そもそも商標って?
知的財産のうちの1つ
日本を含む多くの国において、技術やアイデア、ブランドロゴなど、物体こそないが財産的価値のあるものは法律で保護されています。具体的には、発明を保護する特許法、ブランドや業務上の信用を保護する商標法などがあり、これらの法律をまとめて知的財産法といいます。
知的財産法は、発明やアイデアなど“物体こそないが財産的価値のあるもの“(長いので以下「発明等」とします)に法的な権利を付与し、権利者でない者がその発明等を勝手に使うことを制限しています。この法律により、発明等を創り出した人が保護されます。
その結果、発明等が促進され技術の進歩や文化の発展につながっていくという考え方のもと、特許法や商標法などの法律により発明等の性質に応じた各権利が与えられています。
これらのうち、今回はブランディングのコアになる「商標」と、その法的権利を定めている商標法にスポットを当てていきます。
商標法上の定義とその目的
商標についての法的権利の内容は商標法に規定されています。そして、商標法の目的は商標法第1条に定義されています。
第1条 この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。
商標法は、商標を使用する者の「業務上の信用の維持」を図ることと「需要者の利益」の保護がその目的とされています。このことから商標法が有する機能は一般的に以下の3つがあるといわれています。具体例と一緒にそれぞれの機能を見ていきましょう。
- 出所表示機能
…需要者が「このマークがついているということは○○社製だ」と、誰が商品やサービスの質をコントロールしているのかを知ることができる。 - 品質保証機能
…1.の出所が表示されることにより、「○○社製なら安心だ」と、需要者が一定の期待を持つことができる。 - 広告宣伝機能
…1. と2. により、需要者の間でよいブランドイメージが形成された結果、別の製品においても「○○社製なら安心だ」とブランドの差別化につながる。
商標の種類
商標には「標準文字商標」と「ロゴ商標」の2種類があります。標準文字で権利を取得したほうが幅広い範囲での権利を持つことができますが、標準文字では権利取得が難しいものをロゴ商標として取得し、ブランディングをしていくという戦略も考えられます。これについては別の記事で紹介します。
商標登録をすることの意味
商標登録をしないとどうなるか
例えば、Aさんは、若手時代から培った技術とアイデアを元に会社から独立し、ボールペンを作り販売する会社をはじめました。Aさんの作る○○ボールペンは素晴らしく、飛ぶように売れました。しかし、流行り始めたころ、別の同業者Bが○○ボールペンという同じ名前でボールペンを出したことにより、消費者がAさんの○○ボールペンと間違えてBのボールペンを買うようになり、Aさんの売り上げは思ったより伸びなくなってしまいました。
Aさんは、「〇〇ボールペン」の商標登録をしていなかったため、Bによる「〇〇ボールペン」という名称の使用を止めることができませんでした。 このように、商標登録をしていないと「これは自分のブランドだ」という権利主張をすることが非常に困難になります。
商標登録をするとどうなるか
商標登録をすることにより、以下2つの権利を行使することができます。
- 「専用権」…登録した商標を独占して使用できる権利(商標法第25条本文)
- 「禁止権」…他社が自社の商標を使用していた場合、差し止めることができる権利(商標法第36条1項)
商標登録がなされることにより、大きく分けて以下の2つの効果があります。
- 模倣の防止効果
⇒自分だけが使える権利(「専用権」「禁止権」)でブランドの毀損を防ぐ - ブランディング効果
⇒「この商標は○○社製だ」という出所を表示する機能により自社製の担保、信用の貯蓄
これらの機能により、自社ブランドの毀損を防ぎながら、信用を貯蓄していくと商標登録をしていない場合に比べて自社サービスの価値が大きく向上していきます。
商標が価値を生み、企業価値が高まる
広がる可能性
商標を登録することで、自社ブランドを確立できる、企業の信用を蓄積できる、商品の周知や売り上げの向上が見込めるなどの直接的な効果が期待できるのは、これまで説明してきたとおりです。
ただ、商標の可能性はそれだけにとどまりません。
商標は、時間をかけて信用を蓄積し、商標が有名になることで大きな価値を生み出します。
有名な商標があれば、その商標を使ってビジネスをしたいという人が現れることも考えられます。その場合には、商標自体を他者にライセンス(使用の許諾)し、使用料を得ることも可能になります。
また、有名な商標は企業が投資を受ける際や事業譲渡の際に、企業価値の算定の基礎になります。
では、商標はいくらくらいの価値になるのでしょうか。実際の事例だと、味の素株式会社は、自社の子会社がライセンスを受けて使用していた、「Blendy」、「MAXIM」、「TRIPLESSO」などの商標権をライセンス元であるジェイコブズ・ダウ・エグバーツ社のグループ会社から225百万ユーロ(約259億円)で買い取るということもありました。
このように、価値のある商標は高額で売買される対象となっています。
今度は反対に、他社に投資をする際にも商標は有効な指標となりえます。企業の商標取得件数や使用数を投資先の選定基準とすることで、投資先の会社が将来的に大きな価値を生み出し得るようなブランディングをしているかを選別することもできるようになるからです。
このように、商標を取得し、活用していくことは大きなビジネスチャンスにつながります。今後のビジネスシーンにおいて、企業のブランディングにも商標を意識した視点を加えてみてはいかがでしょうか。