企業が入札において気を付けなければならない談合。今回は、独占禁止法による談合の規制について解説します。
後半では談合に当たるとして独占禁止法に違反した事例を紹介します。
談合の概要
談合は「相談し合う」という広い意味を持ちますが、特に独占禁止法上問題となるものは「入札談合」といいます。
入札談合は、国や地方公共団体の公共工事等の入札において、企業同士が事前に相談し、受注する企業や金額などを決める行為です。
入札談合のイメージ
例えば、X県のある橋を修理する予算10億円の工事について、入札により工事を発注する事業者を決定することになったとします。入札に参加するA社、B社、C社は事前に相談して、C社が受注することを密かに合意しました。
そして入札の際、C社が落札できるようにするため、A社とB社はC社よりも高い価格を提示します。それぞれが提示した価格はA社9億円4000万円、B社9億5000万円、C社9億とします。そうすれば、価格競争をすることなく、予定どおりC社が高い価格で落札することができます。
このような合意を、次はA社、その次はB社が落札できるように繰り返すことで、確実に高い価格で工事を受注することができるというわけです。
入札とは?
入札は、中央省庁や地方公共団体など公的機関が、民間業者に対して業務を発注する際の調達制度です。発注する業務としては、建設工事、除雪作業、企画・運営の業務請負などさまざまなものがあります。
入札には、不特定多数の参加者を募集する一般競争入札のほか、参加する事業者を発注機関が指名する指名競争入札、特定の事業者と直接契約を締結する随意契約などいくつかの種類があります。
予定価格に対する落札価格の割合を落札率といい、落札率が高いほど、入札に参加する事業者は多くの利益を得ることができます。
入札は税金を財源としており、原則として提示する価格が低い事業者が落札されることになります。そのため、入札に参加する事業者同士で価格競争が生じます。
入札の情報は、各省庁や地方公共団体のホームページなどで閲覧することができます。
なぜ談合は禁止されているのか?
入札は事業者間の厳正な競争を前提としています。しかし、競争を避け事業者同士が合意して入札談合を行うことにより、本来より高い価格でしか工事を発注することができなくなってしまいます。
入札は税金を財源にして行われるので、談合により必要以上に税金が費やされてしまいます。そのため、談合は独占禁止法により禁止されています。
独占禁止法による規制
談合は、「不当な取引制限」として独占禁止法3条により禁止されています。
独占禁止法3条
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
そして、不当な取引制限の定義は独占禁止法2条6項で規定されています。
独占禁止法2条6項 この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。
なお、「談合」という文言は独占禁止法上用いられておらず、あくまでも談合は「不当な取引制限」に当たる行為類型の一つです。他にはカルテルなども「不当な取引制限」に当たります。
カルテルについてはこちらの記事を参照してください。
https://legalsearch.jp/portal/column/cartels-trusts-concerns/
不当な取引制限の要件
不当な取引制限に当たるかどうかは、「事業者が」「共同して」「相互に…拘束し」「一定の取引分野における」「競争を実質的に制限する」といえるかを認定します。
「公共の利益に反して」は、正当化要件であると捉えられています。上記要件に該当しても、消費者の利益となるような例外的な場合は不当な取引制限に当たりません。
違反した場合の措置
談合を行ったとして独占禁止法に違反した場合、どのような措置が採られるのでしょうか。
排除措置命令
独占禁止法7条に基づき、公正取引委員会が違反者に対して、違反行為を除くため必要な措置を命じます。
独占禁止法7条1項
第三条又は前条の規定に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、事業者に対し、当該行為の差止め、事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができる。
排除措置命令の内容としては、現存する違反行為・実行手段の差止め、違法状態除去のための周知徹底、再発予防に向けた違反行為反復の禁止などがあります。
課徴金納付命令
独占禁止法7条の2に基づき、公正取引委員会が違反者に対して、実行期間・違反期間における売上高や購入額を基準として課徴金の納付を命じます。
独占禁止法7条の2第1項
事業者が、不当な取引制限又は不当な取引制限に該当する事項を内容とする国際的協定若しくは国際的契約であつて、商品若しくは役務の対価に係るもの又は商品若しくは役務の供給量若しくは購入量、市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することによりその対価に影響することとなるものをしたときは、公正取引委員会は、第八章第二節に規定する手続に従い、当該事業者に対し、第一号から第三号までに掲げる額の合計額に百分の十を乗じて得た額及び第四号に掲げる額の合算額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、その額が百万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
公正取引委員会の発表によると、1事件の最高額は約398億円、1社に対する最高額は約131億円となっています(令和元年9月30日時点)。
民事措置
独占禁止法25条に基づき、被害者は違反者に対して損害賠償請求ができ、違反した企業は故意・過失を問わず責任を負うことになります。
独占禁止法25条
1項 第三条、第六条又は第十九条の規定に違反する行為をした事業者(第六条の規定に違反する行為をした事業者にあつては、当該国際的協定又は国際的契約において、不当な取引制限をし、又は不公正な取引方法を自ら用いた事業者に限る。)及び第八条の規定に違反する行為をした事業者団体は、被害者に対し、損害賠償の責めに任ずる。
2項 事業者及び事業者団体は、故意又は過失がなかつたことを証明して、前項に規定する責任を免れることができない。
罰則
独占禁止法89条1項1号、刑法96条の6第2項に基づき罰則が科されます。
独占禁止法89条1項
次の各号のいずれかに該当するものは、五年以下の懲役又は五百万円以下の罰金に処する。
1号 第三条の規定に違反して私的独占又は不当な取引制限をした者
刑法96条の6
1項 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2項 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。
談合が問題となった事例
以下では、談合により独占禁止法違反と判断された事例を3件紹介します。
多摩談合事件
事実の概要
1997年10月1日から約3年間、ゼネコン33社は、公共下水道工事等の入札において受注予定者の決定等に関する合意をしました。
この期間中、指名競争入札の72件中34件を上記ゼネコン33社が落札し、落札率は99%超が21件、98%~99%が5件、97%~98%が2件、90%未満が6件でした。
結果
公正取引委員会は、上記合意が不当な取引制限に当たるとして、30社に対して課徴金の納付を命じました。これを受けたゼネコンのうち25社は審決の取消訴訟を提起しました。
上記合意が「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」に当たるかどうかが問題となりました。最終的に最高裁は請求を棄却し、不当な取引制限に当たると認定しました。
この事件は、独占禁止法2条6項の要件である「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」の意義について、基本合意参加者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうとして、不当な取引制限の成立を肯定した事例として知られています。
北海道庁農業土木談合事件
事実の概要
北海道庁が、道内における業者の年間受注目標額を設定し、各支庁を通じて落札予定者と予定価格を業界団体に伝えることで農業土木工事を落札させていたことが判明しました。
この事件の特徴は、発注者側の関与が認められた点にあります。
結果
2000年5月、公正取引委員会は、上記行為が不当な取引制限に当たるとして排除措置を命じました。
この事件は、2002年に成立した官製談合防止法(正式には入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律)制定のきっかけになりました。
医薬品卸の談合事件
事実の概要
2016年と2018年、独立行政法人の地域医療機能推進機構(JCHO)発注の医薬品の一般競争入札において、医薬品卸業者大手4社(アルフレッサ、東邦薬品、スズケン、メディセオ)は受注予定者をあらかじめ決め、入札価格を記載した連絡票を交換し、予定者が落札できるようにしていたことがわかりました。
落札率は約99%であったといいます。
2020年12月9日、3社とその執行役員ら7人は東京地検特捜部に起訴されました。
結果
メディセオを除く3社の行為は不当な取引制限に当たるとし、2021年6月30日に有罪判決が確定しました。各社は2億5000万円の罰金が科され、総額4億2385万円の課徴金納付命令・再発防止を求める排除措置命令が出されました。
メディセオは、課徴金減免制度に基づいて最初に不正を申告したため告発されず、公正取引委員会の処分もなされませんでした。
その後も3社は2021年11月9日、談合の疑いで公正取引委員会の立入検査を受けました。
まとめ
・談合は、国や地方公共団体の公共工事等の入札において、企業同士が事前に相談し、受注する企業や金額などを決める行為です。
・談合は、独占禁止法2条6項の「不当な取引制限」に当たり、3条で禁止されています。
・発覚した場合には、排除措置命令や高額な課徴金納付命令、刑事罰など厳しい措置が採られます。