長時間労働やハードワークにより、自殺をする従業員がいらっしゃいます。うつ病などの精神疾患になったことにより、冷静な判断ができなくなり、自ら命を落すという判断に追い込まれてしまうのです。この記事では電通の過労死事件を例に、企業法務が学ぶべき教訓を解説します。
電通の過労死事件のポイント5選
仕事が苦しい場合でも、通常の精神状態であれば退職すれば良いと考えるかも知れません。しかし、過労などにより、うつ病になってしまった場合、冷静な判断ができなくなります。精神的に追い込まれた結果、自殺という最悪の結果を招いてしまうのです。
国内屈指の規模を誇る広告代理店「電通」は、社員が過労死自殺をしてしまう事件を起こしてしまいました。そして、最高裁が平成12年3月24日に安全配慮義務違反を初めて認定した事件でもあります。電通の過労死事件のポイントについて5つ解説します。
過労が原因でうつ病を発症
電通過労死事件とは、2015年に新入社員Aさんが、慢性的な長時間労働によって、うつ病を発症し、入社からおよそ1年5カ月後に自殺したという事件です。両親が電通に対して損害賠償請求をした結果、安全配慮義務違反が初めて認められ、約1億6,800万円の損害賠償で和解となりました。
過労自殺の業務上・外認定
自殺というのは本人が自分で意思決定をしているため、「故意の死亡」として労災対象外となっていました。しかし、電通事件の判決では、自殺してしまったことと業務との間に因果関係が認められました。うつ病を発症していなければ自殺に追い込まれることもなかったですし、長時間労働でなければうつ病が発症することもなかったため、長時間労働と自殺の関連が認定されたのです。平静な精神状態の人であれば、退職すれば良いと考えるかも知れませんが、うつ病になると正常な認識や判断ができなくなるため、最悪の結果を招くことになったのです。
安全配慮義務違反
使用者は従業員の安全に配慮しなければならず、本判決では心身の健康にたいする注意義務も、安全配慮義務に含まれるとしています。亡くなったAさんの上司らが、長時間労働であることや、健康悪化を知りながら、対策を取らなかったことで安全配慮義務違反が認定されました。これにより電通側の過失が認められることになったのです。
過失相殺
二審である東京高裁の判決では、Aさんの性格により、損害賠償3割減額としていました。それは、Aさんが真面目で責任感が強く、完璧主義という性格が、うつ病を引き起こしやすいとの見解だったからです。
しかし、最高裁は、個人の性格を賠償額の算定に含めるべきでないとの見解で、3割減額を違法と示しました。
1991年にも自殺あり
電通は1991年にも従業員の自殺事件を起こしています。2015年の過労死事件が記憶に新しいかも知れませんが、もともと電通事件とは1991年の事件を指します。24歳の男性社員が入社2年目に、過労やパワハラにより自ら若い命を絶つ結果となりました。この事件が社会に過労死という概念を提示したのです。
企業法務が学ぶべき教訓
電通のような事件を起こしてしまうと、企業側にもダメージとなります。損害賠償の支払いや企業イメージ低下など、経営にマイナスとなるでしょう。このような悲しい事件を起こさないために、教訓とする必要があります。では、学ぶべきポイントを見て行きましょう。
損害賠償の支払いを命じる判決
先述のとおり、電通事件では遺族に対して損害賠償の支払いが命じられました。実は電通事件をきっかけに、過労死の遺族が企業に対して損害賠償請求することが増加したようです。このような世の中の動きも踏まえ、適切な労働環境を整える必要があります。もちろん、法務だけでできることではありませんので、経営陣に進言するなど、教訓を活かす動きが必要です。
労働基準法違反で書類送検
電通は労働環境の是正勧告をたびたび受けていましたが、改善していなかった上での過労死事件でした。労働基準法違反で書類送検され、いつしかブラック企業の代名詞となったのです。賠償金以外のペナルティーは計り知れないという認識が必要です。
働き方改革の推進
過労死事件を防ぐためには、働き方改革が急務です。時短勤務や在宅ワークの利用、健康経営などもふまえ、さまざまな工夫で労働環境を改善する必要があります。長時間残業は経営側から従業員への甘えであり、無理な投資です。働き方改革法案が世間を賑わしていますが、法律の前に自社でできる取組を行いましょう。
企業法務が学ぶべき教訓とは:まとめ
電通事件にあるように、長時間労働やハードワークにより、自殺をする従業員がいらっしゃいます。自殺は通常の精神状態であれば回避できますが、うつ病などの精神疾患になってしまうと、回避できないことがあります。電通事件では、業務と自殺には因果関係が認められましたので、これを教訓として働き方改革を推進しましょう。