意匠権は、飲食店やカフェの外装、電化製品など、あらゆるもののデザインを守る権利として非常に重要なものです。意匠権を持っておけば、外部の第三者に自身が作り上げたデザインを模倣されるリスクを軽減できます。 そこで今回は、意匠権を取得する要件や取得までの流れを解説します。
意匠権とは
意匠法第2条柱書において意匠は、「物品の形状、模様、色彩、またはこれらの結合、建築物の形状、画像であって、資格を通じて美感を起こさせるもの」と定義されています。つまり意匠権とは、物品や建築物、画像などのデザインに関する権利です。
意匠権を取得するメリット
意匠権を取得すると、以下のメリットを期待できます。
- 登録した意匠および類似する意匠に関して、独占的に実施(製造や使用、譲渡、貸し出しなど)できる
- 権利を侵害された場合に損害賠償を請求できる
- 他社とのライセンス契約を結ぶことで収入を得られる
意匠権の存続期間
意匠法第21条では、意匠権の存続期間を「意匠登録出願の日から25年間」と規定しています。
意匠権が認められる要件
意匠権が認められるには、以下5つの要件をクリアする必要があります。
工業上の利用可能性がある
意匠法第3条柱書では、「工業上の利用可能性があること」を意匠権を認める前提条件としています。「工業上の利用可能性がある」とは、機械や手作業といった手段により、反復して量産できることを意味します。
したがって、「絵や彫刻などの美術品」や「自然物などを意匠の主体としているもの」は工業上の利用可能性がないため、意匠権の対象外となります。
新規性がある
意匠法第3条1項では、新規性を意匠権の要件としています。新規性とは、出願の時点で意匠が世間的に認知されていないことを指します。
下記のケースに該当すると、新規性がないため意匠権は原則登録されません。
- テレビ等で報道されたことで、公然と意匠が知られている
- インターネットや刊行物を通じて、意匠が利用可能となっている
- 上記2つの意匠に類似する意匠
創作性がある
特許権や実用新案権とは異なり、意匠権には進歩性は求められません。ただしその代わりに、創作性が求められます。創作性とは、すでに周知されている意匠に基づいて、容易に創作できないような意匠であることを指します。
要するに、既存のデザインから誰でも簡単に作れるような意匠に関しては、意匠権は認められない可能性が高いわけです。
先願である
意匠法第9条に規定された「先願であること」も、意匠権が認められる要件の1つです。
先願であることとは、最初に出願をした者だけが意匠権の登録を受けることができるという要件です。したがって、同一または類似の意匠について異なる日に2つ以上の出願が行われた場合、後から意匠登録の出願を行った人物は意匠権を原則取得できません。
ただし、同一の日付に2つ以上の出願が行われた場合には、出願人同士で協議を行い、誰が特許権を獲得するかを決めなくてはいけません。協議が不成立となると、誰も意匠権の登録を受けることができません。
不登録事由に該当しない
意匠法第5条の不登録事由に該当すると、上記の要件を満たしても意匠権の登録を受けることができません。具体的な不登録事由は以下のとおりです。
- 公序良俗を害するおそれがある意匠
- 他人の業務に関係する物品や建築物、画像と混同を生じるおそれがある意匠
- 物品や建築物、画像の機能や用途を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠
意匠権を取得する流れ
最後に、意匠権を取得するまでのプロセスをご紹介します。意匠権を取得する際には、大きく以下3つの手続きを経ます。
手順1:出願
最初に、以下の書類を特許庁長官に提出する形で意匠の出願を行います。
- 願書(出願人の氏名・名称や住所居所、意匠に関する物品や建築物、画像の用途など)
- 意匠を記載した図面(ひな形または見本でも可)
手順2:方式審査・実体審査
出願した意匠に関しては、方式審査(書面の不備の有無を審査)や実体審査(所定の要件に関する審査)が行われます。
なお、実体審査により要件をクリアしていないと判断された場合には、登録できない理由が書かれた「拒絶理由通知書」が送付されてきます。拒絶理由が通知された際には、意見書を提出するなどして理由に対して反論することが認められています。
手順3:意匠登録査定・設定登録
拒絶理由がない場合には、意匠登録の査定が実施されます。登録料を納付することで、意匠権が登録され、正式に権利を行使できるようになります。
意匠権とは?取得の要件・流れを徹底解説!:まとめ
意匠権を取得する要件は、「工業上の利用可能性」や「創作性」などを除いて、特許権とあまり変わりません。一方で出願の流れに関しては、審査請求などがない分だけ、意匠権の方がシンプルかつ容易であると言えます。
デザイン性の高い商品を取り扱っているならば、ぜひ積極的に意匠権の取得にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
参考:意匠法 e-Gov