「抱き合わせ販売」は小売業や製造業で見かけることのある手法ですが、場合によっては独占禁止法第19条に抵触する可能性があります。今回の記事では、そんな抱き合わせ販売の意味や不当な抱き合わせ販売となるケース、実際の事例を徹底解説します。
抱き合わせ販売とは
抱き合わせ販売とは、ある商品・サービスを他の商品・サービスとセットにして販売する手法です。
売れ行きの良い人気商品に売れ行きが悪い商品をセットにして販売することで、在庫削減や売り上げの増加といった効果を期待できます。
しかし一方で、抱き合わせ販売には消費者や競合他社に不利益をもたらす恐れがあります。不利益をもたらす抱き合わせ販売を行なった結果、独占禁止法第19条に規定する「不公正な取引方法」と見なされ、課徴金などのペナルティを負うこともあるので注意が必要です。
独占禁止法第19条に抵触する抱き合わせ販売のケース
では、独占禁止法第19条に抵触する抱き合わせ販売とは、一体どのようなケースなのでしょうか?
公正取引委員会では、「相手方(消費者)に対して、不当に商品または役務の供給に併せて他の商品または役務を自己もしくは自己の指定する事業者から購入させ、その他自己または自己の指定する事業者と取引するように強制する」場合は、不公正な取引方法に当たるとしています。
公正取引委員会の定義を読み解くと、独占禁止法第19条に抵触する抱き合わせ販売のケースとして、「顧客にとって不要な商品を買わせるケース」と「競合企業の事業運営を阻害するケース」の2つが考えられます。
顧客にとって不要な商品を買わせるケース
一つ目は、顧客が本来購入したい商品を、その業者からの抱き合わせ販売でしか購入できない状況下で販売するケースです。
顧客からすると、本来欲しい商品を購入するには、抱き合わせ販売により不要な商品も一緒に購入せざるを得なくなります。不要な商品を余分なお金を支出してまで購入する必要があるため、顧客は大きな不利益を被ります。
以上の理由より、不当な抱き合わせ販売として独占禁止法の第19条に抵触します。
競合企業の事業運営を阻害するケース
二つ目は、競合企業の事業運営を阻害するケースです。
例えば抱き合わせ販売により、Aという人気商品にBという商品を組み合わせたとします。この抱き合わせ販売によって、B商品を販売する企業からするとB商品の販売数量が少なくなる可能性があります。
競合企業からすると、自社の経営努力とは無関係の部分で不利益を被るため、こうした抱き合わせ販売は独占禁止法で規制されています。
参考:不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号) 公正取引委員会
抱き合わせ販売の事例
最後に、不当な抱き合わせ販売と認定された事例と、認定されなかった事例をご紹介します。認定された事例とそうでない事例を対比して、独占禁止法に抵触するケースについて理解を深めましょう。
不当な抱き合わせ販売と認定された事例
不当な抱き合わせ販売と認定された有名な事例に「藤田屋事件」というものがあります。
本件は、卸売業者であった藤田屋が、平成2年当時大人気だったゲームソフト「ドラゴンクエストⅣ」に売れ残って在庫となっていたゲームソフトを抱き合わせた上で、小売業に対して販売した事例です。
小売業者にとって必要のないゲームソフトを半強制的に購入させていた点で、不当な抱き合わせ販売として独占禁止法第19条に違反すると判断されました。
この公正取引委員会の判断により藤田屋は、当該抱き合わせ販売をやめることと、今後このような行為を行わないことを取引先の小売業者に周知徹底させることを命じられました。
不当な抱き合わせ販売とは認定されなかった事例
次に、不当な抱き合わせ販売とは認定されなかった事例として、建築用建材メーカーの事例をご紹介します。
本件は、建築用建材メーカーが建築用の建材を販売するにあたって、購入者に対して自社との定期点検契約を締結するように義務付けた事例です。
本件は次に挙げる3つの理由から、独占禁止法第19条に抵触しないと判断されました。1つ目の理由は、本件製品を利用するにあたっては十分な点検により安全性を確保する必要性があり、顧客にとって不必要な商品とは言えないからです。
2つ目の理由は、同社以外に十分な点検を行える事業者が存在しないため、他社の事業運営を阻害することはないためです。
そして3つ目の理由は、当該契約が単年契約であり、契約更新の度に他社との契約に切り替えることができるからです。
以上の理由より、顧客や競合他社に対して不利益を与えないため、本件の抱き合わせ販売は独占禁止法には抵触しないとされました。
参考:建築用建材メーカーによる定期点検契約の義務付け 公正取引委員会
不公正な取引形態の「抱き合わせ販売」とは:まとめ
抱き合わせ販売は在庫削減などに有効な手法ですが、顧客や競合他社に不利益を与える可能性があるので注意が必要です。仮に不当な抱き合わせ販売と見なされると、独占禁止法第19条に抵触することとなります。
事業で商品やサービスを販売する際には、独占禁止法の規定にも十分気をつけましょう。