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【2020年6月に施行】改正卸売市場法とは?中央卸売市場を民間が開設できるように

改正卸売市場法とは?

私達の暮しに関わりの深い卸売市場は、これまで都道府県庁などの自治体が開設していましたが、改正卸売市場法が施行される2020年6月から、民間による開設が認められるようになります。また卸売市場に関するその他の規制も大幅に緩和されることになりました。この記事では、改正卸売市場法によって、卸売市場がどのように変わるのかについて解説します。

改正卸売市場法施行によって何が変わるのか

改正卸売市場法は、2020年6月21日に施行されます。この改正によって、卸売市場の運営にどのような変化が生じるのか解説をしていきましょう。

民間が中央卸売市場を開設することが可能になる

これまで中央卸売市場を開設することができるのは、都道府県や人口20万人以上の都市の自治体のみでしたが、法改正によって規制が緩和されます。

一般の法人であっても、認定基準や認定要件を満たせば、農林水産大臣が開設者として認定し、中央市場を開設することが可能になります。 認定基準では、卸売場、仲卸売場、倉庫(冷凍または冷蔵を含む)の面積の合計が次の面積以上になるように定めています。

  1. 野菜及び果実……10,000平方メートル
  2. 生鮮水産物……10,000平方メートル
  3. 肉類……1,500平方メートル
  4. 花き……1,500平方メートル
  5. それ以外の生鮮食料品……1,500平方メートル

また認定要件としては、「申請書業務規程の内容が基本方針に照らして適切か」などの、業務規程に関する要件が示されています。

現物を卸売市場に運ばなくてもよい

これまで卸売市場以外の場所で卸売りをすることが禁じられていました。このため、農産物や海産物は、すべて産地からいったん卸売市場に搬入する必要がありましたが、法改正によって、この規制が廃止されました。これにより、産地で卸売りをすることも可能になります。

一般販売が可能になる

これまで卸売業者の販売先は、原則として市場内の仲卸業者に限定されていました。

法改正によって、この原則が緩和され、卸売業者が市場外の小売業者や飲食店などに直接卸すことが可能になります。

直接産地から仕入れることが可能になる

これまで仲卸業者は所属する市場の卸売業者以外から仕入れることを禁止されていました。

法改正によって、仲卸業者が各地の産地から直接食材を仕入れることが可能になります。これにより、これまで卸売市場で扱っていなかった小口注文の食材などを顧客の要望に応じて仕入れるといった展開が想定できます。

自己買受けが可能になる

これまで卸売業者が自ら買受けることは禁止されていました。これは、独占力を行使して価格操作を行われることや、反対に価格が暴落した際に卸売業者が大きなダメージを受けることで市場取引の安定を損なうことを防ぐための措置です。

しかし、一方で食料を安定供給するために、状況によっては一定の食糧を確保しておいた方がよい事態も想定できることから、今回、卸売業者による自己買受けができるように改正されました。

取引ルールは各市場で決める

改正卸売市場法では、多くの規定が廃止されました。しかし、何でも自由に行えるということではなく、開設者は、取引参加者の意見を聞いたうえで、次の行為について順守事項を定めることになります。

開設者が開設要件を決める

改正卸売市場法では、提出する認定申請書の記載事項の内容はすべて開設者が決めることになります。主な記載事項は次のとおりです。

取扱い品目は、これまで卸売業者に対して部類ごとに農林水産大臣が許可をしてきましたが、これが廃止され、開設者の判断で決められるようになります。ただし、取扱品目とした場合には、量、価格等の公表義務規定が適用されます。

卸売市場開設で注意すべきポイント

大幅に規制緩和された改正卸売市場法ですが、その中にあって、規制が継続しているものもあります。今後卸売市場を開設するうえで、注意すべきポイントを紹介しましょう。

ルール化できない規制がある

改正卸売市場法では、各市場でルール化をしていくことができるようになりますが、次の事項については、法に規定されているため引き続き順守する義務があります。

都市計画決定をしないと建築できない

これまで農林水産大臣が卸売市場の開設区域を指定していましたが、改正卸売市場法ではこの制度が廃止されました。しかし、だからといって開設する場所が自由に決められるようになったわけではありません。

建築基準法において、「卸売市場は、都市計画においてその敷地の位置が決定しているものでなければ新築または増築してはならない」と定められており、用途地域で建築場所が制限される一般の建築物よりもさらに厳しい制限が設けられています。

卸売市場は、都市にとって重要な供給施設ですが、同時に周辺環境に大きな影響を及ぼすおそれのある施設なので、都市内のどこに配置すべきかを総合的な観点から判断する必要があるからです。このため、施設の建設場所は、設置する自治体の都市計画審議会の議を経るという手続きが必要になります。

多くの自治体では、都市計画審議会は年に数回しか開催されないため、卸売市場の開設場所が決定したら、できるだけ早い段階から自治体との協議を進める必要があります。

改正卸売市場法によってどんな変化があるのか

改正卸売市場法が施行されれば、実際の市場でどのような展開が想定されるのかみていききましょう。

小ロットの注文に応えられる

これまで産地から出荷された食材は、必ず卸売業者を介していました。このため、大量の食材を取り扱う卸売業者では、小ロットでの注文に応えられませんでした。

法改正によって、仲卸業者が直接産地から買い付けることができるようになると、小ロットの注文をする海外の輸入業者などの注文にも対応することが可能になります。

産地直送が実現する

これまで、海産物や農産物は、いったん卸売市場に持ち込んで取引することが原則とされていました。法改正により、この原則が廃止されたので、産地から直接食材を搬入することが可能になりました。

卸売市場に搬入して、せりにかける手間が省略できるため、朝水揚げされた新鮮な魚を、その日のうちにスーパーマーケットで販売することも可能になります。

小売店が安価で仕入れることができる

これまで小売店や飲食店は、仲卸業者を通じないと仕入れることはできませんでした。法改正により、卸売業者から直接仕入れる、いわゆる「中抜き」が行えるようになるので、小売店が安価で仕入れることも可能になります。

市場間で農産物の過不足が調整できる

これまでは、卸売業者は同一の市場内の仲卸業者にしか卸売りをすることができませんでした。法改正により、この規制が廃止されるため、他の市場の仲卸業者への卸売りも可能になり、市場間で農産物の過不足の調整が迅速に行えます。

改正卸売市場法とは?:まとめ

改正卸売市場法では、83条あった条文が19条になりました。それだけ廃止した条文が多いということですが、一方でそれぞれの市場でのルール化が求められます。

法の上では廃止されたルールも、それぞれの卸売市場の実態に合わせて市場内のルールとして定めることもあります。急激に変化をしていく食品流通においては、持続可能な卸売市場として運営していくために、それぞれの創意工夫を生かした取り組みが必要とされる時代になったといえるでしょう。

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