執行役員制度は、当初、取締役会の規模適正化の方策として設けられたものです。現在では多くの企業が執行役員制度を導入しており、活用方法も多様化しています。この記事では、会社法に基づく取締役とは異なる執行役員を企業に置くことの意義について解説していきます。
執行役員とはどんな役割の役職なのか
企業に執行役員を置く意義を知る前に、まず執行役員とはどんな役割を果たす役職なのかについて押さえておきましょう。
取締役と執行役員の違い
会社法で定められた役員は、「取締役」「監査役」「会計参与」があります。このうち、会社の経営を担う責任者が取締役です。取締役は、経営方針や重要事項に対する決定権があります。
一方、執行役員は会社法で定められた役員ではなく、任意の制度です。取締役会の決定方針に従って、会社経営に関する責任者として業務を行う立場であり、会社経営や重要事項に対する決定権はありません。
執行役員は従業員
執行役員は、会社法上の位置づけがない役職であるため、「役員」という名称がついていますが、社内用の呼称という扱いになります。立場は、会社の従業員です。
したがって、給与は役員報酬ではなく、従業員給与として支払われます。
ただし、執行役員が一般的な従業員と異なる点は、会社法上の「重要な使用人」という身分を有しているということです。会社法第362条第4項第3号では「支配人その他の重要な使用人の選任及び解任は、取締役会の決議が必要」とされており、執行役員への専任及び解任については、取締役会の決議を要します。
企業に執行役員を置く意義とは何か
それでは実際に執行役員を置くことで、企業にとってどのような意義があるのかを解説していきましょう。
取締役会のスリム化により意思決定機能が強化される
経営責任者と業務責任者が混在する従来型の取締役会の場合、構成メンバーの数が多数になるという傾向がありました。
1997年にソニーが日本で初めて執行役員制度を導入しましたが、当時の上場企業の多くは、30名~40名の取締役がいるのが一般的な体制でした。このため、経営の意思決定に時間を要するといった弊害が生じ始めており、ソニーにおいては、執行役員制度の導入により、38名いた取締役を10名まで減らすことができました。
その後追随した他社においても、執行役員制度の導入によって、取締役の大幅削減を実現させています。
執行役員制度の導入によって取締役会をスリム化することで、意思決定機能の強化が図れるようになります。
会社全体を見通した経営戦略が決定できる
執行役員制度は、「経営の意思決定や監督機能」と「業務執行機能」を分離させることを目的の一つとしています。
従来の事業部門のトップが構成する取締役会の場合、ある事業部門が大きな問題を抱えていることが明白であっても、他部門から口を出しづらいという側面がありました。また、会社全体の利益になる戦略が提案されても、自己部門の方針とのジレンマに陥ることがあり、ややもすれば近視眼的な発言に終始してしまうことがあります。
経営と執行者が兼務していると、会社全体を俯瞰することができなくなるという弊害が生じることがありますが、経営と業務執行者を分離させることで、会社全体を見通した経営戦略の意思決定ができます。
取締役は経営に専念できる
執行役員制の導入によって、取締役会の役割は、経営上の戦略的な意思決定を行うこと及び経営の監督を行うことに専念することができます。
一方で、執行役員は、取締役会が決定した基本方針に従い、業務執行を分担して、それぞれが担当する分野において業務を遂行することができます。
優秀な若い人材を登用できる
現在の日本の企業では、たとえ優秀な人材であっても、年齢の若い社員をいきなり取締役に選任することは、周囲との軋轢等から実現が困難な状況です。将来の取締役候補を執行役員に登用することで、実績を築く足掛かりになるともに、業務自体も活力のある体制を築くことが可能になります。
社内の風通しがよくなる
執行役員制度を導入することで、取締役の考えを従業員に伝えやすくすることが可能になります。また反対に、従業員の声を把握することで、現場で起こっている状況を取締役に伝えることができるようになります。
執行役員が、取締役と従業員を繋ぐ役割を果たすことで、会社の風通しがよくなるという利点が生まれます。
執行役員の給与は損金扱いになる
取締役の役員報酬は、経費とすることはできませんが、執行役員は従業員として扱われるため、経費とすることができます。
会社法の手続きがいらない
執行役員は会社法や商業登記法上の役員ではないため、手続きや届出は不要です。このため、重責を担う役職者であっても、スピード感のある人事を行うことが可能になります。
委任型の執行役員制度を導入する意義
取締役が経営責任を負う立場であるのに対して、執行役員は基本的に経営責任を負うことはありません。
しかし、執行役員が経営陣の幹部として重要な役割を果たしているのであれば、経営責任を負うべきではないかという考えから、近年、執行役員を雇用型から委任型に切り替える企業が増えています。
この委任型の執行役員制度を導入することは、企業にとってどのような意義があるのかについて解説していきましょう。
経営責任を負う委任型
委任型の執行役員は、忠実義務を負うことになります。忠実義務とは、「受任者は委任者と利益が衝突する立場に地位を置いてはならず、ひたすら委任者の利益を図らなければならない」というものです。
これにより執行役員は、善管注意義務と忠実義務を負う取締役と事実上変わらない義務を負うことになります。
取締役は、会社法第330条で「株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う」とされています。一方、民法第644条では「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」とされており、委任型の執行役員は、取締役と同等の義務を負うことが分かります。
委任型の執行役員は労働関係法令が適用されない
従来の雇用型であれば、執行役員は労働関係法令の規定による雇用保護を受けるために、たとえ経営上の結果が伴わなかったとしても、解雇される心配はありません。
しかし、委任型の執行役員には労働契約法や労働基準法は適用されません。このため委任型の執行役員は、委任契約を順守するために、経営上のパフォーマンスをあげることに腐心することになります。
委任型と雇用型の併用もある
委任型の執行役員は、成果が期待できる一方で、成果が出せなかった場合は、執行役員を解任されるというリスクがあります。この場合、たちまち雇用先を失うことになり、再度雇用契約を締結する流れになります。しかし、これでは、身分の不安定さから、執行役員への昇進を躊躇う人がでてきてもおかしくありません。
このため、委任型の執行役員制度の利点を有効に活用できるように、上級執行役員や取締役の執行役員は委任型の執行役員として、その他の執行役員は雇用型とする方法を採用する企業もあります。
企業に執行役員を置く意義:まとめ
執行役員制度は、もともと取締役会の規模適正化を図るために設けられたものでした。しかし、時代の流れとともに雇用型から委任型の執行役員への導入が促進されるなど、現在では、常に発展し成長を遂げていく制度として活用されるようになっています。
一方で、執行役員は、依然として会社法による法根拠のない任意の制度です。換言すれば、執行役員制度は、企業の実態に合った方法が模索されている段階ともいえます。今後、各企業で経営戦略を見直すうえで、執行役員会のあり方の検討は、避けて通れない重要な課題だといえます。