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コロナ事情でも急な内定取り消しはできない?法務が知るべき注意点

コロナ事情でも急な内定取り消しはできない

世界中で新型コロナウイルスが猛威をふるう2020年、日本政府は、日本経済団体連合会(通称:経団連)や経済同友会などへ、内定者の取消しをしないように要請を出しました。しかし、内定取り消しをした場合はどうなるのでしょうか?この記事で詳しく解説いたします。

急な内定取り消しはできないのか?

新型コロナウイルスは世界中で蔓延し、多くの国で外出禁止令が発令されました。日本でも緊急事態宣言が出された上で外出自粛が要請され、経済活動へ大きな打撃となりました。日本政府は、経団連や経済同友会などへ、内定者の取消しをしないように要請を出しましたが、そうは言っても採用する余裕がなくなった企業側の気持ちも理解できます。まずは急な内定取り消しの是非について紹介します。

内定取り消しは原則不可

内定取り消しは原則できません。内定に対する法律の見解にはさまざまな議論がありますが、内定段階で労働契約(始期付解約権留保付労働契約)が成立するという判例があります。企業の経営悪化や、内定者がトラブルを起こしたなど、特別な事情がない限り内定取り消しはできません。

内定者の不利益が甚大

もしも内定取り消しになった場合は、内定者が一方的に不利益を被ることになります。しかもその被害は甚大です。新卒採用は何か月も時間をかけて数十社の試験を受けることが一般的です。

その中でようやく決まった会社から内定の取り消しをされると、精神的負担は大きいでしょう。内定から取り消しまでの間に、別な企業を受けることもできたはずですので、貴重な時間をムダに奪うこととなります。

人生のターニングポイントとも言えるこの時期に内定取り消しをすることは、内定者の人生を狂わす可能性をはらんでいます。内定者も既存の従業員と同じレベルで対応すべきでしょう。中途採用の場合は内定から入社までの期間が短いため、不利益を被る可能性は低いですが、新卒採用の場合は入社までの期間が長いため、トラブル発生の可能性が高いのです。

内定取り消しが可能な場合

一方で内定取り消しができる場合もあります。内定取り消しができるのは、内定者が留年した場合や犯罪を犯した場合など、内定者側のトラブルのケースです。病気やケガで働けなくなった場合や虚偽申告も内定取り消し理由に該当します。

企業側の事情の場合は、経営が困難になり、整理解雇が必要な場合です。もちろん安易な整理解雇はできず、必要性や妥当性が客観的で合理的でなくてはなりません。要するに、社会通念上やむを得ない事情がある場合にのみ内定取り消しができる可能性があるのです。

企業側・法務が知るべき注意点

ここまで紹介したように、一旦内定を出した企業は安易に取り消しができません。もしも内定者の取り消しをしてしまった場合には、さまざまなリスクがあります。ここでは内定取り消しのリスクと、実際の判例について紹介します。ぜひ企業経営者や法務担当者は把握しておきましょう。

内定取り消しのリスク

内定取り消しをしてしまうと、取消された人から訴えられる可能性があります。内定取消をした場合、たとえば予定年収+慰謝料で、数百万円の支払いが求められる可能性があります。また金銭面の話しだけではなく、企業ブランドにキズが付く可能性があります。

内定取り消しの内容がメディアで報じられたり、口コミで広がるなど、ボディーブローのような打撃も考慮しなければなりません。取引先に悪い印象が付くほか、今後の採用にも影響を及ぼすでしょう。

内定取り消しの判例

内定取り消しの判例を2つほど紹介します。1つは大日本印刷事件(昭和54年)です。入社2カ月前に陰気な印象という理由で内定取り消しを行いました。企業側の言い分は、陰気な印象を打ち消す材料が出る可能性を考慮して内定したが、それが出なかったため取消したとのことです。しかし、解約権の濫用として原告側が勝利する結果となりました。

もう1つはHIV感染者の内定取り消し事件(札幌地判令和元年)です。HIV感染の事実を隠した内定者を取り消し、裁判となりました。しかし、差別や偏見が解消されていない社会の中で、HIVに感染していると告げる義務はなく、内定取り消しは不当という結果となりました。

内定取り消しは通知義務がある

もしも内定取り消しをした場合には、通知義務があります。通知先は、所轄のハローワークまたは学校の長とされています。これは職安法施行規則第35条第2項に規定されていますので知っておきましょう。ちなみに罰則規定はありません。

コロナ事情でも急な内定取り消しはできない?法務が知るべき注意点:まとめ

内定取り消しはされた側にとって大きな不利益となります。ほかの企業に採用される機会損失となるため、人生設計に影響するでしょう。採用する企業側は社会通念上、客観的かつ合理的な事情がなければ内定取り消しができません。内定を出す際にはそういったことも踏まえて慎重に行いましょう。

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