この記事では、関西電力の金品受け取り問題を事例に用いて、第三者委員会の活動内容を解説します
問題の背景
本件は、関西電力の役職員が福井県高浜町の元助役である森山氏から金品等を受け取っていた問題です。関西電力と地方政治の有力者が癒着していた問題として大きな話題となりました。
本件における第三者委員会の役割と委員選定のポイント
本件の第三者委員会の役割と委員選定
本件を調査した第三者委員会は、当社と森山氏との関係調査、類似事案の調査、関西電力の対応の適切性、問題の背景や原因の究明といった役割を担いました。
そんな第三者委員会は、同社と利害関係を有しない下記4名の委員で構成されました。
- 委員長:但木 敬一(弁護士 T&Tパートナーズ法律事務所)
- 委員:奈良 道博(弁護士 半蔵門総合法律事務所)
- 委員:貝阿彌 誠(弁護士 大手町法律事務所)
- 特別顧問:久保井 一匡 (弁護士 久保井総合事務所)
第三者委員会の活動スケジュール
問題の発端となったのは、2018年2月に金沢国税局によって行われた税務調査です。この税務調査により、本件問題の疑義が生じたことから同社は社内調査を実施しました。
事態はこれで収まるかと思いきや、2019年9月26日に共同通信が本件を報道したことで公に広く問題が知られてしまいました。これを受けて同社は、同年10月2日に第三者委員会の設置を決定、10月9日に第三者委員会の調査が開始されました。
調査はおよそ5ヶ月にもおよぶ長いものとなり、2020年3月14日に第三者委員会の調査報告書が提出されました。
問題の発覚から第三者委員会の調査報告書が提出されるまでの経緯は下記になります。
- 2018年2月:税務調査により本件問題が発覚
- 2019年9月26日:共同通信が本件を報道し、問題が公に知られるようになる
- 2019年10月2日:第三者委員会の設置が決定
- 2019年10月9日:第三者委員会の調査が開始される
- 2020年3月14日:第三者委員会の調査報告書が提出される
本件の調査のポイント
本件調査のポイントは、多様な方法で原因究明や問題の概要が調査された点です。関係者へのヒアリングや関連資料の分析、デジタルフォレジックなどの他の第三者委員会でも行われている方法はもちろん、ホットライン調査や現地視察なども行われました。
あらゆる方法で調査を進めることで、多面的な視点から本件の真相を究明しようとした姿勢が伺えます。
第三者委員会によって何がわかったのか
第三者委員会の調査により判明した事項
第三者委員会の調査により、金品受け取りの詳しい概要と目的が判明しました。
調査の結果、関西電力の役職員75名が森山氏から総額はおよそ3億6,000万円もの金品を受け取ったことが明らかとなりました。中には1回に500万円〜1,000万円もの金品を受け取った役職員もいるとのことです。
森山氏が金品を関西電力の役職員に渡した背景には、見返りとして自身が関与する企業に関西電力から工事を発注させて、経済的利益を得る目的があったと第三者委員会は指摘しています。
第三者委員会の調査とその影響で生じた費用
第三者委員会の調査報告書が提出されてから間もないため、調査に要した費用や業績への影響等は明らかになっていません。ですが、社内の上層部が関与していた点や金銭を授受した上で便宜を図っていた点などを踏まえると、今後業績に何かしらの悪影響が及ぶ可能性は十分考えられます。
現に社会的信用の低下という点では株価に影響が生じました。共同通信が本件を報道する前日(2019年9月25日)時点の終値は1,428円でした。ですが本件が報道により広く知られたことで、翌日には終値が1,393円まで下落しました。
その後もしばらく下落が続き、年末には1,200円台まで下落したことから、本件により同社が社会全体から信用を失ったことが見て取れるでしょう。
格付けの評価
本件の調査報告書は、第三者委員会報告書格付け委員会により 、A(良い)〜F(悪い)までの5段階で格付け評価が行われました。
今回は8名の委員が、調査スコープの的確性や原因分析の深さなどの基準により評価を下しました。B評価が5名、C評価が3名と比較的高い評価が下される結果となりました。
すべての委員が満場一致で高い評価を下したのが、問題行為と関西電力の対応について、客観的な資料も用いて詳細に調査した点です。他の第三者委員会による調査と比べても、より精緻な調査を実施した点が高評価につながったのです。
一方で、委員の専門性不足などの理由により、原因究明の深度が浅い点や再発防止策の実効性に欠けている点を指摘する委員もいました。
根本的な原因
第三者委員会の調査報告書をまとめると、本件の根本的な原因は下記3項目に集約されます。
- 役職員がコンプライアンス(法令遵守)よりも業績を優先したこと
- 問題が生じた原子力事業本部が閉鎖的であり、ガバナンス機能が不足していたこと
- 経営陣に問題と向き合い、是正する姿勢が欠けていたこと
「業務を安定的に遂行することが最重要である」という考えが長年にわたって醸成されていたことが、本件の根本的な原因であると調査報告書にて指摘されています。
関西電力の金品受け取り問題:まとめ
本件は、身近な生活に関わる企業が公務員から金銭を受け取って便宜を図っていたことで、各種メディアで取り上げられるほど大きな騒動となりました。
地方政治と生活に関わる企業の癒着を野放しにすると、私たちの生活にも深刻な悪影響が及ぶことも考えられます。
そうした事態を防ぐ上でも、第三者委員会による公平な調査は重要な役割を果たすと言えるでしょう。
参考文献
・第三者委員会報告書格付け委員会 第22回格付け結果を公表しました
・調査報告書
・関西電力(株) – Yahoo!ファイナンス