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ノバルティスファーマの臨床研究問題における第三者委員会報告書の概要

ノバルティスファーマの臨床研究問題における第三者委員会報告書の概要

今回の記事では、ノバルティスファーマ株式会社の臨床研究における問題行為を事例に用い、第三者委員会の調査内容を説明します。

問題の背景

本件は、薬剤の臨床研究に製薬会社であるノバルティスファーマが不適切に関与した問題です。具体的には、ノバルティス社の依頼で行われた臨床研究にて、そのデータ処理に同社社員が関与し、不適切な論文が作成されました。患者の命に関わるにも関わらず、自社の利益を優先してデータを改ざんした恐れがあるとして大きな問題となりました。

本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント

本件の第三者委員会の役割と委員選定

本件の第三者委員会は、臨床研究への同社の関与に関する実態解明や原因分析、再発防止策の提言といった役割を担いました。

なお本件第三者委員会は、下記3名の医院によって構成されました。

第三者委員会の活動スケジュール

この項では、本件問題の発覚から第三者委員会が活動するまでの経緯を確認します。

事案の発端となったのは、2012年5月から始まった臨床研究です。日本放送協会(NHK)は、当該臨床研究にノバルティスファーマの社員が関与していることを疑い、2013年2月頃より取材を始めました。

事態が急変したのは2014年1月17日でした。NHKが臨床研究にノバルティスファーマの社員が複数関与していた旨を公表したことにより、問題は大きな騒動となりました。事態を重く見た同社は、実態把握を目的として同日中に社内調査を開始しました。

そして2014年1月20日に、ノバルティスファーマは社内調査の結果として同社社員が臨床研究に関与していた旨を公表しました。この調査結果を受けて同社は、信頼回復や再発防止を目的に、2014年2月5日に外部の委員により構成された第三者委員会を設定して、本格的な調査を始めました。

調査は約およそ2ヶ月にわたって行われ、同年4月2日に調査報告書が提出されるに至りました。 本件の経緯をまとめると以下になります。

本件の調査のポイント

本件調査のポイントは、同社社員の臨床研究への関与が同社にとって大きな利益となるものだった点です。

ノバルティスの販売する薬剤の臨床研究に同社社員が関与している場合、論文の内容が同社にとって有利なものとなるように不正に作成される可能性が出てきます。

臨床研究や論文の作成に同社が関与していたかを正確に調査するために、第三者委員会はデータを保存した電子ファイルを確認したり、役職員や医師に対する事情聴取などを行いました。

この詳細な調査により、自社の利益に直結する臨床研究にどの程度同社が関与しているかを明確にできたと考えられます。

第三者委員会によって何がわかったのか

第三者委員会の調査により判明した事項

第三者委員会の調査により、主に2つの事項が判明しました。

1つ目の判明事項は、3つの大きな問題行為が行われていたことです。具体的には、「研究結果の発表スライドの作成に同社従業員が関与していたこと」と「医師の協力のもとで販売促進用のプロモーション動画を作成したこと」、そして「医師が行うべき評価作業を同社従業員が代行したこと」です。これらの行為は、研究結果の信頼性を確保する目的で業界の規制で禁止されていました。

2つ目の判明事項は、データ改ざんへの関与の有無です。臨床研究に同社従業員が関わっていることで、同社にとって有利なデータとなるように改ざんされた可能性が考えられました。そこで第三者委員会は、データの作成段階や運搬段階、解析段階において改ざんの有無を調査しました。結果的には、研究に関与してはいたものの、同社がデータの改ざんに関与した事実は認められませんでした。

第三者委員会の調査とその影響で生じた費用

第三者委員会の調査結果は、同社の業績や社会的評価にどのような影響を与えたのでしょうか?そもそもノバルティスファーマは、海外法人の日本支社となります。そのため、純粋な調査費用や業績・株価への影響は判明していません。とはいえ、患者の命に関わる問題である点から、業績にある程度ネガティブな影響があったと推測できます。

また、NHKが本件問題を報道した当日(2014年1月17日)の終値は81.18円だったものの、その二日後には80.79円まで下落しました。また第三者委員会の調査報告書が提出された同年4月2日の終値は84.57円だったものの、その次の日には83.41円まで下落しています。

これはノバルティス社全体の株価であるため、どの程度本件が影響しているかは定かではありません。しかし問題が広く知れ渡った直後に株価が下落していることを踏まえると、多少なりともネガティブな影響があったと考えられるでしょう。

格付けの評価

第三者委員会の公表した調査報告書は、調査スコープの的確性などの観点から格付け評価が行われました。本件では9名の委員がA(良い)〜F(悪い)までの5段階により格付け評価を実施しました。その結果、B評価6名、C評価3名と全体的に高い評価が下されました。

中立公正的な立場で事実認定を行なっていることや、関係者の責任について法的な観点のみならず社会的な倫理の観点からも論じていること、製薬業界全体の問題に切り込んでいることなどは、多くの委員から高い評価を得ました。

一方で、法律家のみで第三者委員会が構成されている点や不祥事の隠蔽に対する対策について述べられていない点などは低い評価を受けています。

根本的な原因

第三者委員会の調査報告書をまとめると、本件問題が生じた根本的な原因は次に2つに集約されます。

一つ目は、同社が臨床研究をめぐる価値観の変化に対応できなかった点です。近年は「臨床結果の研究の客観性を守るために、製薬会社と研究施設は深く関わるべきではない」という価値観が求められるようになりました。両者が深く関わると、「製薬会社にとって有利に働くようにデータが作られたのではないか?」という疑問が残るためです。しかし同社ではこの価値観に対応しておらず、売上向上のために臨床研究に積極的に関わるべきという考え方を持っており、結果的に本件の不祥事に発展しました。

二つ目の原因は、同社の業績が落ち込んでいた点です。従来同社は市場で優位性を築いていたものの、新しい薬剤が普及するにつれて、競合他社に市場シェアを奪われ始めていました。シェアを奪回する必要性に駆られたことも、本件問題の根本的な原因であると考えられます。

ノバルティスファーマの臨床研究問題における第三者委員会報告書の概要まとめ

本件は、患者の生命に関わる薬剤の臨床研究に関与するという、倫理的にとても大きな問題でした。その背景には、自社の利益を優先する考え方があったと考えられています。

業績と倫理観はどちらも重要な課題であり、どちらかをおろそかにすることは営利企業である以上難しいでしょう。本件のような不祥事を調査する第三者委員会には、倫理観と業績のバランスを考慮した上で、再発防止策を提言することが求められているでしょう。

参考文献

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