今回の記事では、スーダラ節のCMでもおなじみの出前館の第三者委員会による調査についてその結果をお伝えします。
問題の概要
株式会社出前館(以下「出前館」という。)は2021年8月期決算短信を公表したところ、出前館の監査人であるEY新日本有限責任監査法人に、決済代行会社への未収入金の残高確認で残高差異が存在することを指摘されました。このように、決算に矛盾点があったことから、出前館は社内調査チームを組織して調査を開始しました。すると、さらに配送代行委託業者への外注費用にも計上漏れがある可能性が生じたため、第三者委員会を設置して本格的な調査を行いました。
今回の第三者委員会による調査で問題となった点は、
①決済代行会社への未収入金を正しく計上していたのか
②配送代行委託業者への外注費を正しく計上していたのか
という2点です。
第三者委員会の概要
構成
今回の第三者委員会の構成は以下の通りです。
委員長 | 三宅英貴(弁護士 アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業) |
委員 | 井上寅喜(公認会計士 株式会社アカウンティング・アドバイザリー) |
委員 | 矢野哲(株式会社出前館執行役員CFO) |
さらに、調査補助者として以下の2名も参加しました。
・塩野祐輝(弁護士・公認会計士 アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業)
・池内宏幸(公認会計士 株式会社アカウンティング・アドバイザリー)
調査手続
第三者委員会は2021年11月30日に発足し、同年12月27日まで調査をしました。
調査の対象は2015年9月1日から2021年8月末までの期間で、各種費用に関する資料の精査、職員および退職者のヒヤリングやメールデータ等のレビューが行われました。
調査結果
①決済代行会社への未収入金の計上について
出前館はキャッシュレス決済を導入しており、そのために複数のキャッシュレス決済代行会社と契約を締結しています。
通常のキャッシュレス決済会社は、顧客が支払った代金を月末締めで翌月に出前館に支払いますが、そのうちの2つの会社はそれよりも短い期間で支払いをしていました。そのため、2社については他社と未収入金の計上方法が異なるにもかかわらず、他の会社と同様に未収入金を計上して支払済みの金額を未収入金としていました。つまり、代金を既に受け取っているのに、受け取ってないものとして、二重に計算をしていました。
これと同時に、この2つのキャッシュレス決済会社に支払う金額も二重に計算してました。
②配達代行業者に対する外注費の計上について
消費税処理のミス
出前館は、2020年9月から12月までの間に、経理支援システムから会計システムへの自動仕訳連携の体制の構築を進めるとともに、手仕訳で配送代行業者に対する外注費の計上を行いました。
この手仕訳において、税抜きと税込みを間違えるという重大なミスがありました。そして、このミスを前提として、自動仕訳連携の体制が構築された結果、この誤って構築された体制に従って外注費が計上され続けることとなりました。
外注費の計上漏れ
外注費の計上方法が2020年8月期から変更されていたことに関連して、外注費の計上漏れがあるのではないかという疑いがありましたが、調査の結果、これは適切であったことが判明しました。
出前館のデリバリーサービスにおいて、配送を担当するのは出前館の直営配達店とパートナー配達会社の二つに分けられます。そして、2017年のサービス開始時から2020年8月期までは、加盟店とパートナー配達会社が配達代行委託契約を結び、出前館はその仲立ちをするという形態が採用されていました。つまり、出前館は契約当事者ではなくあくまで加盟店とパートナー配達会社の媒介をするに過ぎませんでした。この形態では、出前館の経理処理では、パートナー配達会社への配送費の支払いや、加盟店への配達代行手数料に関する売上高は計上されませんでした。
ところが、2020年8月期から、パートナー配達会社との間でフランチャイズ契約を結び、出前館がパートナー配達会社と直接契約を結ぶ形態へと順次移行しました。そのため、契約当事者たる出前館は、上述の配達の外注費を原価計上し、配達代行手数料を売上げに計上することとなりました。
ここで、いつの時点から経理処理において計上する必要があるかが問題となります。2020年8月期第4四半期の時点でフランチャイズ契約へと移行しているパートナー配達会社はあったものの、2020年8月期の決算では、計上がされていませんでした。しかし、経理処理上の変更をする方針に変わったのは2020年9月からであったことから、第三者委員会は外注費の計上漏れはないと判断しました。
<~2020年8月期>
<2020年8月期第4四半期頃~>
③その他の問題点
上述の二つの問題以外にも、大きく分けて3つの問題が発見されました。これらについて簡単に説明します。
四半期決算時の未収入金・未払金の調整仕訳の誤り
まず、未収入金・未払金の調整仕訳について四半期毎に異なる取扱いがされていました。
また、終了した2つのサービスについて、異なるサービスと混同して計算されたことや未払金債務が別途存在することを財務経理グループが看過したことにより、誤った仕訳処理されました。
さらに、決済代行サービスの未収入金を計上する際の元データに一部欠落があったため、誤った仕訳処理がなされました。
チャージバックに関する処理の誤り
クレジットカードの不正利用等により支払いが取消しとなる場合(チャージバック)の、未収入金と未払金の処理に誤りがありました。
未払金に関する処理の誤り
配達時に利用者が配達業者に支払う代金の回収を円滑に行うために、「夢の街創造委員株式会社」という企業を介して取引をおこなっていましたが、この取引に関する仕訳にも誤りが発見されました。
具体的金額
このように、未収入金および未払金の計上に多数のミスが発見されたことから、当初発表していたものと比べて大きく変更されることとなりました。
具体的には、未収入金は23億2500万円、未払金は9億8500万円も過大計上されており、
それらの差額として、純資産が13億3900万円も過大に計上されていました。
過大計上の発生原因
第三者委員会は、全体的な原因として、事業の急速な拡大に伴う体制強化がなされていなかったことを挙げました。加盟店が増加する一方で、キャッシュレス決済や配達代行の導入により取引量が急増し、さらにそれぞれの決済条件が異なっていました。そして、このような状況により、財務経理グループの上長2名の相互に牽制して業務の適正化を図る体制が限界を迎えました。
具体的には、未収入金・未払金に係るマニュアルが整備されていなかったこと、未収入金・未払金・代理店報酬の管理が不十分であったこと、財務経理グループ内のチェック体制が不十分であったこと、財務経理グループにおける未収入金の会計処理に関する理解が不足していたことを指摘しました。
今後の対応策
このような過大計上が再発しないように、第三者委員会は主に、以下の対応策を提示しました。
早急の対応策
・業務マニュアルの整備
・未収入金・未払金・代理店報酬の管理の強化
・主要仕訳に対するチェックの強化
・財務経理グループの人員の強化
中長期的な対応策
・債務管理のシステム化
・経理支援システムによる自動連係部分の拡大
まとめ
以上が出前館の第三者委員会による調査の結果の概要になります。
出前館のように大きな企業になると、細かい取引における形状のミスが積み上がり、膨大な金額となります。
このような事態となった際には、第三者委員会による早急な解決が期待できます。