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東京医科大学の入試問題における第三者委員会報告書の概要

東京医科大学の入試問題における第三者委員会報告書の概要

今回の記事では、第三者委員会の活動内容について、東京医科大学の入試問題を事例に用いて解説します

問題の背景

本件は、東京医科大学の医学部にて、一部の生徒に対して得点を調整していた問題です。具体的には、前学長の関係者であることを理由に本来不合格となる受験生を合格としたり、一部の女子受験生に対して減点措置を行なっていたこと等が問題となりました。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件における第三者委員会は、東京医大で行われた不正入試について、公平な立場で事実確認や原因究明を行う役割を担いました。

また、本件第三者委員会の構成は下記のようになりました。

第三者委員会の活動スケジュール

次に、第三者委員会が活動するに至った経緯や、活動の具体的なスケジュールをお伝えします。

そもそも本件の問題は、平成30年7月4日に東京地検特捜部が文科省の元職員や医療コンサル会社の役員を受託収賄の疑いで逮捕したことから始まりました。この事件の報道において、贈賄者として疑われたのが東京医大の前理事長である白井氏と前学長である鈴木氏でした。

東京医科大学はこの件について疑惑を解消するために、内部調査委員会を設置しました。この委員会は贈賄疑惑の調査を目的に調査を進めましたが、なんとその調査過程で受験生の得点を調整する不正行為が発覚しました。

思わぬ問題の発覚であった上に、受験生の人生を左右する問題であったため、連日多くの報道番組で取り上げられるようになりました。これを受けて同大学は、不正入試問題の原因究明や改善を目的に、2018年8月28日に第三者委員会を設置しました。調査は4ヶ月にも及び、同年の12月28日付で第三者委員会からの最終報告書が提出されました。

東京医大の不正入試問題の経緯をまとめると、以下のようになります。

本件の調査のポイント

本件の調査では、女子受験生をはじめとした一部の学生にとって不利益な採点を行なったのかどうかが争点となりました。そこで第三者委員会は、東京医科大学の職員からのヒアリングやマークシートや関係資料の閲覧といった調査を行いました。

平成25年度から30年度までの試験について上記の調査を行うことで、不正入試の核心に迫ろうとしたわけです。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の調査では、東京医科大学の入学試験では、「属性調整と個別調整が行われていたこと」や「各調整が開始された時期や経緯」が判明しました。

ちなみに属性調整とは、受験生の性別や高校を卒業してからの経過年数に応じて、点数の加減を行う行為を意味します。また、個別調整とは、特定の受験生について加点措置を行う行為です。

第三者委員会が平成30年度推薦入試の合格者名簿を分析したところ、男性の合格者が18名の一方で女性が9名であったこと、合計点の順位が14位から36位までの受験生のうち、不合格者12名が全員女性であったことなどが判明しています。

また平成30年度の入学試験について詳細に分析した結果、男性の二浪受験生までには大幅な加点措置を行う一方で、四浪以上の受験生や女性受験生には加点を行わないという措置を行っていたことが判明しました。つまり東京医大では、女性受験生や多浪受験生に不利な扱いを行っていたのです。

加えて、本来不合格となるはずの受験生について、鈴木氏が関係者であることを理由に、不合格とならなかったことも明らかとなりました。こうした個別調整や属性調整は、平成25年度や平成28年度の医学科入試でも同様に行われていたことが判明しています。

第三者委員会によると、こうした得点操作行為は平成18年度の入試から行われていたとのことです。女子受験生にとって不利となる属性調整については、「女性には妊娠や出産というライフイベントがあるため、将来的に大学を支えるポジションにつく者が男性と比べて少ない」という考えから行われていました。
また多浪生を不利益に扱う属性調整については、「学内での進級や国家試験で困難が生じる可能性が高いから」という理由で行われていたとのことです。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

第三者委員会の調査では、多大な費用が発生したと考えられます。東京医科大学の平成30年度の事業報告書によると、前年度比で127,983千円(5.5%)も管理経費支出が増加しましたが、同大学によると弁護士費用が増加したことが主たる原因とのことです。以上のことから、弁護士で構成した第三者委員会の調査に多大な費用が発生したと考えられます。

格付けの評価

第三者委員会報告書格付け委員会は、本件第三者委員会の最終報告書を原因分析の深度などの基準で、A(良い)〜F(悪い)までの5段階で格付け評価を実施しました。なお本件では、9名の委員が格付け評価を行いました。

東京医大の格付けは、B評価2名、C評価3名、D評価4名と、良い評価と悪い評価を下す委員に分かれる結果となりました。

不正入試に関する事実認定に対しては、多数の委員が客観的かつ詳しく行われていると評価しています。一方で、大学の権力構造や点数調整が行われた動機に関する原因分析については、不十分であると低評価を下した委員が多くいました。

実際に第三者報告書を詳しく見ると、たしかに入試で行われた加点について具体的に調べており、事実を詳細に調査したことがうかがえます。しかし格付け委員会の述べているとおり、大学の権力構造について踏み込んだ分析はなく、根本的な原因究明には至っていないと考えられます。

根本的な原因

本件を調査した第三者委員会は、本件問題が生じた根本的な原因を2つ挙げています。

一つ目の原因は、東京医大や附属病院の経営にあります。大学や病院の運営で安定的に収益を得るには、国家試験をスムーズに合格し、その後研修医として継続的に病院で勤務できる学生を多く輩出する必要があるのが現場での現状です。
その考えから、経験的に見て国家試験の通過率が低い多浪生や、結婚や出産により離職する女性の合格者をできる限り少なくしたいという考えが関係者の中にあったとのことです。

二つ目の原因は、不正をチェックできる機能が東京医科大学には欠如していた点です。同大学では、属性調整や個別調整を行うタイミングである合格者選定名簿の作成作業が、ごく一部の学務課職員によって監視のない状況で行われていました。そのため他の関係者は、理事長や学長による得点操作に気づくことができなかったと考えられます。
また東京医科大学内に設置されていた内部通報の制度では、通報内容が理事長に伝達される仕組みでした。そのため、不当な行為を知ったとしても、処罰を恐れて問題行為を通報できない状況となっていました。

まとめ

今回は東京医科大学の不正入試問題について取り上げました。この問題は、女子生徒を不利益に扱うというセンシティブな話題であったため、報道番組でも大きく取り上げられました。 その背景には、大学の権力構造や女性の社会進出に関する根本的な問題が潜んでいます。

本件の第三者委員会はこうした踏み込んだ原因について詳細に追求していませんが、より良い第三者委員会として機能するには、こうした根本的な部分にも踏み込んだ調査が必要であると思われます。

【参考文献】

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