「株式」。みなさんもよく耳にする言葉でしょう。
最も身近な例だと今は多くの企業が「株式」会社を名乗っていますから耳なじみのある言葉だと思います。
では「自己株式」は聞いたことがあるでしょうか。
今回は、この「自己株式」について解説をしていきます。
「自己株式」とは
自己株式とは、「株式会社が有する自己の株式」のことをいいます。
なお、自己株式を取得しても、議決権の行使はできませんし、剰余金の配当を受けることもできません。では、どのような目的で自己株式の取得をするのでしょうか?
自己株式の取得とは
「自己株式の取得」とは、会社が自社の発行した株式を取得することをいいます。後述するように自己株式の取得には法律上の制限があります。
実際に自己株式取得を制限している会社法155条をみてみると、各号で自己株式の取得できる場合を列挙していることから、自己株式の取得はこれ以外の場合は原則として禁止されているように思えます。
しかし、155条が列挙している場合のうち、「156条の第1項の決議があった場合」(155条3号)については、取得目的が制限されていないので、会社は株主総会決議をはじめとする一定の手続さえとれば、基本的にどのような目的で自己株式を取得してもよいことになります。そのため、会社法上自己株式の取得は自由化されているといわれています。
自己株式取得の目的
自己株式を取得することで、発行済み株式数を減少させることができますから、それだけ敵対的企業からの買収が困難になります。これは、戦略的な自己株式の取得ですね。また、株価対策をするために自己株式の取得をする場合もあります。市場で出回る株式の数が減少すると、需要に対して供給が少なくなるため、相対的に株価はあがることになります。
自己株式取得が自由化になるまで
平成13年改正前までは、自己株式の取得は原則として禁止されており、一定の目的で取得する場合に限って、例外的に認められていました。自己株式取得の自由化には、様々な弊害があると考えられていたからです。
すなわち、
①一部の株主から高い価格で自己株式が取得される危険があり、そうすると株主間に不平等が生じる
②グリーンメーラー(株式を買い集め、株主権の行使などを脅迫の手段として用いながら、会社に高値での株式買取りを求める者)からの自己株式取得や、買収防衛策としての自己株式取得など不当な目的での取得がなされる危険がある
③自己株式の取得という形で会社財産が株主に過度に分配されると、債権者の利益が害される危険がある
④相場操縦やインサイダー取引など、資本市場での不公正取引の手段として自己株式取得がなされる危険がある
という4つの弊害があると考えられたのです。
しかし、このうち①②は、適切な手続規制を整備することで、③は適切な財源規制を用意することで、④は資本市場規制(金融商品取引法)を整備することで、対処できるとされました。
自己株式の法規制(財源規制と手続規制)
会社による自己株式の取得については、会社法上、手続規制と財源規制が用意されています。
自己株式の取得によって、剰余金の分配がなされ、債権者の利益が害されることのないように、自己株式取得についても財源規制がなされる場合があります。すなわち、自己株式の取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価格の総数は取得の効力発生日における分配可能額を超えてはならないと規定されています。
手続規制は、会社法155条各号で列挙されていますが、今回は「株主との合意による取得」について説明します。
会社法は、会社がすべての株主に対して保有株式を売却するように勧誘したうえで、自己株式の取得を行うという方法を、自己株式の原則的な取得方法と位置付けています。
①株主総会の普通決議で、取得する自己株式の総数の上限、取得対価の総数の上限、取得できる期間といった大枠を決めます。
②その後、実際に自己株式を取得する都度、取締役会において、株主総会決議で定められた枠内で、取得する自己株式の数、1株当たりの取得対価、取得対価の総数、株式の譲渡しの申込みの期日を定めます。
③会社は②で定めたことをすべての株主に通知して、保有株式を会社に売却するよう勧誘します。株主への通知は公開会社では、公告をもって代えることができます。
④売却勧誘に応じて、株主が譲渡しの申込みをすると、会社は②で定められた申込期日に株式の譲受けを承諾したものとみなされ、会社と株主との間に売買契約が成立します。
なお、金融商品取引法は、上場会社が上場株式である自己株式を取得する場合については、この原則的な方法を用いてはならず、すべての株主を対象に売却勧誘を行う場合は「公開買付け」の方法によらなければならない旨を規定しています。
自己株式取得のメリット・デメリット
メリットとしては上記のように、市場における株価が相対的に上がることになるため、株主の配当金も高くなることが見込めることです。
また、自己株式を多く所有していると、合併や会社分割の際に、新たに株式を発行しなくても、保有する自己株式を対価として交付することができ、スムーズな組織再編が可能となります。
これらに対して、デメリットは、会社資本の流出により資金繰りの悪化が考えられます。会社の資産に余裕のない会社では、自己株式の取得は慎重にならざるを得ません。
まとめ
会社が自己株式の取得を行う場合には様々な目的をもって行われることがわかりました。
自己株式取得の自由化により、容易に自己株式を取得できるようにはなりましたが、手続規制と財源規制の2つがあることには注意した方が良いでしょう。