程において、一部の免震積層ゴム製品の性能検査の根拠が不明であることを認識しました。

そこでA氏は、検査の前任者であるB氏に検査の根拠を尋ねたところ、適切な回答を得られませんでした。納得のいかなかったA氏は、2014年2月頃に当該子会社の代表取締役であったC氏に本件問題を報告しました。

子会社から本件の報告を受けた東洋ゴム工業は、事態の究明を目的に2015年2月6日に外部専門家で構成する第三者委員会を設置し、本件の調査を始めました。調査は4ヶ月にもおよび、2015年6月19日に最終報告書が提出、同月22日にインターネット上で公開されました。

本件の経緯をまとめると下記のようになります。

本件の調査のポイント

本件調査のポイントは、「ゴム製品の性能検査」という専門的な分野に関する調査であった点です。

第三者委員会は専門性の高い本件を正確に調査するために、関係者に対する事情聴や過去の資料やデータの調査のみならず、現場検証や専門家による技術検証なども行いました。

現場検証や専門家による技術的検証には調査の専門性を高める意図があったと推測されますが、後述する格付け委員会からは「専門性」が欠けていると指摘されています。その理由は後ほど詳しく解説します。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の懸命な調査により、三つの問題行為が発覚しました。

一つ目の問題行為は、大臣認定を取得する際の問題行為です。同社は免震積層ゴムの大臣認定を取得する際に、技術的な根拠のない虚偽のデータを用いて申請を行ったとのことです。

二つ目の問題行為は、出荷時の性能検査で行われていました。免震積層ゴムを出荷する際の性能検査にて、データを偽装することで大臣認定の基準に適合していない免震ゴムを出荷していました。第三者委員会の調査によると、同社が出荷した175件のうち129件が大臣認定の性能基準に適合しなかったとのことです。

そして三つ目の問題行為は、顧客に対して交付する検査成績書作成で行われていました。同社では、顧客に対して同社ゴム製品の性能を証明するための検査成績書を交付していました。第三者委員会による調査の結果、なんとこの検査成績書についても恣意的な数字を用いた虚偽のデータが用いられていました。

以上のことより、東洋ゴム工業では虚偽のデータをわざと使ってデータを意図的に良く見せていたと判断できます。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

東洋ゴムの問題やそれに関連した第三者委員会の調査は、同社の業績に大きな損失を与えました。同社の2016年度12月期決算によると、同社は本件問題で生じた製品保証対策費および製品保証引当金繰入額として合計で約667億円もの費用を計上しています。

また重大な問題だったために、株価にもネガティブな影響が生じました。第三者委員会が最終報告書によって本件問題の深刻さを公にした結果、公表された当日(6月22日)の終値は1,141円だったものの、その数日後(6月28日)には1,007円まで下落しました。

私たちの命を守る免震ゴムのデータ不正という深刻な問題であったが故に、社会的な信用力が大きく低下したと考えられます。

今現在では回復しているため本件の影響はひとまず修復していると言えるものの、同社が完全に信頼を回復するまでには相応の努力と時間が必要でしょう。

格付けの評価

第三者委員会が提出した調査報告書は、調査スコープの妥当性などの観点から格付け評価が実施されました。9名の委員がA(良い)〜F(悪い)までの5段階で格付けを実施した結果、B評価1名、C評価4名、F評価4名と委員によって評価が大きく分かれました。

「外部調査チームの独立性・中立性」や「専門性の欠如」については、多くの委員が一貫して問題視しました。専門家である北海道大学の教授に協力を仰いだ点で、一見すると専門性に問題はないように思えます。しかし第三者委員会の委員として名を連ねていないために、どの程度専門性の補強につながったか分からないと格付け委員会は指摘しています。

一方で「原因究明」や「報告書の公共財としての価値」については、委員によって評価が二分しました。事案の本質に深く切り込んでいると評価する委員がいた一方で、専門性や独立性に欠ける第三者委員会による原因究明が的を得ているかは定かではないという評価を下す委員もいました。 「第三者委員会の構成」と「専門家の助力」をどのように見るかによって、評価がはっきり分かれたのだと推測されます。

根本的な原因

第三者委員会は本件が発生した根本的な原因を合計で13個述べています。今回はその中でも、特に重要だと思われる2つの原因をお伝えします。

一つ目の原因は、規範遵守意識の著しい欠如です。地震が頻発する日本において、免震積層ゴムは生命を守る上で重要な技術です。にもかかわらず性能を偽装する行為を長期間にわたって行なっていたのは、社内全体で規範順守の意識が欠如していたとしか言えないでしょう。

二つ目の原因はリスク管理の不備です。第三者委員会の調査によると、性能試験の際にダブルチェックを行う機能や試験結果を社内で協議する機会が整えられていなかったとのことです。後々問題が発覚した場合のリスクを十分考慮できていなかったために、本件問題が発生したと考えられます。

東洋ゴム工業の免震ゴム問題における第三者委員会報告書概要のまとめ

本件問題では、本来満たすべき基準を満たさない免震ゴムを故意に販売していたという点で、私たちの生活を脅かす深刻な問題でした。本件の第三者委員会は、単なる事実確認のみならず、根本的な原因にまで踏み込んだ上で解決策を提言しました。

こうした深刻な不祥事を調査する場合、第三者委員会にはより一層問題の核心に迫った上で、二度と同じような事態が生じないように再発防止策を提言することが求められるでしょう。

参考文献

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