この記事では、SBIソーシャルレンディングの貸付先における資金の不正流用問題を取り上げて、第三者委員会の活動内容を解説します。
問題の背景
SBIソーシャルレンディングでは、投資家から集めた出資金をファンドに貸し付け、その資金を使ってA社に請負工事を発注し、工事などを行うという仕組みのファンド(A社関連ファンド)を運営していました。
本件は、A社に工事請負代金として支払った資金のうち、相応の部分が本来の目的に使用されず、かつスケジュール通りに工事が完成することが困難となった問題です。
これによりA社関連ファンドの元本返済に関して懸念が生じ、投資家の利益を害するリスクが高まる事態となりました。
本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント
本件の第三者委員会の役割と委員選定
第三者委員会は、A社関連ファンドに関する事実関係の調査・事実認定や事実の評価・原因分析、再発防止策などの提言などを行う役割を担いました。
なお本件の第三者委員会は、SBIソーシャルレンディングとの利害関係がない下記3名により構成されました。
- 委員長:錦野 裕宗(弁護士 弁護士法人中央総合法律事務所)
- 委員:藤武 寛之 (弁護士 リンクパートナーズ法律事務所)
- 委員:海宝 明(株式会社サイリス監査役)
第三者委員会の活動スケジュール
次に、本件問題の発覚から第三者委員会の活動が完了するまでの経緯をご説明します。
本件の発端となったのは、SBIソーシャルレンディングが社内調査を行い、A社関連ファンドの事業運営において、前述した問題が生じている可能性を認めたことです。
そこで同社は、投資家保護を目的に、社内調査以上の公正性が確保された調査を行う必要があると考え、2021年2月5日に第三者委員会の設置を決定し、その旨を公表しました。
調査は2021年2月6日から同年4月25日まで行われ、4月28日に調査の結果をまとめた報告書が公表されました。 本件問題における第三者委員会の動向をまとめると、以下のようになります。
経緯
- 社内調査により、本件問題が生じている可能性が発覚する
- 2021年2月5日、第三者委員会の設置が決定・公表される
- 2021年2月6日、第三者委員会による調査が開始される
- 2021年4月28日、第三者委員会による調査報告書が公表される
本件の調査のポイント
本件調査のポイントは、投資家への被害回避を最優先することを理由に、調査の期間に時間的な制約を受けた点です。
限られた時間の中で、13名に合計で18回のヒアリングを実施したり、電子メールなどのやりとりを抽出したりするなど、徹底的な調査が実施されたと言えます。
ただし、外部関係者から十分な資料を入手できなかったなど、必ずしも調査の範囲が完璧であったとは言えないでしょう。
第三者委員会によって何がわかったのか
第三者委員会の調査により判明した事項
第三者委員会の調査では、各ファンドに関するプロジェクトの工事進捗状況、およびSBIソーシャルレンディングのファンド組成・管理行為に関する事実・適法性が明らかとなりました。
まず工事の進捗に関しては、ほとんどのプロジェクトにおいて、工事の大幅な遅延が生じている状況であることが判明しました。 次に、ファンド組成・管理行為に関する事実・適法性については、主に以下の3点が法令違反行為として認められました。
- 投資家に表示した資金用途と実際の用途に違いが生じたこと(融資実行額20,728,050,000円のうち、12,927,115,511円が資金用途に反していた)
- 資金用途に関する説明について、投資家に対して誤解を生じさせる表示があったこと
- 十分な審査が行われていなかったなど、善管注意義務に反する事情が存在していたこと
第三者委員会の調査とその影響で生じた費用
現時点(2021年6月)では、第三者委員会の調査やその影響で発生した費用は明らかにされていません。ただし、投資家の利益を著しく害する問題であったため、SBIはソーシャルレンディング事業の廃業を発表しました。
また、本件の問題は親会社であるSBIホールディングスの株価にも影響を与えました。第三者委員会の調査報告書が公表された2021年4月28日の終値が3,075円であった一方で、5月13日には2,763円まで下落しています。
あらゆる原因が絡むため、一概に本件の問題が株価の下落を招いたとは断言できません。ただし、投資家の信頼を損なう行為であったため、下落の一因をになっていた可能性は否定できないでしょう。
格付けの評価
本件第三者委員会の調査結果に関して、第三者委員会報告書格付け委員会によって、A(良い)〜F(悪い)までの5つの段階で評価が行われました。8名の委員が格付け評価を行った結果、D評価6名、F評価2名となり、他の格付け結果と比べてかなり低評価でした。
低評価となった理由は下記の4点です。
- 親会社であるSBIホールディングスの問題を調査していない
- 再発防止の提言について実効性が乏しい
- 関係者の名称が匿名化されている
- 委員の構成について親会社との利害関係まで説明されていない
ただし、新しいビジネスであるソーシャルレンディング事業のリスクを明確にした点を評価した委員もいたとのことです。
根本的な原因
第三者委員会は、調査報告書で本件の根本的な原因として、下記4点をあげています。
- プロフェッショナル意識や投資者保護意識が著しく欠如していたこと
- 経営トップが営業優先・過大な収益目標を設定していたこと
- 貸付モラルが低下していたこと
- 審査・モニタリング体制に欠陥があったこと
以上を踏まえて委員会は、組織体制の強化や投資者保護意識の徹底などの再発防止策を提言しました。
まとめ
本件の第三者委員会は、時間的な制約がありながらも、ヒアリングやデジタルフォレジックなどの手法を駆使して、詳しく問題を分析しました。ただし親会社の問題まで調査しなかったことで、格付け委員会からは低評価を受けました。 以上より、本件のような不祥事を調査する際には、親会社の問題点を明確にすることも重要であると言えます。
【参考文献】
第三者委員会報告書格付け委員会 第24回格付け結果を公表しました
調査報告書(公表版) SBIソーシャルレンディング株式会社 第三者委員会
SBIホールディングス(株)【8473】:株価時系列 – Yahoo!ファイナンス