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HISのGO TO トラベル事業に関する子会社の不正についての第三者委員会報告書

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みなさんも、GO TO トラベルを利用してお得に旅行をしたことがあるのではないでしょうか。今回の記事では、株式会社エイチ・アイ・エス(以下「HIS」という。)の子会社である株式会社ミキ・ツーリスト(以下「MIKI」という。)及び株式会社ジャパンホリデートラベル(以下「JPH」という。)における、GO TO トラベル事業に関する会計不正についての第三者委員会による調査について解説します。

問題の概要

HISには、欧州その他海外旅行のオペレーション事業を主たる業務とするMIKIと中国マーケットをメインとして訪日観光やビジネス訪問等のインバウンド事業を主たる業務とするJPHという子会社があります。そして、2021年10月期決算の確定作業期間中の2021年11月30日にJPHが、同年12月1日にMIKIが、HISに対して、GO TO トラベル事業に係る取引の中に宿泊の実態がない取引が存在するため、事実関係を精査する必要があると報告をしました。

そこで、GO TO トラベル事業に関する不正やその他の事実について明らかにするために、今回の調査委員会が設置されました。

第三者委員会の概要

構成

今回の調査委員会の構成は以下の通りです。

委員長荒竹 純一(弁護士 さくら共同法律事務所)
委員矢田 素史(HIS取締役上席執行役員 最高財務責任者)
委員梅田 常和(HIS独立社外取締役調査等委員 公認会計士)

調査期間

2021年12月9日から同年12月23日まで調査がされました。

調査方法

今回の第三者委員会は、以下の調査を行いました。

・社内資料等の調査
委員会は、MIKI、JPH及びHISから電子媒体によって提供された各種社内資料等を精査しました。

・関係者に対するヒヤリング
委員会は、MIKIの役職員6名、JPHの役職員3名を対象として、面談またはWEB方式で、のべ18回のヒヤリングを実施しました。

・デジタル・フォレンジック調査[1]
委員会は、上記の9名のデータを解析するために、当該9名より提供を受けたパソコン、スマートフォンにおけるデータ等及びメールサーバー上のメールデータ等について、専門業者にデータ保全をしてもらうとともに、データの絞り込みレビューをしました。

・グループ会社に対する照会
委員会は、HISのグループ会社に対して、メール等による照会をしました。

調査結果

今回のGO TO トラベル事業の不正疑惑には、株式会社JHAT(以下「JHAT」という。)が大きく関与していました。JHATは、訪日外国人旅行者をメインターゲットとして、宿泊施設を展開する会社で、元HIS社長の平林朗氏が代表取締役社長を務めています。

MIKIの不正疑惑について

・客室買取契約
2020年10月に、MIKIは、JHATとの間で、JHATの運営するホテルの客室20室60泊分を、1室(定員4名)当たり1泊6万8,000円、合計8,160万円で買い取る内容の客室買取契約(以下「客室買取契約」という。)を締結しました。

そして、買い取った客室を自社の社員が宿泊することで消費することにして、宿泊名簿に役員及び従業員80名の名前を記載しました。しかし、80名のうち20名にしか、ホテルで宿泊できる旨を伝えず、60名はこの事実を知りませんでした。そのため、60名は実際に宿泊することはなく、また、20名もほとんど宿泊することはありませんでした。

結局、客室買取契約で確保した延べ4,800泊(=20室×4名×60泊)のうち、114泊分しか実際に宿泊されることはありませんでした

このように、MIKIは、一見すると無駄とも思える契約を締結していました。

その後、MIKIは、GO TO 割引後の客室買取代金5,304万円(=8,160万円から35%割引された額)を、JHATに支払いました。さらに、MIKIは、JHATから、1,224万円に相当する地域共通クーポンの配布を受けました。

・セミナー代金の支払い
2020年12月、JHATの社長は、MIKI従業員向けにセミナーを開催しました。そして、この代金の支払いとして、MIKIは、先ほどの地域共通クーポンのうち354万円に相当する部分をJHATに交付しました。

・協賛契約
2020年10月、MIKIは、JHATと、JHATの宿泊商品の販売促進活動等の協賛をする契約(以下「協賛契約」という。)を結びました。

そして、協賛契約に基づいて、JHATは、MIKIに6,354万円を支払いました。

しかし、MIKIは販売促進活動を一切していませんでした。

これは、一見すると、JHATにとって無駄な契約とも思えます。

・客室買取契約と協賛契約の関係性に係る疑惑
以上の事実に鑑みると、同じ時期に、お互いに無駄な契約を結んでいることになるため、客室買取契約と協賛契約はなんらかの関係があるのではないかという疑惑が生じます。

調査において、MIKIの社長及び役員は、これに対して、二つの契約は別個の契約であると弁明しました。

・疑惑に対する評価
以上の事実関係に基づいて、MIKIとJHATの収支をまとめると以下の通りになります。

一見無駄とも思えた契約ですが、すべてを合わせて考えると、両者ともにほぼ同額の2,000万円程度の利益を得ていることになります。

委員会は、これらの不自然な契約による金銭の授受の事実、給付金の4080万円を概ね半額ずつに分けて利益を得ていることから、給付金の不正受給の目的で契約を締結したと認定しました。

JPHの不正疑惑について

・法人団体客の受け入れ提案
2020年10月、JHATの社長は、JPHの社長に対して、団体の顧客を紹介するので、GO TO トラベルの給付枠を利用して、JHAT運営のホテルにて研修付き宿泊の受注型企画旅行をすること(このことは、何ら違法でもないし不正受給でもない。)を提案した。JPHはこれを応諾し、本件を進めることにした。

・関連契約の締結
受注型企画旅行はJHATの提案であり、JHATが法人顧客や研修の提携企業等の契約をアレンジすることとなった。そのため、JPHは、これらの法人顧客や研修会社と面識を有することなく、①法人顧客(4社)との客室販売契約、②JHATとの客室買取契約、③研修委託先との研修業務委託契約を締結した。このとき、JHATが契約書を用意し、金額や報酬等の取り決めもしたため、JPHは契約締結に主体的に関与することはなかった。

・受注型企画旅行に関する契約の概要
契約で定められた、本件の受注型企画旅行に参加する人数や延べ宿泊者数は以下の通りです。なお、法人顧客4社をそれぞれS社、P社、A社、T社といいます。

顧客名宿泊予定者数延べ宿泊予定者数
S社200名13,800名
P社699名29,943名
A社200名8,300名
T社70名3,010名
合計1,169名55,053名

さらに、旅行代金の合計は2,365,070,868円で、給付金の申請額は約7.7億円です。

・GO TO トラベル事務局による指摘
その後、2021年10月、GO TO トラベル事務局が参加者向けアンケートを実施したところ、アンケート回答者の中に、「全く宿泊していない」「まったく知らない」と回答が相当数あったため、JPHに実態を調査するよう依頼しました。

そこで、JPHが法人顧客に宿泊実態を尋ねたところ、以下の回答がありました。

S社:200名中、109名

P社:699名中、299名

A社:回答なし

T社:70名中、29名

このように、ほとんどの会社で、半数ないしそれ以下の人数しか実際には参加していなかったことが発覚しました。

・不正疑惑に対する評価
委員会は、受注型企画旅行の関連契約は、いずれもGO TO トラベル事業の給付を申請するための実態のない契約であると認定しました。

さらに、委員会は、JPHが関連契約の内容等を十分確認することなく、JHATに一任して契約を締結していたことは極めて軽率であったと非難しました。

しかし、研修旅行付き宿泊旅行のコンセプト自体は不自然とはいえないこと、JHATを介して契約締結がされていたことから法人顧客と実際に接する機会がなかったこと、宿泊名簿や部屋番号など詳細な情報がJHAT経由で提出されていたこと、GO TO トラベル事務局の指摘を受けて調査を行ったことなどを指摘して、委員会は、JPHが給付金の不正受給をする主観的な意図を有していたとはいえないと認定しました。

その他の調査

委員会は、その他にもGO TO トラベル事業の給付金の不正受給がないか、HIS及び関連会社を対象に調査しましたが、そのような不正な取引は発見されませんでした。

まとめ

GO TO トラベルを利用することで、お得に旅行をすることができるうえ、新型コロナウィルスによる打撃を受けた観光地を救う画期的な事業です。しかし、この事業にはみなさんの税金が利用されていることを忘れてはいけません。このような不正給付を目的とした悪質な事件が起きないことを願うばかりです。


[1] デジタル機器上に残るデータを抽出・調査解析し、「コンピュータやネットワーク上で実際に何がどのように行われたのか」を法的な証拠になりうるように確保する手法・技術(『デジタルデータは消えない』佐々木隆仁著)。

簡単にいうと、消えてしまったデジタルデータを復元させることなどを通じて、デジタルデータの確保をする技術のことをいう。

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