2021年7月、大手総合電機メーカーの三菱電機による組織的な不正が発覚し、大きな注目を集めています。今回の記事では、本件の具体的な内容や組織的な不正の背景にある原因をご説明します。
三菱電機の組織的不正とは
今回明らかになった組織的不正とは、鉄道車両用の空調装置、およびブレーキやドアを動かす上で必要な空気圧縮装置について、不正な検査を実施し、虚偽の結果を報告していた問題です。
この章では、組織的不正が発覚した経緯や不正検査の時期・場所、具体的な不正の内容をお伝えします。
組織的不正が発覚した経緯
本件の組織的不正は、6月14日に行った社内調査で判明しました。ヒアリングの対象となった同社の従業員160名のうち、およそ2割は不正検査を把握していたとのことです。
本件の原因究明や同事象の有無を調査する目的で、同社は外部の弁護士などを含む調査委員会を設置し、全社調査を行う予定です。調査の結果は、9月に発表されるとのことです。
なお新しい体制で信頼回復に取り組む目的で、社長である杉山氏が辞任することになりました。
不正検査が行われていた時期・場所
不正検査は、長崎県時津町にある長崎製作所で行われていたとのことです。三菱電機によると、空調装置の不正検査は1985年ごろから、空気圧縮機の不正検査は約15年前から行われていたとのことです。
過去に出荷した約8万4,600台の空調装置、約1,500台の空気圧縮機が不正検査の対象となった可能性があるとのことです。
不正検査の具体的な概要
一連の報道、および三菱電機の発表によると、具体的には下記に挙げた不正検査が行われていたとのことです。
本来の検査内容 | 実際に行われた不正検査の内容 | |
空調装置の過負荷試験 | 事前に定められた湿度・温度の空気を吸わせる | 工場内の常温で検査を行った |
空調装置の防水検査 | 事前に定められた雨量を降らせる | 水を貯めて防水性を確認した(雨を降らせなかった) |
空調装置の形状・寸法検査 | 事前に顧客と決定した寸法となっているかを検査する | 部品の検査を積み上げたのみ(完成品の検査を行わなかった) |
空気圧縮機の形式検査 | 規格に基づいて検査を行う | 顧客から許可を得ずに、設計変更が影響しない部位について、先行機種のデータを転用していた |
数々の不正を行ったものの、三菱電機側は安全性に問題はないと述べています。
三菱電機で組織的な不正が行われた背景・原因
三菱電機で組織的な不正が行われた背景には、大きく下記3つの原因があります。
原因1:自社の技術力や基準の絶対視
まず1つ目の原因は、自社の技術力や品質基準を絶対視していたことです。1952年に「品質奉仕の三菱電機」という社是を定めて以来、同社は品質第一に製品を作り続けてきました。
その結果、同社は国内における鉄道車両用機器のシェアで6割を有したり、世界トップクラスの特許出願件数を誇ったりするなど、自他共に認める品質に強みを持つ企業となっています。
こうした背景から、「自社の品質基準を適用すれば問題ない」という考えが社内の常識となり、当たり前に不正検査が行われていたと考えられます。事実、辞任した杉山社長も「おごりがあった」と述べました。
原因2:組織存続や利益追求の優先
2つ目の原因は、法令遵守の考え方よりも、組織の存続や利益の追求を優先する組織文化が根付いていたことです。
2000年代以降、電機業界の経営環境は厳しい局面を迎えています。それに伴い、社内の各事業部は組織の生き残りのために、利益を優先する姿勢を迫られていたとのことです。利益を優先するあまり、不正検査の実施を軽視していたと考えられます。
原因3:部門間の連携不足、上司と部下の情報共有不足
3つ目の原因として挙げられるのが、タテ・ヨコ間の連携や情報共有が不足していたことです。
他の電機メーカとは違い、三菱電機はインフラシステムの部品供給をメインに行ってきました。そのため、それぞれの部品を製造する各部門の連携があまり行われていませんでした。実際、「同じフロアにいても、部署が違う社員とは全く会話しない」と述べた社員がいるほどです。
また報道によると、上司と部下の間での情報共有も満足にできていなかったとのことです。
こうした連携や情報共有が不足していたことで、経営陣や他部署の社員が不正を監視・改善する仕組みが整わなかったと言えるでしょう。
相次ぐ不正や職場環境、問題公表の手順など、数々の点が問題視されている
これまで三菱電機では、相次いで品質管理の不正が問題となってきました。また、2010年代には、過労を原因とする自殺が相次いで起きるなど、職場環境も問題視されています。
加えて、本件の問題をあらかじめ認識していたにもかかわらず、株主総会で問題を株主に公開しなかったことも批判を集めています。
まとめ:三菱電機の組織的な不正の背景と内容
今回ご説明したように、本件に限らず三菱電機では相次いで問題が生じています。同じような問題が続けざまに生じている背景には、前述した「部門間の連携不足」や「利益追求の優先」など、組織全体や経営体制に根本的な問題があると考えられます。
今後同社が信頼を回復し、同様の問題を生じさせないためには、組織風土や経営体制を抜本的に改革する必要があるでしょう。