パーソル総合研究所の調査によると、新型コロナの感染拡大で2020年4月7日に7都道府県を対象に緊急事態宣言が行われた直後にはテレワークの実施率(全国平均)が前月の2倍以上に伸びたのですがその後低下傾向が見られます。
一方、情報処理推進機構(IPA)のIT企業の従業員及びIT部門の担当者を対象とした調査では、2020年の10月には60%近い利用者がいるという結果も。
テレワークについては、業種や事業規模などによって導入に対する必要性や課題が異なるため、より個々の企業が置かれている状況をより細かく捉えなければ真の普及状況を把握するのは難しいと思われます。
そこで今回は、異なる機関や企業が実施した3つの調査データを基にテレワークの普及状況を色々な角度で捉えるとともに、新しいステージに向けた画期的なテレワークの導入事例を紹介します。
各種データにみるテレワークの普及状況
厚労省のテレワークポータルサイトで紹介されている「海外のテレワークの導入状況」では、2015年米国85%、2010年英国 38.2%、同年ドイツ 21.9%、日本は2018年でも19.1%と低い水準でしたが現状はどうでしょうか。
パーソル総合研究所の調査
総務省の通信白書にも引用されているパーソル総合研究所の調査は、昨年の3月から断続的に計4回実施されています。そのため、テレワークの実施率の推移を把握するには最適の調査データと思われます。
< 調査方法 >
■調査期間:2020年3/9〜3/14、4/10〜4/12、5/29〜6/2、11/18〜11/23 ■ 調査対象:全国の就業者20~59歳男女、勤務先従業員人数10人以上 正規雇用 n=19,946 非正規雇用 n=2,973 ※主に正規雇用の従業員の数値を用いて分析。 |
< テレワーク実施率(全国平均)の推移 >
全国平均では2020年4月7日の緊急事態宣言の直後の27.9%をピークとし少しずつ低下が続き、新型コロナ感染拡大の第三波が来ている時期でも24.7%にまで減少しています。
また、直近の11/18〜11/23の調査では、従業員の増加に比例してテレワークの実施率も高くなる傾向が見られ、100人未満では13.1%なのですが1万人を超える大企業では45%と大きな開きがあります。
< 業種別の実施率の分布 >〜10% | 医療、介護、福祉 等 |
11〜20% | 建設業、運輸業、宿泊業、サービス業、娯楽業、教育業 等 |
21〜30% | 製造業、電気・ガス・水道業、卸売業、小売業、不動産業 サービス業 等 |
30〜40% | 金融業、保険業 等 |
40%〜 | 情報通信業、専門・技術サービス業 |
人が直接行動しなければならない業種では実施率が低く、デジタル化が進んでいる情報系の業種では実施率が高いことが分かります。テレワークの導入にが、事業規模だけではなくIT技術の利用可能性も影響しているようです。
経団連の調査
パーソル総合研究所よりも新しい今年の調査データを日本経済団体連合会が公開しています。これは、2021年1月に実施された緊急事態宣言の対象地域にある企業のテレワーク実施状況調査になります。
< 調査方法 >■調査期間:2021年1/15〜1/22 ■調査対象:緊急事態宣言の対象地域である11都府県※の1,468社を対象とし、505社から回答を得た。 ※東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県 |
このデータは緊急事態宣言の対象地域にある企業が対象なので、テレワークに対する関心は全国平均よりも高いことが推測できます。しかし、ここでも事業規模によってテレワークの実施状況が大きく異なっています。
経団連は、各企業がテレワーク推進のためにどのような対策を行ったかについても調査しています。
< 昨年4月の緊急事態宣言以降、テレワークの推進のために実施した対応 >
緊急事態宣言の対象地域においては、95%の企業がテレワークに必要な何らかの環境整備を行なっていたことがわかります。また、テレワークの導入には業務プロセスの見直しや人事制度の改定などを1つのパッケージとして進めなければならないこともこのデータから読み取ることが出来ます。
IPAの調査
経済産業省所管の情報処理推進機構(IPA)でも、IT関係者を対象としたテレワークに関する調査を行なっています。
■調査期間:2020年11/2〜11/13 ■調査対象:IT企業の従業員 1,327人、IT部門の担当者 1,045人 ※リサーチ会社の登録モニター |
IT関係者のテレワーク導入状況は58.9%とパーソル総合研究所の多業種の全国平均と比べると2倍以上の水準です。その中の92.7%が2020年4月7日の緊急事態宣言以降に導入していることから、新型コロナの感染拡大がテレワークの導入を加速させたと言えるでしょう。
< テレワークの実施頻度 >
テレワークの実施率の高いIT関連の従業員でも、実際に業務を行う上で完全にテレワークに移行しているのは約1/4で、大半はまだ社内業務が中心となっています。IT環境が整備されていてもテレワーク中心に業務を行うにはまだ解決しなければならない課題があるようです。
その課題の一つに「テレワークに対する不安」があり、64.8%の人はセキュリティ関連の不安を感じています。
< テレワークの実施で不安に思うこと>
端末の盗難 | 30.1% |
端末の紛失 | 29.5% |
端末を通じた情報漏えい | 25.1% |
会社のシステム・ネットワーク、テレワークのために 使うリモートアクセスツールのセキュリティ | 20.7% |
Web 会議ツールのセキュリティ | 17.9% |
セキュリティインシデント発生時の対応 | 17.4% |
ネットワークの盗聴 | 16.6% |
クラウド・SNSのセキュリティ | 13.3% |
その他 | 0.6% |
3つの調査結果から見えてくるのは、テレワークを導入するためにはいくつかのハードルを乗り越えなければならないということ。
そのためには、① IT技術を利用した事業運営、② 通信インフラの整備、③ 業務プロセスの変更、④ 人事制度の見直し、⑤ ネットワーク全体のセキュリティ対策などが実現できるかどうかにかかっています。
昨年の中頃から一部の企業ではコロナ対策のためのテレワークから、本格的な働き方改革のためのテレワークへとシフトする動きが出ています。その中で前述の5つのハードルを全てクリアする大胆な方針を打ち出した富士通の事例を紹介します。
富士通の事例
富士通は2020年7月6日に「ニューノーマルにおける新たな働き方「Work Life Shift」を推進」というタイトルのプレスリリースを発表しました。その中で、2022年度末までにオフィス規模を現状の50%程度に最適化するとしています。
Work Life Shiftは、「Smart Working」、「Borderless Office」、「Culture Change」の3つの柱から構成されています。
Smart Working( 時間や場所をフレキシブルに活用 )
- 全社員フレックス勤務を原則とする
- 通勤定期券を廃止する
- テレワークと出張で単身赴任を自宅勤務に切り替える
- テレワークの補助として1人月額5千円を支給
- 全社員が「会社支給のスマートフォン」または「BYOD※」を選択できる
※BYOD(Bring Your Own Device):社員のスマートフォンやPCなどを業務で利用すること。
Borderless Office( 自由な勤務場所と多様なオフィス )
- 最先端機能を備えた「ハブオフィス」を全国に設置
- ハブオフィスと同等のインフラ環境を備えた「サテライトオフィス」を用意
- 主要駅周辺に「ホーム&シェアドオフィス」を多数設置
- 業務プロセスの見直しとデジタル化の推進
- セキュリティーを強化したグローバルなネットワークの構築
- 位置情報システムにより各オフィスの利用状況を可視化
Culture Change( 社員の高い自律性 × ピープルマネジメント改革 )
- 管理職者を対象としたJob型人事制度の導入
- AIによって働き方を可視化
- 請負・派遣社員の働き方にもテレワークを導入
富士通のWork Life Shiftの特徴は、グループ社員約80,000人を在宅勤務にシフトするために、多様なオフィスや安全なネットワークなどのインフラ整備だけでなく、補助金の支給や人事制度の見直しなどのきめ細かな対応が際立っているところです。
2度目の緊急事態宣言で、テレワークは本格的に普及するのか?:まとめ
テレワークの普及について3種類の調査結果を基に幾つかの視点で説明してきました。新型コロナ感染拡大に伴う2度の緊急事態宣言は、通勤を抑制するための一種の緊急避難策としてテレワークを導入する企業を増やしましたが、本来のデジタル化社会に向けた働き方改革のために導入する企業はまだ少ないようです。
我が国の企業のうち99%以上を占める中小企業が本格的にテレワークを導入するためには、テレワーク支援のための助成金の充実や低価格で利用できるシェアオフィスの普及など社会的なインフラの構築も必要となるでしょう。 その中で、富士通の大きな挑戦「Work Life Shift」は、テレワークの本格普及に向けた大きな流れをつくる鍵を握っているのかもしれません。