5月25日に総務省が発表した「電気通信サービスに係る内外価格差調査」で、菅総理が主導して実現した携帯電話料金の値下げによって、世界の主要6都市の中で2番目に安い価格(データ使用量20GB)になったとの事です。
一年前の調査データでは、同じデータ使用量では主要6都市の中で最も高額だったことから、今回の発表は驚きを持ってさまざまなメディアで紹介されました。
総務省の実施した調査内容をよく見ると、一概に安いとも言い切れないところもありますが、大手通信キャリアが政府主導によって料金の値下げを実施したことは事実です。
そこで、前回の続編としてスマホ料金の値下げの実態や政府の狙いについてまとめました。
※ 本記事は2021年3月1日に掲載した「スマホの料金の値下げはなぜ? そしてこれからどうなる?」の続編になります。
前回の記事のおさらい
携帯電話ビジネスの構造、及び値下げ実現までの流れについて、前回の記事のポイントを整理しました。
携帯電話に関わる事業者
移動体通信事業者(MNO)
通称「通信キャリア」。総務省から電波利用免許の交付を受け自社の通信回線網を使って通信サービスを行う事業者。NTTドコモ、ソフトバンク、KDDIなどが該当。
サブブランド
大手通信キャリアが提供している低価格帯サービスのブランド。UQ Mobile、Y! mobileなどが該当。
仮想移動体通信事業者(MVNO)
通信キャリアから回線を借りて通信サービスを行う事業者。格安SIM、格安スマホなどが該当。
値下げ実現までの流れ
- 2018年:菅官房長官が「携帯電話料金には4割値下げできる余地がある」と発言
- 2019年:通信料と端末代金の完全分離などを目的とした「電気通信事業法改正案」が閣議決定
- 2020年:総務省調査で日本の料金が諸外国に比べて高額であることが指摘される
- 2020年9月: 菅総理が誕生し、10月に総務省が携帯電話料金値下げへの改革案を発表
- 2021年:年明けまもなく、大手通信キャリアの値下げ料金プランが出揃う
スマホ料金の推移
総務省は20年以上に渡り「電気通信サービスに係る内外価格差調査」を行い、世界の主要都市における携帯電話料金などをまとめています。 そのデータをもとに、2017年から2021年までのスマートフォン料金(データ通信量20GB)の推移をグラフにしました。
(※ 調査データは、毎年3月時点のもの)
各都市の事業者の料金体系が異なるため、総務省では
- 音声通信の時間
- メールの回数
- データ使用量の違いによっていくつかのグーループ分け
を行っています。
上記データは「スマートフォンユーザーC」と呼ばれるグループで、2021年度の各都市の料金プランは次の様になっています。
都市 | 音声通話 | SNS | データ通信量 |
東京 | 1回5分以内無制限 | 20GB | |
ニューヨーク | 無制限 | 無制限 | 無制限 |
ロンドン | 無制限 | 無制限 | 30GB |
パリ | 無制限 | 無制限 | 70GB |
デュッセルドルフ | 無制限 | 無制限 | 24GB |
ソウル | 無制限 | 無制限 | 100GB |
上記の料金プランを比較すると主要都市の中で料金が2番目に安くても、音声通話時間やデータ通信量においては低いレベルにあることから、総合的に考えるとサービスに対する価格は安くはない様に見えます。
ここで、情報通信分野に関する調査・コンサルティングを行っているITC総研の2020年7月16日に発表した調査データを紹介します。
この資料では総務省の調査に欠けている2つの要素、「つながりやすさ」「スピード」などについて主要国と比較しています。
各国主要携帯電話事業者の4G接続率と料金の関係性
・縦軸は、各国のシェア上位3 携帯電話事業者の料金プラン月額平均値。
・横軸は、各国の4G接続率。 (出典:Opensignal社 2020年5月「THE STATE OF MOBILE NETWORK EXPERIENCE 2020」「4G Availability」)
・4G接続率とは、「利用者が4Gで通信している時間/利用者がモバイル網に接続し通信している時間」の割合を指す
・各国の点は、下から「2GB」、「5GB」、「20GB」の料金を表す
つながりやすさ「接続率」は横軸で表しており、日本 98.5%、韓国 98.3%、アメリカ 96.1%、イギリス 89.2%、フランス 86.0%、ドイツ 85.8%と、日本が最も高い水準にありながら、料金は韓国、米国についで3番目となっています。
さらに、スピード「ダウンロード通信速度」調査においては、韓国 59.0Mbps、日本 49.3Mbps、ドイツ 28.7Mbps、フランス 28.6Mbps、アメリカ 26.7Mbps、イギリス 22.9Mbpsと、日本は2番目に早いスピードにありながら、料金はやはり韓国、米国についで3番目となっています。
これらのデータから、日本の「スマートフォン料金」は、①料金、②通信量、③接続率、④通信速度などを総合的に考えると、世界の主要国の中でもトップレベルの品質でありながら安い価格を実現したと言って良いでしょう。
政府の狙いとは?
政府の方針は2020年10月に総務省が発表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」、及び2021年4月1日に施行された「改正電気通信事業法(改正事業法)」に良く現れています。
その基本的な考え方は、携帯電話が国民の生命・財産を守り、社会経済活動を支える重要インフラとしての役割を果たしていることから、通信事業者間の活発な競争を促進し低廉で多様なサービスを実現することにあります。
アクション・プランの中で料金政策に関する柱は次の3点になります。
通信料金と端末代金の完全分離
この点はアクションプランに盛り込むだけでなく、改正事業法第27条の3においても端末購入による通信料金の優遇などを禁じています。これにより消費者は通信サービスに対する「料金」を正確に把握できる様になります。
MNO-MVNO間の競争促進
MNOから通信回線を借りて事業を行うMVNOにとって、ネットワーク設備の使用料が高額であればMNOと競争することはできません。そこで、データ接続料を3年間で5割削減すること目指すとともに、音声卸料金の適正化を図ることによってMVNOの価格競争力を向上させます。
MNO間の競争促進
- 解約時の違約金の低減(改正事業法第27条の3)
- 番号持ち運び制度(MNP)の原則無料化
- キャリアメールの持ち運びの実現
- SIMロックの解除
- eSIMの促進
などによって業者間の乗換えに対する障害を取り除くことでMNO間の競争を促進します。
この様に政府は、さまざまな政策や法律改正によって外堀を固め、徹底して通信事業者間の競争阻害要因を排除しようとしていますが、同時に、5Gの本格普及に向けて次の2点が盛り込まれています。
- 事業者に割り当てる周波数の公平かつ能率的な利用を実現するために、今後の割当ての方策について検討する。
- 5G基地局を他者に使用させ、又は複数事業者間で共同使用する「インフラシェアリング」を活用し移動通信ネットワークの円滑な整備を促進する。
政府の狙いは、一見すると料金政策がメインの様に思えますが、実態はデジタル社会のカギを握る第5世代の通信システム「5G」への移行環境を整えているのではないでしょうか。
なぜなら、5G通信ネットワークが完成するまでの間は4Gへのアクセスが必要であり、そのためには料金の低廉化だけでなくMNO間の競争と同時にインフラシェアリング体制が欠かせないためです。
本当に日本のスマホ料金は安くなったの? 政府の狙いは?:まとめ
今回は日本のスマホ料金が他国に比べて本当に安くなったのか、データを基にまとめました。データ通信量も確かに重要ですが、地下鉄や郊外ではつながらない、あるいはデータのダウンロードがとても遅いというのではいくら料金が安くても利用価値は低いものになります。
その点、日本のスマホ(4G)は「サービスの品質」及び「通信料」において世界に誇れるレベルになっていると考えられます。
しかし、本番は経済面や軍事面と密接な関わりを持つ5Gです。
最後に、5Gの主流となるのが予想される「データ無制限」のスマホ料金について、総務省の「電気通信サービスに係る内外価格差調査」データを紹介します。
都市 | 音声通話 | SNS | データ通信量 |
東京 | 1回5分以内無制限 | 無制限 | |
ニューヨーク | 無制限 | 無制限 | 無制限 |
ロンドン | 無制限 | 無制限 | 無制限 |
パリ | 無制限 | 無制限 | 無制限 |
デュッセルドルフ | 無制限 | 無制限 | 無制限 |
ソウル | 無制限 | 無制限 | 無制限 |