民法上の「時効」についてご存じでしょうか。よくニュースで耳にするのは、犯罪者が捕まらなくて、時効になるという刑法上の「公訴時効」の話です。
今回は、民法上の時効、その中でも「消滅時効」について解説をしていきます。
消滅時効の概要
「消滅時効」の定義から確認していきましょう。まず、「時効」とは、一定の事実状態が永続した場合に、その事実状態が真実の権利関係に合致するか否かを問わず、その事実状態をそのまま尊重し、権利として認めるものです。「時効」には「取得時効」と「消滅時効」がありますが、中でも、消滅時効は、ある一定期間、権利を行使しなかった場合に権利が消滅するものです。
例えば、債権者が債務者に対して、売掛債権を有しているが、一定期間、その請求をしなかった場合には、売掛債権が消滅し、なかったことになってしまうというものです。
では、なぜこのような事が法律で認められているのでしょうか。
消滅時効が認められる理由
時効の制度趣旨については、争いはありますが、①永続した事実関係を尊重すべきであること、②長い年月が経過したことによる真実の権利関係の証明の困難性からの救済が必要であること、③権利の上に眠る者は保護に値しないということ、という3つが時効の制度趣旨といわれています。消滅時効においては、③が特に関係します。債権者であっても長期間代金請求等を怠っていた者については、いくら権利者であっても保護に値しないというわけです。
次に、消滅時効の完成の要件について確認していきましょう。
消滅時効が認められるための要件
①債権者が権利を行使できることを知った時(債務者が誰であるか知ることも含む)から5年間、又は、②権利を行使できる時から10年間で消滅時効が完成することになります。ここで②「権利を行使できる時」とは、権利の行使に法律上の障害がないという意味です。②「権利を行使できる時」を客観的起算点といいますが、この客観的起算点は債権の種類によって異なります。
具体的にみていきましょう。
(1)期限付き債権の場合は、「期限が到来したとき」が客観的起算点になります。
(2)期限のない債権は、「債権が成立したとき」が客観的起算点になります。
(3)期限の利益喪失特約付き割賦払い債権というものがありますが、これは債務者が一回でも支払いを遅滞すると、期限の利益が喪失する旨の特約がついている債権のことをいいます。この債権については、債務者が支払いを遅滞した場合でも、各割賦払い債務の約定弁済期の到来ごとに、順次消滅時効が進行をはじめるのが原則となっています。なお、債権者が残債務全額の弁済を求める意思表示をした時は、その時を客観的起算点として消滅時効が進行を開始します。
(4)履行不能に基づく損害賠償請求権は、「本来の債権の履行を請求できた時」が、客観的起算点になります。
(5)契約の解除による原状回復請求権は、「解除権を行使した時」が客観的起算点になります。
時効にさせないために
それでは、消滅時効の完成を防ぐために、債権者側はどのような事をすればよいでしょうか。
時効の完成前に一定の事由が生じた場合には、①時効の完成が一時猶予され、または、②それまでの時効期間のカウントがリセットされ新しい時効期間が進行を始めることになります。①を時効の完成猶予といい、②を時効の更新といいます。
民法147条1項に、時効の完成猶予の規定があります。裁判上の請求(訴えの提起)、支払い督促の申立て、裁判上の和解・民事調停・家事調停の申立て、倒産手続き参加がなされると、その事由が終了するまで、時効の完成が猶予されることになります。
そして、民法147条1項の完成猶予が生じた後、確定判決又は確定判決の同一の効力を有するものによって権利が確定した場合には、時効の更新の効果が生じます。
では、裁判上の請求ではなく、債権者が債務者に対して、書面又は口頭での直接の請求を行った場合には、時効の完成は猶予または更新されるのでしょうか。この裁判外における請求を「催告」といいますが、催告がなされると、その時から6カ月を経過するまでの間、時効の完成が猶予されるにとどまりますが(民法150条1項)、催告をして、債務者が「権利の承認」をすると時効の更新の効果が生じます(民法152条1項)。権利の承認とは、権利者に対して「権利の存在を認識していることを表示」することをいいます。具体的には、時効の完成前に債務者が債権者に対して支払い猶予を願い出る行為や、時効の完成前に債務の一部を弁済する行為、時効の完成前に債務者が利息を払う行為についても元本に対する承認にあたるとされています。
消滅時効の完成を防ぐために企業側が債権者となった時に気を付けるべきことは、まず、誰にどのような債権を有しているか確認し、しっかり管理することです。支払いが滞っている場合には、債務者に対して催告し、それでも支払うそぶりを見せないようなら裁判上の請求、すなわち、訴えの提起等をして消滅時効の更新をするようにしましょう。