今回の記事では、ネット風評監視サービスなどの事業を手掛けるイー・ガーディアン株式会社の子会社、株式会社グレスアベイルの不正について調査した第三者委員会の報告書について解説します。
問題の概要
イー・ガーディアン株式会社(以下「EG社」という。)は、子会社のグレスアベイル株式会社(以下「GA社」という。)のM&Aに関して、GA社の代表取締役社長a氏と突然連絡が取れなくなったことから、GA社の銀行残高および入出金明細等を確認しました。
そして、GA社の不適切な支出・債務負担、粉飾決算等の不正行為がされた疑いが生じたため、第三者委員会による調査が行われることとなりました。
第三者委員会の概要
構成
調査委員会の構成は以下の通りです。
委員長 | 楠美 雅堂(公認会計士 EG社独立社外取締役監査等委員会) |
委員 | 瀧澤 秀俊(弁護士 あたご法律事務所) |
委員 | 大川 康平(弁護士 EG社独立社外取締役監査等委員会) |
委員 | 峯尾 商衡(公認会計士 EG社独立社外取締役監査等委員会) |
委員 | 藤倉 邦之(EG社総務部 内部監査担当) |
その他にも、委員会は、資料の調査に関して公認会計士2名の補助を受けました。また、デジタル・フォレンジック調査に関してAOSデータ株式会社および表参道パートナーズ法律事務所の弁護士3名(赤坂屋潤、唐木大輔、大原宏晶)の補助を受けました。
調査手続
委員会は、2021年8月31日開催の取締役会で設置されました。
そして、委員会による本調査の目的は、①本件に関する事実関係の確認、②本件による業績への影響額の確認、③本件が生じた原因分析と再発防止策の提言、④その他、調査委員会が必要とした事項とされました。
また、調査対象期間は、不適切な会計が発見された最初の時期からa取締役が解任されるまでの期間、すなわち2019年1月1日から2021年9月30日までとされました。
方法については、関係者に対するヒヤリングおよびデジタル・フォレンジック調査により、本件調査は進められました。
調査の結果
結論からいうと、a氏は2019年から2021年にかけて様々な方法で相当回数にわたり不正行為に及んでいました。そのため、その概要を説明します。
不正行為に至る事情・動機
銀行口座の管理体制
GA社は二つの銀行口座を開設していましたが、2019年12月までa氏のみが出入金の管理を行なっていました。そして、2019年12月にCFOにそのうちの1つの口座の管理が移されました。しかし、a氏は、社員が預金口座を管理することのリスクを指摘して、出入金権限を与えなかったどころか、口座に係る各種サービスへのアクセスすら認めませんでした(ただし、CFOは1つの口座の閲覧のみは可能であった)。
そして、2020年8月に上記のCFOが退任し、同年9月には完全子会社化をしたため、口座管理の権限をEG社に移行しようとしたところ、a氏は様々な理由をつけてこれを拒否しました。
こうして、CFO退任後は、再び二つの口座をa氏が管理することとなりました。
通帳の存在の秘匿
これとともに、GA社の二つの口座は紙の通帳が発行されていました。それにもかかわらず、a氏は紙の通帳の存在を隠し、紹介結果をプリントアウトし内容を改ざんしたものを経理担当者に提出していました。
そのため、a氏の不正行為が明るみに出るまで長い時間を要することとなりました。
内部統制システム
さらに、GA社には、2020年4月まで、経理規定、稟議規定などの内部統制システムが構築されていませんでした。2019年8月のEG社による増資の際は、EG社もこれに対する問題意識が低く、またIPOに向けて独立性を維持することに配慮したことから、この点についてGA社の内部監査及び指導は徹底されませんでした。
EG社の関係者2名がGA社の取締役として選任されていましたが、もっぱら技術分野や営業分野に携わっていたため、管理部門にはあまり関与することがありませんでした。
そのため、2020年4月に内部統制システムが構築されたあとも、それが適切に機能することはなく、実質的にa氏の独任体制となっていました。
不正行為の動機
委員会は、a氏に対して、再三にわたり事情聴取に応じるよう伝えたものの、a氏は一切これに応じていないため、具体的な動機などは明らかになっていません。
もっとも、調査対象期間の前後でa氏の私生活に変化があったことやa氏が掌管する会社への資金流出がされていたことから、個人的に金銭を得る目的で不正行為に及んだことが推認されます。
また、2019年のEG社による増資直後にa氏の口座への高額な資金流出がなされていることから、EG社とのM&Aは個人的に金銭を得る目的でなされた可能性が高いと言えます。
不適切な支出行為
a氏は、GA社からの増資直後の2019年8月から2021年7月にかけて、およそ100回にわたり、GA社とa氏の個人口座との不適切な出入金を繰り返しました。これらを合計するとおよそ3,600万円になります。
さらに、第三者の会社を介して、a氏の口座への出入金も行われており、先ほどの金額と合わせてa氏の口座におよそ4,300万円も支出されていました。
この他にも、コンサルタント会社等に、GA社との業務提携がないにもかかわらず、合計5,000万円もの支出がされていました。
不適切な債務負担行為
2021年2月に入ると、上記の不適切な支出の影響もあって、GA社が資金繰りに困るようになりました。そこで、a氏は、ファクタリング取引[1]をすることでなんとか資金ショートを回避することを図りました。これによって、ファクタリング業社に3,800万円もの手数料が支払われることとなりました。
また、ファクタリング取引において、GA社に支払われるべき金額をa氏自身の口座に振り込ませていたこともありました。その際に、「個人口座振込依頼書」や「臨時株主総会議事録」などを偽造し、さらにGA社の印影の偽造までも行なっていました。
粉飾決算
これらの不適切な支出や取引によって、GA社の口座残高は会計帳簿上の残高を下回ることになりました。そこで、a氏は架空の原価取引を帳簿に記載することで帳簿残高を減額させることで、口座残高と会計帳簿上の残高を近づけようとしました。具体的には、取引実績のある他社名義の請求書や、実際には存在しない振込の照会結果を偽造しました。
そのほかにもシステムコンサルティング業務による架空の売上、第三者の協力を得たうえでの架空原価の計上なども行いました。
a氏の単独の不正行為であったこと
デジタルフォレンジック調査によるメールの解析や従業員等へのヒヤリングをしたところ、a氏の個人的な不正行為であり、組織的共謀や関与があった事実は認められませんでした。
まとめ
今回の事件は、代表取締役による単独の不正行為であり、様々な隠蔽工作がされていたため発覚が遅れました。もっとも、EG社がGA社への信頼やIPOを理由にデュー・デリジェンスを怠っていなければ、このような事態を回避することができたはずです。M&Aにおけるデュー・デリジェンスの大切さと、それを怠った場合の被害の大きさがよく分かる事件だといえます。
みなさんも、M&Aや事業提携の際には細心の注意を払いましょう。
[1] 他人の売掛債権を買い取り、その債権の回収をすることで利益を生むことを図る取引